富士山よりも高い場所へ一気に駆け上がる!? アメリカで続くシンプルな登山レースとは?

『第97回パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム』(アメリカ・コロラド州・2019年6月30日)に、3組の日本人チームが2輪で参戦しました。日本ではあまり馴染みのないこのレース、現地取材で得た情報をお伝えします。

標高4301mのパイクス山で頂上を目指すハイスピードレース

『パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(以下PPIHC)』は、1916年から続く古いレースです。標高4301mのパイクス山の頂上まで延びる有料観光道路の約20kmを駆け上がる登山レースです。

森林限界を超えると多くのコーナーはガードレールも何もなく、まるで空へ走っていくような様相を呈する。PPIHCのキャッチフレーズ「Race to the clouds(雲を目指すレース)」は誇張でなくむしろ控えめで、実際は雲の上を目指す

 2013年のエントリーリストを見ると、2輪83台、4輪63台、100周年記念大会となった2016年には2輪35台、4輪63台と、合計100台制限が設けられた。2019年は2輪27台、4輪58台となっており、2輪のエントリーは年々減りつつあります。なぜでしょう?

 そのきっかけとなったのは2012年の“全面舗装化”です。当然のようにレースはハイスピード化しました。

 それまでのPPIHCでは、10分台でフィニッシュすることが栄誉のひとつでしたが、2013年には8分台、2018年には7分台の記録が生まれました(いずれも4輪)。

 2輪も高速化しており、現在のレギュレーションでは市販状態でセパレートハンドルの車両は参戦できません。事実上スーパースポーツ禁止ということです。

 そんなPPIHCですが、そこへ挑む魅力とはいったい何でしょうか?

 公道レースゆえ常に危険と隣合わせであること。ゴール地点が標高4301mという非日常的な環境であること。ひたすら駆け上がる登山レースというシンプルなレース形態。ほかのレースでは見られないユニークな車両の数々。2輪と4輪の併催。それらを統合する「偉大なる草レース」ともいうべき空気感……そうした要素が、PPIHCのおもしろさだと言えるでしょう。

選手受付を済ませ別会場へ移動して車検を受ける日本からの参戦チーム。軽微な違反ならその場で合格とし、走行までに対処すればOKなど多少のゆるさはある

 さらに、PPIHCは変革期にあることも注目したいポイントです。

 2013年から3回参戦した伊丹孝裕さん(元二輪専門誌編集長を経てフリーランスとして活動中)は以下のようにコメントします。

「全面舗装化によって、それまでのオフロードレースからロードレースに変わり、言ってみれば誰も知らないレースになった。だからこそ勝機もある」

公道レースゆえの難しさ、日本より高い場所から眺める光景

 レーススケジュールが週末だけではなく、1週間続くイベントになっていることも魅力のひとつかもしれません。

予選走行の様子。ライダーとそれを見つめる2人の少年。スタートゲートの向こうに見える冠雪した山がパイクスピークで、フィニッシュはその山脈の左手にあるやや平らな部分。スタートとフィニッシュで標高差は約1400m、距離19.99km、そして156のコーナーがある

 レースウィークは、アメリカ独立記念日である7月4日の前週日曜日が決勝レースとなるようスケジュールされています。

 2019年は6月24日(月)が車検、25日(火)から28日(金)が練習と予選、その後夕方から街の中心部でファンフェスタが催され、29日(土)は休み、30日(日)が決勝レースという具合です。

 もうひとつ特徴的なのは、4日間ある練習と予選走行は連日、午前5時30分から8時30分までの3時間と決められている点です。

 PPIHCのレースコースは、パイクス山へ登る有料登山道路を使いますが、じつはレースウィーク中でもこの道路が終日閉鎖されるのは決勝レース日だけで、練習と予選の4日間は有料観光道路がオープンする前、つまり一般客の邪魔にならない時間帯で行なわれるのです。

 そのため、エントラントたちは午前3時30分には登山道入口へ行き、ゲートオープンを待ち、まだ暗い夜の山中でピットを作って走行準備を整え、夜明けとともに走り出します。

標高3779m付近、ほぼ富士山頂と同じ高さから望む夜明け。この日はめずらしく雲がなく、まるで定規をあてて線を引いたような、まっすぐな地平線からじわじわと昇る太陽を見ることができた。こうした光景に出会えるのもPPIHCの大きな魅力

 日本人にとっては“富士山の頂上よりも高い場所”でレースをすることもそうですが、そんな場所で毎日夜明けを迎え、地平線から昇ってくる太陽を見つめる瞬間も、なかなかに至高のひとときなのです。

【了】

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Writer: 山下剛

男性誌や二輪誌の編集部を経てフリーランスのライター&フォトグラファーとして活動中。レース取材はもっぱらマン島TTとパイクスピークという海外の公道レースのみの偏食家。海外取材ついでにレンタルバイクツーリングが趣味で、いつかはそれで世界一周することを企んでいる。1970年東京生まれ。

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