LEXUSのCMにストリートファイター投入 なんでレーシングドライバーがCM撮影!? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.6~

誰が見ても可笑しくない映像を作る!!クルマの動きは、クルマのプロがアドバイスすることで、クルマ本来の動きが表現できます。

クルマが登場するCMは自称プロのドライビングオタクでしか務まらない業務

 クルマのCM撮影を担当するようになって久しい。肩書は「ドライビングディレクター」である。劇車の仕様チェックからスタントドライバーの選考から、現場の動きから編集まで、クルマの動きに関するすべてに顔を出す。

「なんでレーシングドライバーがCM撮影?」至極ごもっともな疑問であろう。

クロアチアで撮影されたLEXUS IS のCM

 実はかねてから、クルマが登場する映画なりCMなりの作品を鼻で笑っていた、クルマ素人のクリエイターでは限界があるのは想像の通りだが、これまで慣わしとしてプロ不在のまま作品が作られてきた。それ故に、「プッ」と吹いてしまいそうなシーンが少なくなかったのだ。

 アンダーステアと迫力を取り違えていたり、FRなのにフロントタイヤから白煙を立ち上げたり、ハンドル添える指がズレていたり・・・。無知を超えたドイヒーな映像が横行していた。残念でしかたがなかったのである。

映画の暴走族が、真っ白のジェットヘルを目深にかぶりオフロードバイクで登場する。背筋を延ばし、教習所級のニーグリップでローリングする。これって正統派じゃん級の滑稽である。こんなコント影像がCMで流れていることに辛抱たまらず、とあるメーカーに提案したところ、「うちはそんな恥ずかしいCM作ってん?」ってことで大役を仰せつかったというのが経緯だ。

 意気込みはこうである。「運転のプロが観ても唸る映像」である。自称プロのドライビングオタクでしか務まらない業務であるわけだ。一方で、クリエイティプ業務も長い。両刀をこなすのならば適任であろうと撮影に参画することになったのである。クライアントの目利きは正しい。

モニターで動きの確認をチェック

 ただし、困ったことが発生した。クロアチアのコンテナヤードで撮影することになったCMは、逃げる劇車とバイクに乗る暴漢とのチェイスである。クルマのディレクションはプロだから不安はない。問題はバイクの演出である。

特注バイクはストリートファイター系に決定

 特注で製作するバイクは、苦悩したあげくストリートファイター系に決定。バイクスタントマンの演技指導も難儀した。ジェットヘルを被らせてローリングしていたのでは三流映画のことを笑えぬ。それは避けたい。それでいて、暴走族でも暴漢でもなく、ライディング技術に長けたスナイパー風の悪漢を演じさせたかったのである。かなり高いハードルを設定したのである。

 かくして完成したCM撮影は、クルマとバイクの激しいチェイスを表現できた映像になったのである。ヘルメットは黒にしました。

【了】

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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