素材が何であろうとも極上のチョッパーを造り上げる インドネシアのパワーを痛感させるスクーターベースの“カスタム・バイク”

インドネシアのカスタムバイク・シーンでは、様々なモデルをベースにしたマシンを目にすることができます。それらのなかでも特に異質な存在であるスクーターをベースにしたカスタムバイクをご紹介します。

創意工夫を凝らしたインドネシアのカスタムバイク

 ベースモデルのメーカーや排気量など関係なく、ビルダーの「クリエイティブ」な姿勢で良し悪しを語るべき『チョッパー』という乗り物……その歴史を紐解けばアメリカで生まれた『ハーレーダビッドソン』をベースにしたものが王道であり、このカスタム・カルチャーの中心軸にあることは否めませんが、しかし、この『アメリカンVツイン』は、国によっては、日本のように簡単に手に入れられるものではないようです。

自転車のビーチクルーザーのようなフロントのガーダーフォークやフレームなど、ほぼすべてのパーツがワンオフ(一品もの)。ベースのスクーターの姿は見事に払拭されています

 たとえば、ここ数年でカスタム・シーンが目覚ましく発展し、盛り上がっているように見えるインドネシアにしても欧米からの輸入大排気量の車両の関税率は200%。ハーレーの中で最も安価な車種であるスポーツスターでも現地価格は400万円オーバーとのことで、それを我が国の1/3程度といわれる貨幣価値に当て込むと感覚としては、おそらくは1000万円越えだそうですが、それゆえに現地のビルダーが現実的な素材として選ぶのが日本製の小排気量車。

 冒頭で『チョッパーの本質』について述べさせて頂きましたが、限られた条件の中で『創意工夫』を凝らすインドネシアのカスタムが魅力的に映るのは、やはり至極当然のことなのかもしれません。

110ccスクーターをベースにスタイルを一新

 そのインドネシアのカスタムの中で多く見られるのが水平エンジンの『カブ系』や現地生産の200ccクラスのジャパニーズ・シングルなのですが、この一台のベースとなったのは何とスクーター。現地で販売されるHonda Vario 110というモデルなのですが、ご覧のとおり、『ベースマシン』が何であるかを問われない『チョッパーの本質』を見事に体現するかのようなクオリティに仕上げられています。

ホンダがインドネシアで販売する「Vario 110」

 2018年、インドネシアのジョグジャカルタで開催されたカスタムショー「KUSTOMFEST」に出展されたこのマシンは、首都ジャカルタの南に位置するBogorという街にあるBarong Custom BikeというショップのHendra Agusというビルダーによって製作された一台ですが、エンジン以外の車体を構成するパーツ類はほとんどがワンオフ(一品もの)。

 日本でスクーターのカスタムといえば、ロングスイングアーム化やローダウンが定番の手法ですが、一方でこのマシンはフレームやガーダーフロントフォークを造り上げ、往年の『ボードトラッカー(1920~30年代にアメリカで行われていた板張りのオーバルコースを走る競技車両)』の如きスタイルに仕上げられています。このフィニッシュの姿は見事に尽きるものです。
 
 加えてチョッパーといえば、あえてフロントブレーキを排除し、フットクラッチのハンドシフトとすることでスッキリとしたハンドルまわりとすることも定番の手法なのですが、スクーターがベースのこのマシンの場合、ペダルで操作するリアブレーキのみとすることで“らしい”ディテールを簡単に実現。

 細かく彫金が施されたプーリーカバーまわりの処理と相まって、ベースマシンが不明な摩訶不思議なムードのフィニッシュとなっています。大げさな物言いかもしれませんが、車体全体からは「ベースが何であろうとも極上のカスタム“バイク”を造り上げたい」と願うビルダーの『念』すら感じられます。
 
 ハーレーやトライアンフ、ホンダ「CB」やヤマハ「XS」などチョッパー・ベースの定番となるモデルは数多くありますが、ここに見る一台のように“スクーター”を素材にするという発想は、おそらく多くの日本の人が持ちえないものではないでしょうかベースマシンが何であるかを問わない、と言いつつも筆者(渡辺まこと)もこの発想は無かったのが正直なところです。

 簡単に欧米のビッグバイクが手に入らない環境だからこそ、工夫と技術で『何とでもする』インドネシアという国のパワーと、ある意味、チョッパーにかける「ハングリー精神」には改めて、脱帽する次第です。

【了】

【画像】スクーターをベースにしたインドネシア発のチョッパー(13枚)

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Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)

ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。

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