これは新ジャンル? ヤマハ「トレーサー900」は日本のライダーに最適!
一見するとナニ者かわからないヤマハ「TRACER900(トレーサー900)」は、ロードスポーツの軽快感と安定性、トレールバイクの付き合いやすさ、モタードマシンのハンドリング、アドベンチャーの高速巡航性能と悪路対応力、すべてを持ち合わせています。
意のままに操れるエンジン
ヤマハ「TRACER900(トレーサー900)」に乗ってみると、刺激に満ちあふれ、アクセルを開けるたびにワクワクするではありませんか!
低回転域からトルキーで、4000回転を超えたところからの吹け上がりもエネルギッシュです。この高揚感あるエンジン、ただ走っているだけで面白い!
ヤマハの並列3気筒エンジン(排気量845cc)は、2014年に発売された「MT-09」に初めて搭載され、現在では「TRACER900(トレーサー900)」シリーズや、LMW(旋回時にリーンするスリーホイーラー)の「NIKEN(ナイケン)」、「XSR900」などの心臓部にもなっています。
トルクフルでスロットル操作に対してリニアに反応し、ダッシュしたいところでもストレスなくイメージ通りに加速してくれる、理想的な出力特性と言えるでしょう。
開発コンセプトに掲げられた“Synchronized Performance Bike”(シンクロナイズド・パフォーマンス・バイク)のとおり、意のままに操れる人車一体感が味わえます。
燃調マップはトレーサー専用にチューニングされてマイルドになっていますが、エキサイトメントは何ら変わりません。
軽快感はそのまま、旅仕様に
トレーサーはMT-09デビューの1年後、2015年に「MT-09 TRACER」として登場しました。
航続距離を伸ばすため燃料タンク容量を18リットルに増やし(4リットル増)、アッパーカウルや調整機構付きのウインドスクリーン、シガーソケットなどを追加装備してMT-09のツーリング仕様としたのです。
車名からMT-09を外し「TRACER900」として独自路線を歩み出したのは、2018年春のマイナーチェンジからです。フロントスクリーンが新型となり表面積を拡大、高速巡航力をさらに高めました。5mm単位で10段階、片手でノブをつまむだけで簡単に高さ調整ができます。
ハンドルバーやブラッシュガードも新設計され、前後シートも快適性を向上、グラブバーも新作となり、サイドカバーの形状と調和されたサイドケース用マウントも設定されました。
上級仕様の「GT」では、インナーチューブ径41mmの倒立フロントフォークをフルアジャスタブル式にグレードアップし(フォークアウターはゴールド)、リアショックもプリロード調整をリモート調整可能に。アップ対応のクイック・シフト・システム(QSS)や、4速以上のギアで50km/h以上からセット可能なクルーズコントロールシステムを搭載し、マルチファンクションメーターもフルカラーTFTディスプレイとなります。グリップウォーマーも標準装備され、アドベンチャーツアラーに対抗できる装備を身に着けました。
トレールバイク、いやスーパーモタードに近い…!?
足が長く見た目は大柄ですが、車体は軽量コンパクトでスリム。走り出すとMT-09の俊敏さがそのまま活かされていることに気付きます。
低い位置にマスが集中し、ステアリングヘッドは高い位置にあります。サスペンションストロークが長く軽快な操縦性で、ライディングポジションがゆったりとしていて視界が広く、リラックスしてコントロールできるのはトレールバイクに近い印象です。さらにスーパーモタードの要素が取り入れられていることを感じます。
リアアームを延長して直進安定性や乗り心地を向上していますが、軽快なハンドリングはそのままです。前後タイヤのトラクション性に優れ、高い接地感がありコーナリングが得意なので、旋回中でも積極的にアクセルを開けたくなるのです。
3つのモードから選ぶことができる「D-MODE」(走行モード切替システム)もMT-09から踏襲し、乗り手のスキルやコンディションを問いません。スポーティな走りを楽しみつつ、全天候型でロングライドを快適にこなしてくれる、まさにオールマイティなバイクなのです。
唯一無二の魅力が詰まっている
前後17インチホイールの足まわりを持つロードスポーツをベースに、アドベンチャーツアラーの装いで高速巡航を快適にこなし、悪路にも対応する「アルプスローダー」としての役割を立派に果たしつつ、MT-09ベースがゆえにワインディングや街乗りもキビキビ走るという、考えてみれば日本の都市圏に住むライダーにはうってつけのモデルに仕上がっているではありませんか。
まったくもって正体不明で、そもそもMT-09はネイキッドスポーツとスーパーモタードの異種交配造形です。そこにアドベンチャー要素を盛り込んだわけですから、もはやナニ者かわからなくなって当然です。もはや“トレーサーというジャンル”なのかもしれません。
【了】
Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。