クレイジーを超越してリスペクト!! 知られざるレーシングサイドカーの世界 ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.49~

レーシングドライバーとラリードライバー、どちらも命がけでレースに挑むクレイジーな感覚を持ち合わせていますが、ドライバーよりもライダー、さらにはレーシングサイドカーの世界は、それを超越したリスペクトすら感じると言います。

命がけの勝負の世界で、相手を信じることができるのか……

 ライダーの“クレイジー度”議論は、侃侃諤々止まることを知らない。もともとはレーシングドライバーとラリーストのどちらが命知らずなのか、といった酒宴の最中の話だったのだが、ライダーに勝るものはないとの結論に達した。

公道を封鎖して1周約60kmのコースを周回する世界最古のモーターサイクルレース『マン島TTレース』に挑むレーシングサイドカー(写真は2007年。提供:Rising Sun Racing)

 それがさらに発展して、地上数センチで疾走し、ハンドルやスロットル操作をライダーに預けるサイドカーのパッセンジャーこそ勇者だ、となった。

 だが、その後も様々な意見が届いた。なかには自らサイドカーのパッセンジャーを経験した者の話から、現実を知ることになったのだ。サイドカー未経験でありながらに執筆した自分を恥じたのである。

 聞けば、ライダーも命がけだと言う。というのも、ライダーもパッセンジャーも同様に、お互いの息が一瞬でもずれると即クラッシュ、と言うのだ。

 ライダーが操縦するタイミングを見計らって体重移動をする。時には路面スレスレをかすめることもある。ヘルメットを地面に擦り付けるようにして200km/hオーバーで疾走する。

 ライダーにすべてを委ねるパッセンジャーこそクレイジーだと思っていたら、じつはライダーもパッセンジャーにすがっているのだと言う。

 パッセンジャーが意図したタイミングで荷重移動してくれるであろうと信じて、コーナーに飛び込んでいく、と言うのだ。

レーシングサイドカーは、ライダーとパッセンジャーが一心同体となってマシンを走らせる(2019年マン島TTレース)

 マシンは3輪で2輪のバイクのようにバンクしない。コーナリングの際はパッセンジャーが体重をイン側に移動させることで、ギリギリのバランスが保たれる。パッセンジャーがそのタイミングで体重移動してくれることを信じてコーナーに挑むというのだから、パッセンジャーもライダーも一心同体。危険度も同様なのである。

 一瞬でも間違えばバランスを失い、とんでもないことになるのは目に見えている。クラッシュを覚悟で攻めるのだから、どっちもどっちである。

 そう考えたら、僕(筆者:木下隆之)のようなレーシングドライバーなど甘いと言わざるをえない。たった1人でのドライブだから、全ては自己責任である。

 もともと他人が信用できないからレーシングドライバーになった。相手を信じることのできるサイドカー乗りには頭が上がらない。

 相手を尊重するという意味で、レーシングドライバーよりも格段に人格者なのだろうと思う。

【了】

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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