世界GPへの挑戦から誕生したホンダ・アナザーストーリー! 「VFR」から「RC213V-S」へ

ホンダを代表する歴代の“CB”シリーズを目の当たりにすることができ、バイクファン垂涎の光景となっています。そんななか筆者は、ひときわ異彩を放つ“VF”シリーズにも熱視線を送らずにはいられません。

ツーリングユースにも使えるオールラウンダーへ

 サーキットで誕生したホンダV4エンジンですが、市販車としては1982年、北米市場を視野に入れたクルーザータイプ「VF750セイバー」や「VF750マグナ」でデビューを果たします。同年には市販車初の角型断面パイプのダブルクレードルフレーム採用の「VF750F」も発売され、優れたパフォーマンスと戦闘力をデイトナ200マイルレースを始めとする数々のレースでの勝利によって実証していくのでした。

1994年鈴鹿8時間耐久レース優勝車「RVF/RC45」

 83年に「RS850R」を開発すると、翌84年には「RS750R」でル・マン24時間耐久などのビッグレースをことごとく制します。84年には市販二輪車としては世界初のカムギアトレイン採用の「VF1000R」もリリースし、ホンダV4の存在感をますます強めていきます。

 1987年の「VFR750R/RC30)」をはじめ、1994年の「RVF/RC45」などレーサーレプリカ路線を歩んだホンダV4ですが、1998年発売の「VFR」はストロークを2mm延ばして排気量を781ccとし、ツーリングユースも視野に入れるスーパースポーツツアラーを名乗って新境地に足を踏み入れます。スポーツ性と快適性を両立させ、トータルバランスを向上。“ハイテク・リアルスポーツ・マシン”とホンダが謳っていることからもわかるとおり、目指したのはレースで勝つことではありません。

 4年後のフルモデルチェンジでは、低速トルクと高速のパワーを両立する可変バルブ機構「VTEC」も搭載。低速回転域では4バルブのうち2バルブ(吸気1、排気1)だけが作動し、6,400回転を越えた高速回転域では4バルブすべてが作動するのでした。

「VFR1200F」2012年モデル

 2010年発売の「VFR1200F」では、シリンダーバンク角76度、28度位相ピンクランクシャフトによって、低回転域では力強くフラットなトルク特性、高回転域ではスムーズな吹け上がりを実現し、V4ビートとエキゾーストサウンドも追求しました。

 一体発泡成形シートで乗り心地や疲れにくさを向上し、ブレーキも6ポットラジアルマウントキャリパーを用いた前後輪連動ABSへと発展。スイッチひとつまで質感にこだわり、40~50代のベテランライダーをターゲットにしています。

いまなお記憶に新しい史上最大の衝撃!!

 高級志向という点では、まんまMoto GPマシンと言っていい「RC213V-S」(2015年)について触れないわけにはいきません。公道走行のために灯火類やライセンスプレートホルダーこそ追加装備しましたが、変更点は必要最低限にとどめ、ニュウマチックバルブがコイルスプリング式に、シームレストランスミッションをコンベンショナルな通常タイプに変更しています。価格はなんと2190万円(税込み)で、究極の1台として知られています。

2015年に発売された「RC213V-S」

 このようにホンダV4シリーズは、じつに多様性に富んでいるのでした。70年代後半に世界最高峰のレーシングシーンで生まれ、そこで大きな成果が得られないとなれば、市販車としては意外にも北米市場を視野に入れたクルーザーとしてデビュー。

 しかし数々のレースで実力を発揮し出すと、今度は究極のレーサーレプリカを80年代、90年代、そして2015年の「RC213V-S」と、次々に登場させてきました。

VFR800X

 そしてスポーツツアラーを経て、現在は「VFR800F」と「VFR800X」がラインナップされています。

【了】

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Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。

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