つまり「アドベンチャーバイク」とは? ラリー時代を経て冒険の旅へ

各バイクメーカーがこぞってラインナップするアドベンチャーバイクは、現在の姿に至るまで長い道のりがありましたが、なかでもラリーとのつながりは欠かせないものだったようです。

ラリーとアドベンチャーの融合、そして分岐に立つ

「アドベンチャーバイク」のルーツは、デュアルパーパスとラリーバイクの良い部分を取り入れて形成されてきました。その流れはしばらく続きます。

アドベンチャーバイクのルーツとなるパリ-ダカールラリー(1982年パリ-ダカールラリー/ホンダ「XR500R」/C・ヌヴー選手)

 オーストリアのKTMは、エンデューロマシン用に設計した水冷単気筒エンジンをモディファイして搭載した「620アドベンチャー」から、それに続く「640アドベンチャー」を投入します。このモデルは振動は大きいものの、走りはラリーマシン同様でした。

 さらに2001年、KTMがはじめてダカールラリーで勝利を収めたファクトリーモデルのストリートツアラー版として投入した「950アドベンチャー」は、ダカールとアドベンチャーバイクの融合を語る大きな道標ともなりました。

KTMは2019年もダカールラリーにファクトリー参戦し、勝利を獲得(RED BULL KTM FACTORY TEAM/T・プライス選手)

 2気筒エンジンが主体だった当時のダカールラリーですが、2000年代前半、そのパワーによる走行速度の高速化、それに耐える頑強な車体作りがもたらした重量の増加は、ラリーでのアクシデントリスクを高めることになり、参加するマシンはレギュレーションで単気筒エンジン搭載車へと制限され、その後、450cc以下のマシンへとスケールダウンされます。

 それにより、ツアラーとしての色合いが強いアドベンチャーモデルは、ダカールラリーというルーツとの繋がりを失いかけます。

枠を飛び出しもっと遠くへ、「冒険の旅」というイメージ

 ちょうどその頃『ロング・ウエイ・ラウンド』と題されたドキュメンタリー番組が人気を呼び、その後のアドベンチャーバイクの指針となります。ラリーというイメージを抜きながらもロングディスタンス(長い距離)をタフに乗り切るシンプルなイメージに昇華させました。

排気量1129ccの空油冷水平対向2気筒エンジンを搭載するBMW Motorrad「R1150GSアドベンチャー」(2001年)は、大型のウインドスクリーンや容量30リットルの燃料タンクなどを装備、車両重量276kg、日本仕様の標準シート高は860mm

 番組ではBMW Motorradの「R1150GSアドベンチャー」という重量級の大型バイクを使い、ロンドンから北半球を一周するエクスペディションツアーを、ユアン・マクレガー、チャーリー・ブアマンという2人の俳優が行います。

 大排気量2気筒エンジンがもたらす余裕、ラリーという決められたコースや日程という枠から飛び出すようイメージされたフリードローウィングな旅から、新たな「冒険の旅」時代がアドベンチャーバイクに訪れます。

 2000年中ごろから「GS」シリーズやトライアンフ「タイガー」シリーズ、KTM「アドベンチャー」シリーズ、そしてドゥカティ「ムルティストラーダ」シリーズを含め、パニアケースに荷物を詰め、遠出をする時間を使うライフスタイルに応える車体作りとプレミアム性を加味したキャラクターになっています。

 同時に、現在のダカールラリーが持つイメージを投影したアドベンチャーモデルも登場しています。

KTM「790アドベンチャーR」(左)と「790アドベンチャー」(右)

 KTM「790アドベンチャーR」、ヤマハ「テネレ700」は、現代の450ccマシンが戦うダカールラリーの持つスピード感、軽快さ、さらには砂漠を走破するイメージとアドベンチャーツーリングを融合させたモデルとして、ミドルクラスの2気筒エンジンを搭載したアドベンチャーモデルと言えるでしょう。大排気量クラスとは明らかに異なるキャラクターが魅力です。

 ワインディングロードで想像以上の敏しょう性を持ち、高速道路の長距離移動が快適で、ダートロードを真剣に楽しめる。

 どんな道も味わい尽くせる、アドベンチャーバイクの旬は、まだしばらく続きそうです。

【了】

現代へ至る「アドベンチャーバイク」とは?

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Writer: 松井勉

モーターサイクル関係の取材、 執筆、プロモーション映像などを中心に活動を行なう。海外のオフロードレースへの参戦や、新型車の試乗による記事、取材リポートを多数経験。バイクの楽しさを 日々伝え続けている。

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