ヤマハ「SR400」のエキパイ曲げ工程はなぜ手作業? 自動化しない理由とは

ヤマハのスポーツヘリテイジバイク「SR400」は、1978年登場以来ほとんど変わらない姿で在り続けるロングセラーモデルです。車体を構成する美しい部品のひとつ、エキゾーストパイプの曲げ工程は手作業で行なわれています。

こだわりたいのは、仕上がりの美しさ

 ヤマハ「SR400」のエキゾーストパイプは、ヤマハ発動機株式会社の協力会社であるサクラ工業株式会社(以下サクラ工業)によって作り続けられています。

曲げ工程を終えたヤマハ「SR400」のエキゾーストパイプ

 サクラ工業では、主にヤマハのバイクに装備される消音器・排気系システムを製造しており、その技術ノウハウからオリジナルブランド「PRUNUS(プラナス)」の展開や、MotoGPをはじめとするレーシングチームへのパーツ供給など、モータースポーツの分野でも活動しています。

 その製造現場を覗いてみると、明るく清潔な環境が整えられ、近代的な製造設備が稼働し、油臭さは一切ありません。

 一方で、一角に設けられたSR専用エリアでは、長年稼働してきたであろうベンダーなどの設備が配置され、職人的技術者が、曲げる角度によって治具を変えながら1本1本丁寧に作業を進めています。

 近年登場した現行モデル(MT-07、MT-09、YZF-R1など)の製造ラインではNCベンダーを導入し、セットした素材はコンピューターによって自動的に複雑な角度に曲げられ、ほとんど人の手が介在していません。

エキゾーストラインが車体デザインのひとつとして存在しているヤマハ「SR400」(2019年型)

「SR500」「SR400」が1978年に発売された当初からエキゾーストパイプの製造に関わってきたサクラ工業では、これまで11万7000本以上の二重管構造の中空鉄パイプを曲げてきました。

 しかし緩やかな曲線を描くシンプルなエキゾーストパイプは、なぜ今でも手作業で機械を動かし、曲げているのでしょうか? サクラ工業の営業部に所属する松本さんにお話を伺いました。

──シンプルで複雑な曲げ工程も無さそうな単気筒エンジンのエキゾーストパイプは、自動化しないのでしょうか?

 じつは均一に曲がっているわけではないので、技術的な難しさがあります。角度によって治具を変えながら3段階の曲げ工程があり、流れるような曲線を描くには熟練の職人的な技術を要するのです。

汎用ベンダーにアールの異なる治具をセットしながら真っすぐの鉄パイプを曲げていく(1つ目の曲げ工程)

 また、SRはロングセラーではありますが、月に何万台も生産される製品ではないので、新たに設備を導入するよりは、いままで通り汎用ベンダーを使って1本1本丁寧に仕上げていきたい、というのが理由です。

──機能部品であり見た目の美しさも魅力となっているエキゾーストパイプの製造工程には、どのような難しさがあるのでしょうか?

 ヤマハさんもウチ(サクラ工業)も、こだわっているのは外観の美しさです。曲げ工程でついた治具の跡(キズ)などを消すために、荒仕上げからメッキ処理前の磨き工程へ移すのですが、ここはどうしても機械化できない部分です。

 というのも、ほんの小さなキズでも、メッキ処理を施すと目立ってしまうのです。周りがピカピカで、その部分だけくすんで見えてしまう。メッキ処理後に修正はしませんので、やはり磨き込みの重要さ、難易度は高いと思います。それも熟練工の手によるものです。

──たとえ熟練工でも、何本かに1本はメッキを施してから小さなキズが発覚することがあるのでしょうか?

 ゼロではありませんが、製造段階で製品にならない、いわゆる失敗作は全体の1%以下です。もともとサクラ工業は“メッキ屋”から始まっておりまして、楽器のメッキを専門にやっていたのです。その外観品質にはこだわりを持っています。

曲げ工程を終えたら「ベルトン(ベルトサンダー)」でジグの跡などをベルト研磨し、バフ掛けで表面に艶が出るほど磨き上げて「荒仕上げ」を施す

──SRの単気筒エンジン以外にも、ヤマハ製品には2気筒も3気筒も4気筒もありますが、どれが一番難しいですか?

 単気筒か4気筒かで難しさが変わることはありません。エンジン設計では順番として排気系が最後になると思います。ほとんどの設計が詰められた後で、排気系の取り付けや取り回し、形状や長さなど、レイアウトに制限があるなかで、その狭いスペースで長さを確保する必要があります。

 エキゾーストに使える部分が少ない中で設計しなければならないので、今ではそういう難易度が上がっています。

 それから、SRがまさにそうですが、昔はマフラーがデザイン、意匠のひとつとして主張していましたよね。それが最近のバイクは排気系部品が目立たないようにデザインされているので、難しくなった一方であまり目立たない、苦労してようやく製品化された部品が隠されてしまうのは、ちょっと悲しいですね(苦笑)。

※ ※ ※

 メーカー(ヤマハ)の新型車の設計は、開発段階から加わっているサクラ工業では、変化していく製品に合わせて製造ラインも組み立てなおし、メーカーの要望に応えてきました。

 現在SR専任の職人的技術者は1名のみ、状況に応じて数名の技術者がSR専用エリアで作業を行なう体制をとっているそうです。

SRの車体組み立ては、ヤマハ発動機の工場で2人の技術者が車体の左右に立ち500以上の工程を黙々とこなす

 また、ヤマハ発動機の工場では、いまでも1台のSRを3人の技術者が手で組み上げています(1人がエンジン、2人が車体)。1本のエキゾーストパイプ同様、人の手によって作られるSRにはモノづくりへのこだわりが詰まっており、そういった職人気質や巧みな技術も、SRの大きな魅力となっているのではないでしょうか。

【了】

【画像】ヤマハ「SR400」モノづくりの現場

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