タイの2輪市場に一石を投じるホンダ 「Cub HOUSE(カブ・ハウス)」が切り拓くバイクの楽しい世界とは?
タイの2輪市場で80%近いシェアを占めるホンダ(A.P. Honda)が、バイクの新たな付加価値を創造すべく「Cub HOUSE(カブ・ハウス)」というライフスタイル型のショップを展開しています。いったいどのようなショップなのでしょうか? 現地へ取材に行きました。
アジア主要国のなかで高い経済レベルにあるタイの2輪市場とホンダ
男女関係なく若者からお年寄りまで、便利な移動手段としてバイクが普及している東南アジアでは、日常の足として、おもに排気量110ccや125ccのバイクが活躍しています。

日本のバイク文化とは異なり、タイにおいては趣味性やスタイルでのバイク需要はもちろんあるものの、その存在価値は生活必需品としての比重が大きく、国民の3人に1人がバイクを保有しています。
その用途から“バイク離れ”よりも“買い換え”サイクルが一般的となっており、また生涯を通じてバイクに乗り続けるため“買い増し”傾向もあることから、バイクが生活の足として、タイの日常生活に深く入り込んでいることがわかります。
タイの多くの生活者にとって不可欠な交通手段であるバイクも、社会の変遷にともない求められる要素に変化が表れつつあります。
本田技研工業株式会社のタイ現地法人「A.P. Honda」は、生活が変化し、嗜好が変化してもバイクが求められる存在であること、そして「バイク屋」が人の集まるコミュニティであり続けることを願い新たな試みを開始しました。それが「Cub HOUSE(カブ・ハウス)」です。
カブ・ハウスについて、A.P. HondaのWiwat Lertpati(ウィワット・ラスパティ)氏と、和久智美氏に話を伺いました。
「Cub HOUSE(カブ・ハウス)」ってナンだ!?
──「Cub HOUSE(カブ・ハウス)」はいつから、どのようなコンセプトでオープンされたのでしょうか?
オープンは2018年4月です。バンコクに代表されるタイの都市では最近おしゃれなカフェが沢山できて賑わっています。

また、若者の間ではバイクのカスタマイズが流行っているので、このトレンドをミックスして、コーヒーを楽しみながらバイクで遊ぶ、みたいな場所があると楽しいかなと思いました。
バイクを介した人々のコミュニティスペースを作る、というのがカブハウスのコンセプトです。

名前の由来ですが、このコミュニティから“バイク=日常の足”という枠をこえて、新たなバイク文化が生まれることを願い、「Culture, Unique, Bikes」の3つの頭文字をとって「Cub House」と名付けました。
タイの2輪市場に、ホンダの歴史的バイクで新たな世界を創造したい
では、カブ・ハウスに置くモデルは何が良いか? タイのお客様にも広く知られ、ホンダの原点ともいえる「Super Cub C100」と、レジャー用途として広く世界で愛されている「Monkey(モンキー)」、この歴史ある2モデルを現代的に再定義しなおしたら、現代のお客様にも愛してもらえるかなと考えました。

目の肥えたお客様に何か商品をご提供する際に、まったく新しいものだと、まず興味を持っていただくために、その商品のコンセプトからご説明しなければなりません。しかしC100由来の「Super Cub C125」、Monkey由来の「Monkey125」はすでに長い歴史がありますので、誰もが同じようなイメージをもっていただけます。

──カブ・ハウスは一見するとカフェのような雰囲気ですが、併設するカフェスペースでコラボレーションしている「GREYHOUND(グレイハウンド)」とは?
もともとはタイのアパレルブランドで、現在はカフェレストランも展開しています。タイ国内の有名なデパートにはほとんど入っているほど知られたブランドです。

その特徴はメニューを見ていただけるとお分かりになると思いますが、タイの人たちが慣れ親しんでいる食べ物を現代風にアレンジして、格好よく再定義するとこうなるよね、というメニューを提供しています。
そこがカブ・ハウスの考えとリンクしており、そんなストーリーを提供することに長けている人たちと一緒にやったら面白いのではないかと。タイでは40年ほどの歴史があり、最近はイギリスや香港など海外にも進出しています。

われわれがこのカブ・ハウスを展開するにあたって、歴史を再定義するという新たなカルチャー(Culture)、オリジナリティのあるユニーク(Uniqu)なバイク(Bike)、それぞれの頭文字「C」「U」「B」が、ホンダの歴史的なバイクである「Cub」ともリンクしています。
このカブ・ハウスを基点として、お客様のコミュニティが生まれてくれたら楽しいと思います。
意外な客層に火が付いた!? カブやモンキーはコレクターの心も魅了する
──オープンから1年が経ち、客層やお客さん反応など、当初の想定と実際の違いは何かありますか?
お客様層は40代前後の男性が多いのですが、想定外だったのは、いわゆる超高所得者層の方々が多いことです。そういった方々は、日常の足ではなく自分を表現するアイテムとしてモンキーやC125を選ばれています。
また、C125やモンキーの持つ歴史やヘリテージ(継承されるもの)に共感した、という理由でご購入頂いているお客様も多いです。なかには一度バイクからは離れてクルマに乗っていたような方にもご購入頂いております。

──それは想定外というか、意外な結果ですね。
はい、意外です。クルマやビッグバイクはすでに乗っていて、それとは別に、日常の足としてみんなと同じものに乗るよりは、自分だけの、カスタマイズも楽しめるバイクがいいと、カブ・ハウスで2台目、3台目のバイクとして購入いただいています。カスタマイズしたくて購入されるお客様が多いですね。
思った以上に高所得の方々からご支持を頂いておりますが、この面白さをより幅広いお客様へと広げていければと考え、いまはカブ・ハウスを介したコミュニティ形成に力を入れております。
カブ・ハウスが成功している理由とは?
──ここへ来られるお客さんは、何を求めていらっしゃるのでしょうか? また、このお店の中で1番の人気商品はありますか?
みなさんお茶(アイスコーヒー)を飲みに来ます(笑)。商品で何かが特別に売れているということはなく、このお店の雰囲気を楽しみに来られます。

もちろんバイクを買いに来るお客様はいらっしゃいます。ほかのお店と違うのは、バイクを買ったらすぐに帰るということはなく、ここで「モト・スタイリスト」というスタッフと「どういうバイクにしようか」とおしゃべりしながらコーヒーを飲んで帰る、という感じで、新車をご購入頂いた後もカスタマイズをするために何度も繰り返し足を運んでくださっています。
──ここでバイクを買うことも出来るのですか?
はい、もちろん。整備もカスタマイズも出来ますし、自分でやることも出来ます。それに自分はコーヒーを飲みながら、目の前でスタッフにやってもらうことも可能です。

──バイクのスタッフ(メカニック)は何名いらっしゃるのですか?
いまは2名です。ほかにもカスタマイズの提案をする「モト・スタイリスト」が5名。お客様はそのモト・スタイリストとおしゃべりしに来ることが多いですね。買った後も何度も来店されます。
カブ・ハウス限定のアクセサリー(カスタムパーツ、用品)もいろいろ揃えていて、カタログや実際の商品を見ながら、まずはベーシックなところを決めて、それからお客様好みのカスタマイズプランを詰めていきます。オリジナルペイントも対応していますし、お客様がカスタマイズをイメージしやすいように、お店のデモ車もつねに制作しています。

──カブ・ハウスはひとつの成功例だと思いますが、次のステップは?
タイ国内においては、2輪市場に限らずお客様が高齢化しています。それはやむを得ないところです。その一方で、若いお客様でカスタマイズを楽しみながら乗っている人たちもいます。その人たちがずっと楽しみ続けられるような、そんな場所をここで提供できれば良いと考えています。
──カブ・ハウスでバイクの楽しみを経験して、その次にビッグバイクへステップアップする可能性もあるのでは?
そうかもしれませんし、そこまで出来たら最高です。バイクは楽しい世界ですよね? それがわかるには、普通は長く経験を積んでビッグバイクにステップアップします。しかし若者の環境はいま、すでに電車もあり、クルマも乗っています。なかなかバイクの楽しさを知るきっかけはありません。

カブ・ハウスを通じて最初から楽しい世界を知っていただければ、それが次のステップアップにもつながると思いますし、そういった楽しい2輪の文化が必要だと思います。
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高齢化と若年層の減少、聞けば日本と同じような状況ですが、経済成長にともなう所得アップと活気づいている2輪市場に、MSX125(GROM)やPCXなど、ホンダはつねに若者のあいだでトレンドとなるバイクを送り出しています。
そこへ「バイクの楽しさ」というあらたな付加価値を、カブ(C125)やモンキーのような歴史あるバイクとタイのブランド(グレイハウンド)を掛け合わせて提供することで、カブ・ハウスはオープンから1年経過したいまも多くのお客さんに支持されています。
タイ国内で展開するカブ・ハウスは現在(2019年8月時点)11店舗になり、2020年3月までには16店舗にまで拡大するとのこと。
設立以来タイの2輪市場をけん引してきたA.P. Hondaが新たに展開するカブ・ハウス、今後も要注目です。
【了】