カスタムの世界から生まれたハーレーの“ソフテイル”モデル エヴォリューション・エンジンと共に倒産の危機を救った存在とは?
ハーレー・ダビッドソンのモデルの一つである「ソフテイル」は、1984年に初代が登場して以来、同社の主力車種としてその地位を築いています。意外なことにこのソフテイル・ファミリーは、カスタムバイクが起点となり、生み出されたものでした。
今なお主力のソフテイルモデルの幕開け
ハーレー・ダビッドソン(以下:ハーレー)というバイクと切っても切れないものにカスタムという行為があります。古くは1971年に登場したFXスーパーグライドも、ユーザーたちがハーレーらしいビッグツインモデルであるFLにスポーツスターのフロント周りを取り付け、行っていたカスタムを参考にメーカーが開発したものであるといわれていますし、今回、開発のストーリーをご紹介させて頂く“ソフテイル”も、またしかりです。

1984年にハーレー初のオールアルミ・エンジンである“エボリューション”と時を同じくして、後のラインナップで主力となる画期的なシャシーが採用されたモデル “ソフテイル”が登場しました。
車体にリアサスを持たないリジッド・フレーム=ハードテイルに対して“ソフトなテイル”を意味する“SOFTAIL”(ソフテイル)と後に名付けられることになるそのシャシーは、リジッド・フレームのような外見でありながら、リア周りに三角形状のパイプで構成されたスイングアームと、メインフレーム下部にガス封入式のサスペンションを装備するものです。

この構造は、1981年に米国のミズーリ州にある社外パーツメーカー “セントルイスモーターサイクル”でデザイン・エンジニアとして働く“ビル・デイビス”という人物によって考案されたものでした。彼自身はその特許取得と同時に独立、 “ロードワークス/インダストリーズ”というメーカーを設立し、“サブショック”という名称のフレームを売り出したところ、ハーレー社から新型フレームのライセンスの譲渡と来るべき新型モデルの開発チームに加わることを依頼され、この“ソフテイル”というモデルが誕生するに至っています。
ハーレー社を倒産の危機から救ったソフテイル
こうした誕生の歴史を振り返ってみると、当時のハーレー社がカスタムの世界を注視し、そこで生まれた発想を柔軟に取り入れていたことが伺い知れるのですが、まさにこのソフテイルというモデルとエボリューション・モーターが倒産の危機に貧していたハーレー社を救ったといっても過言ではありません。
1981年当時、ハーレー社はAMF(アメリカン・マシン・ファンダリー社:1968年から1982年までハーレー社を傘下に治めた総合機械メーカー。ボウリングのピンセッターなどの生産で知られる)の傘下にあり、親会社であるAMFからの度重なるコストダウンの要請により、品質が劣悪化していたのですが、折しもそんな時代に同社の古参メンバーたちがAMFから会社の買い取りを画策。
1981年6月23日に、後に“BUY BUCK”(バイバック)と呼ばれることになるハーレー社の再独立と再建を果たすことになるのですが、その原動力の一つになったモデルが新時代を象徴する“ソフテイル”であったことは間違いありません。
実際、1984年にFXSTソフテイルとエボリューションモーターが登場して以来、ハーレーは工業製品としての信頼を回復し、多くの新規ユーザーを市場に招き入れることになりました。そしてこの流れが現在に続くハーレー人気の礎を築いたといっても過言ではないでしょう。

このソフテイルというモデルはカスタムベースとしても多くのユーザーやビルダーから受け入れられ、1986年には旧車イメージのFLSTヘリテイジソフテイルが誕生。更に1988年には40年ぶりに復活となったスプリンガーフォークを採用したFXSTSスプリンガーソフテイルなどの派生モデルも登場し、チョッパーや旧車レプリカ、ストリートドラッガーなど様々なスタイルのカスタムバリエーションに姿を変え、発展してきたのですが、こうした“素材としての守備範囲の広さ”も、このモデルの一つの特徴です。
その後、2000年から登場した後継機種であるツインカムモーターでは、それまでの鋳物によるネックと丸パイプの旧車的な構造のフレームからプレス成形によるネック部と角型フレームに仕様変更を受けつつも、変わらずこのモデルはカスタムの素材として多く用いられました。
また、2018年からはリアサスペンションの位置をフレーム下部からシート下へと変更し、カンチレバー方式(一端が固定端、他方が自由端)となったスイングアームを採用した新型フレームに、新設計の4バルブエンジンである“ミルウォーキーエイト”を搭載したモデルが登場しました。

メインフレームが剛性の高いスクエア形状となったゆえ、カスタムの素材としては、より工夫が求められるであろうことは否めませんが、クラシカルなスタイルの“ヘリテイジ”と、レーシーでハイテックなスタイルの“FXDR”がスイングアーム以外、共通するフレームであるという“スタイルの幅広さ”も相変わらず持ち合わせています。そうした結果を踏まえて考えても、これからも“ソフテイル”は“カスタムの素材”として主力であり続けるでしょう。
ハーレー・ダビッドソンというオートバイを語る上で切っても切れない関係にあるカスタムという行為……それが刺激的なマシンを生み、市場に熱を与えることでバイクの世界そのものが盛り上がることは、既に過去の歴史が証明しているのかもしれません。
【了】
Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)
ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。