地上波にのったオフロードバイクの世界「ハードエンデューロ」とは?

モトクロスやトライアル、エンデューロといった、不整地(オフロード)を使ったオフロードモーターサイクルレースのひとつ「ハードエンデューロ」がブームになっています。

ハードエンデューロ……ハードなエンデューロ?

 不整地(オフロード)を使ったオフロードモーターサイクルレースのひとつ「ハードエンデューロ」がブームになっています。

ほぼ直登する壁のようなセクションも設定されているハードエンデューロでは、軽量ハイパワーな2ストロークモデルが主流(写真:RedbullContentPool)

「ハード」と聞くと「過酷」や「過激」というイメージを持つと思いますが、確かにその通り、とても過酷なものです。

 オフロードバイクで壁のような崖を登り、ときに失敗し、ライダーから離れたバイクが上から降ってくることもあれば、道なんて見えやしないただの岩場を前進したり、沼地のような泥の中を押してもがくなど、実際とてもハードです。

 そんな苦行のようなハードエンデューロですが、いま世界中でブームになっています。

 アメリカの「TKO(Tennessee Knockout:テネシー・ノックアウト)」、アジアでは「台湾ハードエンデューロ」で韓国や台湾の選手が活躍しており、そして両レースに、日本のハードエンデューロ界のトップに君臨する、高橋博選手が参戦しています。

ヨーロッパでは古くからこのジャンルのレースが人気となっており、シリーズ戦も組まれ興行としても成功している

 その中でも世界最大規模であり、頂点を極めるのが「エルズベルグロデオ・レッドブル・ヘア・スクランブル(Erzbergrodeo Red Bull Hare Scramble)」です。

 毎年オーストリアのエルズベルグ鉱山で開催される、モーターサイクルのビッグイベントで、1800台が予選に参戦し、決勝に進められるのは500台。予選のタイムアタックによる順番で1列から5列に分けられます。

セクションによっては大渋滞も発生する(写真:RedbullContentPool)

 そして完走を目指すならば2列目までを確保することが重要と言われています。3列目以降だと激しい渋滞に巻き込まれてしまい、制限時間の4時間以内にフィニッシュすることが難しくなってしまうからです。

ハードエンデューロの世界で活躍する日本人たち

 このレースには、過去に数名の日本人ライダーが参戦しています。トライアルのIAS(国際A級スーパー)クラスのライダー、田中太一選手が2010年に日本人として初参戦し、スピード競技の経験が皆無で予選に苦しみ5列目スタートながら、13位で完走という奇跡を果たし、一躍世界で時の人になりました。以降も2014年まで連続参戦しています。

2018年から5年計画で参戦中の石戸谷蓮(いしどやれん)選手

 2015年は当時オフロード専門誌の編集部員だった矢野和都選手が参戦し、モトクロス国際A級の実力を発揮して予選1列目を確保しますが、決勝では序盤の坂で渋滞に詰まり、苦戦の末フィニッシュには至りませんでした。

 それから3年後の2018年に、日本人として挑戦したのが石戸谷蓮(いしどやれん)選手です。先輩たちの活動を見て、5年計画で参戦開始しました。

 初年度は予選202位で本来5列目でしたが、キャンセルした選手が多く4列目からスタート。CP14というセクションに進んだところでタイムアウトとなりました。

 2019年6月に開催された大会では、予選で167位、実力で4列目スタートを決めましたが、決勝では数々の渋滞に阻まれ、またしても完走はなりませんでした。

愛車のBETA(ベータ)「RR2T300」(排気量300ccの2ストロークエンジン搭載)で練習する石戸谷選手

 石戸谷選手は田中選手や矢野選手のように、トライアルやモトクロスでの国内最高峰クラスに位置するような肩書きは無く、まさに叩き上げの人物です。エルズベルグ参戦について、以下のように話します。

「17歳までモトクロスをやっていて、その後は様々なエンデューロ競技に参加しましたが、自分よりも遥かに年上で、トレールバイクに乗る選手にガレ場などの難所で抜かれることが多くて、自分の技術をもっと磨かなければ、と思いました。それから岩場などを練習しているうちに、ハードエンデューロの世界に惹かれていった、という感じですね。

 当時、田中さんや矢野さんを見ていて、あまりにも過酷で怖くて、エルズベルグに行きたいと思ったことなんて全くなかったんですよ。でもいつしか自分も出たくなりました。

忙しい仕事の合間に練習を重ねる石戸谷選手。滑りやすい木の根をきっかけにして、いとも簡単に前輪を上げてクリアする

 ただ、僕には彼らのような企業スポンサーもついていませんし、ある意味ノープレッシャーです。それに完走するには5年計画が必要だと思い、そのためにもスポンサードを受けるのではなく、自分でその費用を稼ぐべきだと考えました」

 石戸谷選手の本業は鍼灸師です。参戦費用を稼ぐため、それに後進の育成、初心者への参入も促すため、自ら「CROSS MISSION(クロス・ミッション)」というハードエンデューロイベントを立ち上げ、その対価として参戦しています。

石戸谷選手が企画するイベントでは、レースだけではなくオフロードバイクで安全に楽しみたい人向けのスクールプログラムもある

 また、エルズベルグ参戦については以下のようにも言います。

「エルズベルグに参戦するのは純粋に楽しいから。これを完走したら見えるものも変わってくるかなと」

 石戸谷選手の目下の目標は、予選1列目から2列目の確保とのこと。「走りだしの最初の1メートルで、いかにスピードを乗せられるか」というテーマでひたすらコーナリングの練習を重ねているそうです。

「カールズダイナー(提督の食卓)」と呼ばれる5km以上も連なる岩場。壁のようにそそり立つ急坂を登ったり下ったりした後に待ち構えており、その先も続く数々の難関を突破してゴール出来るのはごく僅か。2019年の完走は16台のみ

 そして石戸谷選手の参戦は、2019年8月にTBS系TV番組「クレイジージャーニー」で取り上げられ、大きな反響を呼びました。そのときの状況を、石戸谷選手は以下のようにコメントします。

「番組を見た方からすでに300件ほど問い合わせが来ています。反響はものすごくて、連日返信に追われています。

 嬉しいのは“バイクの免許がないけれどハードエンデューロをやってみたい”という若い人や“ガレージに眠っているバイクを出してみようか!”というような人達が多いことです」

※ ※ ※

 さまざまなジャンルが存在するモーターサイクルの世界でも、オフロードを走る競技は場所などの条件・環境面から、あまり一般的とは言えない世界です。

 エルズベルグロデオのような海外のビッグイベントが、日本の地上波で紹介されることによって“クレイジー”と言われながらも、その世界を知らなかった人たちにインパクトを与えたことは間違いないでしょう。

世界一過酷なバイクレースの舞台となるのは、オーストリア中央部に位置する鉱山(エルズベルグ)の広大な採掘場

 石戸谷選手たちのように、海外でチャレンジを続ける日本人がいたからこそフォーカスされたと言えます。今後の活躍にも注目したいところです。

【了】

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