いったいどうして!? 暑くて苦しい鈴鹿8耐にライダー達が参戦する理由
毎年7月最後の週末に、真夏の鈴鹿サーキットで行われる鈴鹿8耐。2019年も、世界中から多くのトップライダー達が参戦し、熱い戦いを見せてくれました。しかし8耐が熱いのはレースだけではありません。熱中症ギリギリの灼熱の中で、ライダー達は自分との戦いを繰り広げているのです。
暑さと湿気で不快感いっぱい。日本特有の夏の戦い
2019年7月26日から28日の3日間、三重県にある鈴鹿サーキットで行われた「2018-2019 FIM世界耐久選手権最終戦 鈴鹿8時間耐久ロードレース」(以降 8耐)。今年も8時間ぶっ続けでスプリントレースをしているような白熱したバトルで、観客を楽しませてくれました。
ワールドスーパーバイクでシリーズランキングトップを独走中のジョナサン・レイ選手をはじめ、ドミニク・エガーター選手や長島 哲太選手など、世界で活躍するライダー達も参戦し、その走りを日本で見られるのは8耐ならではの魅力です。
そんな8耐ですが、実は「FIM世界耐久ロードレース選手権シリーズ(EWC)」の日本グランプリという扱いになっています。そのため、8耐に参戦するということは、普段チャンピオンを目指して参戦しているシリーズとは全く関係のないEWCの1戦に、スポット参戦するという事になるのです。
ただ屋外に立っているだけでも熱中症の危険に晒される日本の夏に、8時間という長丁場を2から3人のライダーで走り切る過酷なレース。しかも、転倒して怪我をすれば、参戦しているシリーズに支障をきたしかねません。
もちろん観戦する側にとっては、ハイレベルな戦いが見られるに越したことはないので、トップライダー達の参戦は願ったり叶ったりですが、彼らは今シーズンを棒に振る可能性を秘めた8耐に、いったいなぜ参戦するのでしょうか。実際に聞いてみました。
●渡辺一樹 選手(ヨシムラスズキMOTULレーシング)
2019年度は、ヨシムラスズキMOTULレーシングより全日本ロードレース選手権 JSB1000クラスにフル参戦し、現在ランキングを6位につける渡辺選手は、次のように話します。
「8耐に初めて出たのが2012年。その当時は、全日本のJ-GP2クラスという600ccのレースで走っていて、8耐で初めて1000ccのマシンに乗ったので、フィジカル的に全く足りていない状態でしたね。だから、とてもつらかったです。
個人的には、耐久レースは正直好きじゃないんですよね。長くてしんどいところが。
基本的に、エイヤーって1周を速く走ってこれれば自分的には一番気持ちいいし、自分の一番好きなところなんですけど、ただ、スプリントレースって一瞬の出来事なんですよ。時間軸としても一瞬だし、もちろん事前にチームとしてもライダーとしても積み上げてこないといけない部分もあるのですが、やっぱり8耐となるとスプリントの何十倍という人の労力と時間をかけてきているので、ワンレースに全てがつまっているんです。
いろんな人の気持ちを乗せて走ると言うと少しキザですが、ライダーは1つのコマでしかなくてチームという枠の中にメカニックがいて、作戦を立てる人がいる。だから、ある意味ではライダーは我慢しなくてはいけない時間が増えるんですけど、それぞれの持つ役割があって、全員がキチンとその仕事をこなしてこないと、その中の誰かが小さなミスを1つおかすだけで、全てがガラガラと崩れてしまうという意味で、人ひとりに対する重みがすごくあるんです。
そこが、レース終わってある程度自分たちの理想の形になっていた時の気持ちよさというか、全員が全員の仕事をしっかりやったねという喜びが耐久レースにはあります。
それができた時に、チームと喜びを分かち合える。それが、自分が8耐に出る大きな理由の1つです」。
●星野知也 選手 (TONE RT SYNCEDGE4413)
渡辺選手と同じく全日本ロードレース選手権JSB1000クラスにTONE RT SYNCEDGE4413からフル参戦し、純プライベーターながら健闘を見せる星野選手はこう話します。
「初めて出場した年、決勝日の朝フリーで転んでそのまま病院送りになったんです。だから、まわりから8耐はつらいつらいと聞いてはいたけど、決勝を走れなくて……。
それで翌年走ったら、確かにワンスティント目はつらかったんだけど、2スティント目からは意外に大丈夫で。3スティント目が一番楽だったかな?
と言っても、実は僕めちゃくちゃ暑い8耐をまだ経験していないんですよ。ここ数年は比較的涼しい8耐が続いたじゃないですか?だから、本当の灼熱の8耐を経験してないから、もし経験したらもう来年は走らなくていいって言うかもしれないけど、そんなつらい印象はないんですよね。
まぁ、つらいにはつらいけどね。でも終わった時の花火を見るとそんなことは忘れちゃって、また来年もこの花火が見たいね。で夏が終わり、次の夏が始まるとまたやってしまうという感じかな」。
●名越哲平 選手 (Honda Asia-Dream Racing with SHOWA)
2019年シーズンはMuSASHi RT HARC-PRO.より、全日本ロードレース選手権J-GP2クラスに参戦し、ランキングトップにつける名越選手にも、聞いてみました。
「8耐は、つらいです。
でも、普段自分は600ccのマシンでレースをしているので、1000ccのマシンに乗る機会というのはあまり作ってもらえないんです。
今後のステップアップを考えたときに1000ccというのはマストだと思うので、そのマシンにこれだけ長い時間乗れるというのは自分自身のライダーとしてのスキルアップにもなりますし、今後を見据えて1000ccに乗るとなった時に、どのメーカーも8耐を重視しているので、ここで結果を残すことができれば、上の人たちも見てくれるようになるでしょうから、チャンスがあれば出たいと毎年思っています」。
●石塚健 選手 (TONE RT SYNCEDGE4413)
今年から活動の場をスペインに移し、マドリードに拠点を置くEASY RACE TEAMからCEVレプソルインターナショナル選手権 moto2クラスに参戦している石塚選手は、こう話します。
「1回目出るまでは日本で一番人気のレースだし、出てみたいとずっと思っていたのですが、いざ出てみるとめちゃくちゃ大変で……。それは準備もそうだし、考える事もスプリントレースとは全然違うし、何より暑くて決勝がとても大変で。
だから、なんで何回も出るの? って聞かれると自分でもよく分からないのですが、8時間後のチェッカーを目指して走ってゴールした時の達成感は本当に大きいので、そこですね。
あと、この8耐のレースWEEKは本当にたくさんの時間バイクに乗ることができるので、それは自分にとってかなりプラスです。
スーパーバイクなどワールドクラスのライダーも参戦しているので、目の前で世界レベルの走りを見られるのもすごく勉強になるし、自分の刺激にもなります。そういう部分が、毎年出たいと思う理由です」。