バイク用ヘルメットの空力パーツにドキドキ フォーミュラに上がった時のワクワク感が蘇る ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.5~
レーシングドライバー生活35年、ヘルメットを毎年1個新調してきた木下隆之氏。四輪用ヘルメットは近年いびつな形に変化しつつある。二輪用ヘルメットの空力パーツを体感し、フォーミュラカーレースにステップアップした時のワクワク感が蘇ってきた。
四輪車用レースヘルメットは、近年ややいびつな形に変化
職業柄、ヘルメットはたくさん持っている。
最低でも毎年ひとつは新調するから、これまでの35年のレーシングドライバー生活を振り返れば、少なくとも35個のヘルメットが並ぶことになる。いくつかのカテゴリーを掛け持ちするシーズンもあれば、さらにその数だけ増えるという計算だから、おびただしい数のメルメットに身を守られてきたわけだ。

これほど多くのヘルメットを所持しているのは、工場で働く工員か、土木作業関係の方々をおいて他にはそう多くはおられまい。
ともあれ、最近のレース用ヘルメットはややいびつな形である。エアコンの冷気を導くためのホースを連結するからなのだ。

最近のレーシングカーにはエアコンが組み込まれている。といっても、コクピット内を冷気で満たしヒエヒエにするわけではない。掃除機のホースのようなダクトを、ヘルメットに開けた小さな穴に直結させ、そよ風程度のささやかな冷風を頭に導く。
見慣れぬ人には、煙突のようなパイプが突き刺しているのだから、得体の知れぬ恐怖感を抱かれよう。
バイク用ヘルメットには空力パーツが多く取り付けられている
そう、ヘルメットが多少球形ではなくともそれほど驚かない。だがバイク用ヘルメットに、レーシングカーもたじろぐほどの空力パーツが取り付けられていることを知ってドキドキしたのも事実なのだ。

頭頂部というか後頭部というか、バイクにしがみつき伏せた姿勢でちょうど頂点になる位置にそれはある。ヘルメットが時代劇の羽二重ならば、ちょうどチョンマゲを逆さまに付け加えたかのようである。
F1マシンじゃあるましい、目的は、空気の力を利用してタイヤを路面に押し付けることではないだろう。よしんば下向きの力、つまりダウンフォースがヘルメットに加わったら、ただただ首がグゥ~となるだけで、首のないジジイになるか、頚椎が損傷する。

フィンの角度がアジャスト可能だ。ダウンフォースが目的ではなく、整流させるためのフィンなのだろう。風の力をもろに受けても、ヘルメットがグラグラ揺れたり、首に負担を掛けぬためなのであろう。風の力をさらりといなすためだ。
「思う……」と曖昧に想像形で言ったのは、まだ空力を感じるほど速く走った事がないからだ。かつてフォーミュラカーレースにステップアップした時、角度調整式のウイングが装着されていて興奮した想いがある。
あのころのワクワクが蘇ってきた今年の夏。
【了】
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。