レースというフィールドでも活躍した ハーレーダビッドソンのマシンたち サイドバルブKR編

ゆったりとしたツアラーモデルをメインに展開するハーレー・ダビッドソンは、レースの世界で活躍していました。ここではその歴史を振り返ります。

スポーツスターの始祖「Kモデル」

 数あるハーレーダビッドソンの中でコンパクトな車格や排気量ゆえ、ビギナーや女性向けに捉われがちなモデル「スポーツスター」ですが、そもそもはその名のとおり最先端のテクノロジーを集結させた「スポーツバイク」という顔を持ち合わせています。

1952年に登場したKRはWRと同じくクロモリフレームを採用。フラットトラック用はご覧のようにボルトオン・ハードテイルが装着されています(画像提供:H-Dジャパン)

 その直系的な始祖といえる『Kモデル』は、「WL」を進化させたサイドバルブ・エンジンにカセット型ミッションを内蔵し、フロントにテレスコ、リアにスイングアームとサスペンションを備えていますが、『Kモデル』が登場した1952年といえばライバルであったBSAやトライアンフなどの英国車も、まだリジッドフレームだった時代です。こうした事実からも、如何に『最先端』の装備を持つ車両だったかが伺えるでしょう。

 ここでは、そのレーシングバージョンである『KR』というモデルについて解説してみたいと思います。

WLの後継機種「K」のレーシングバージョン「KR」

■KR、KR-TT(1952~1969年)
 米国で英国車をはじめとする欧州車の人気が高まりをみせる1950年代。WLの後継機種として登場したのが『K』モデルです。

当時のレーサーの中には4.5ガロンタンクをモデルSやハマー用の2.5ガロンタンクに変更し、軽量化を果たしたマシンも多かったKR。現在のスポーツスターに通じるフォルムとなっています(画像提供:H-Dジャパン)

 当時のアメリカといえばスリムで軽量な英国車が人気を博し、多くのモデルの排気量が500ccから650ccに拡大された時代だったのですが、その対抗措置としてハーレーダビッドソン社はニューモデルを開発。同社初のスイングアームモデル、『K』は当時として、かなり革新的な装備を持つマシンだったようです。

 リアサスペンションを持たないリジッドフレームにスプリンガーフォーク、そしてフットクラッチのハンドシフトという『WL』に対して『K』モデルは先に述べさせて頂いたとおり、スイングアームフレームにリアサスペンションを装備し、フロントフォークも現代的なテレスコピックに改良。シフト形式もハンドクラッチのフットシフトというレイアウトになっています。

 また改良が加えられたサイドバルブエンジンもクランクケースと一体式のカセットミッションを採用。現在のスポーツスターの直系的な始祖といえる構造となっています。

 ただこの最新式のマシンは、当初から順風満帆だったわけではなく、1954年に排気量を45キュービックインチから55キュービックインチ(883cc)に拡大し販売された『KH』ではミッションのギアの歯が欠ける問題が頻発。ここを鍛造へ変更することでトラブルを解消するに至ったとのことです。

最高速度は240km/h! 

 ちなみに、その『K』モデルの最高出力は30ps、排気量を拡大した『KH』でも38psだったそうですが、ヘッド形状やカム、クランクなどが大幅に変更されたレーサー『KR』は排気量750ccで48psを発揮。最高速度240km/hを超えるスペックを誇ったとのことです。

1968年、デイトナスピードウェイを走るKRの隊列。右から#95 Fred Nix、#25Cal Rayborn、#55 Roger Reiman。ブラック&オレンジ=ハーレーダビッドソン・レーシングを鮮烈に印象付けます(画像提供:H-Dジャパン)

 また車体においても『KR』は『WR』と同じくクロモリ鋼のフレームを採用。レギュレーション上、500ccのマシンが主だった英国車を相手に750ccのアドバンテージを活かし、多くの勝利を重ねたのですが、17年の間で12回ものナショナル・チャンピオン・シップをハーレーダビッドソンにもたらせます。

 またダートトラックではリアサスを持たないボルトオン・ハードテイルだったのに対して、1960年代にはロードレーサータイプの『KR-TT』が登場。1967年のローボーイフレームにフェアリングを備えたこのマシンは当時のワークスライダー、カル・レイボーンのライディングによって1968年と1969年の「デイトナ200」で優勝し、オレンジにブラック、白のストライプが施された「ハーレー・ワークス・カラー」を多くの人に印象付けることになります。

 当時としては「サイドバルブ」のエンジン構造は既に時代遅れだったそうですが、KRというマシンが残した戦績はかなりのもの。この一台も確実にハーレーダビッドソンのレーシング・ヒストリーに刻まれるべき名車といえるでしょう。

(参考文献:ハーレーダビッドソン80年史/グランプリ出版 デビッド・K・ライト著 高齋正 訳)

【了】

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Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)

ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。

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