現代に受け継がれるBMWバイクのスタンダードさ 「R nineT スクランブラー」の魅力とは?

BMW Motorradのライアンナップで「ヘリテージ」にカテゴライズされる「R nineT」シリーズから、スクランブラータイプの空油冷ボクサーに試乗します。その特徴とは?

バイクの変わらない魅力、走る楽しさとカスタムマインドを刺激する

 BMW Motorrad(以下、BMW)のネオ・レトロモデル「R nineT(アール・ナインティ)」シリーズの起源は2013年に始まります。BMWが最初に発売したモーターサイクル「R32」の誕生から90年を迎えたヘリテイジを記念して登場したのです。車名の語源はまさにこの“90(ナインティ)”。BMWが身につけた、長い時間に磨かれた風格も表すようです。

BMW Motorrad「R nineT Scrambler」に試乗する筆者(松井勉)

 2013年5月下旬、「R nineT」の発売に先立ち、イタリアのコモ湖畔で行われたコンクール・デレガンスで「コンセプト90」が発表されました。アメリカのカスタムビルダー、ローランド・サンズ・デザインが手がけた1台のカフェレーサーは「R nineT」をベースにしたもので、ワンオフに見えた「コンセプト90」が、じつは市販モデルベースに造られたボルトオンカスタムだったのです。

 あらかじめ外せるように設計された車体の一部を取り外し、ユーザーが実際に「R nineT」を購入したら、ガレージでこんなカタチにもカスタムができます、というサンプルだったのです。「R nineT」登場の背後には、カスタムを愛するバイクユーザーに、BMWディーラーから良質なベースバイクを供給し、カスタムシーンへのアクセスを容易にしたのです。

 そのため、進化する電子制御に対応すべく長い間採用してきた「CAN-BUS(キャンバス)」というLANシステム的な電装ハーネスから、ユーザーが自分の手で好みのカスタムウインカーに交換ができるよう、コンベンショナルな電装ハーネスを採用しています。

 予習はこれぐらいにして「R nineT Scrambler(アール・ナインティ・スクランブラー)」を見てみましょう。

BMW Motorrad「R nineT Scrambler」

 シンプルなスタイルとスッキリした印象のリア周りが特徴です。また、ヘッドライトケース、シート下のフレームカバー、ボルト類にいたるまで、カスタムパーツを思わせるディテールを多く取り入れています。キックアップした2本のサイレンサーも、80年代に流行したカスタムマフラーのようで、多くの年代に様々なアプローチをかけたのが解ります。

 跨がると、ワイドなハンドルバー、やや後退したステップ位置、そして細身のシートなどから、スリムなのに大柄なライディングポジションが特徴です。

“スクランブラー”とは、オフロードバイクが登場する以前、ロードバイクをべースにフェンダーやハンドルバー、前後タイヤなど、オフロード走行に適した部品に交換したのがルーツです。上方についているマフラーも荒れ地にぶつけたり、水たまりを越える時に機能的だったに違いありません。

 また、フロント19インチ、リア17インチと前輪が大きいのもそうしたムードを補強します。このタイヤサイズなら、オフロードスタイルのブロックタイヤを探すことも簡単。こうした部分もカスタムユーザーには嬉しいハズ。

 エンジンは2012年まで第一線で活躍していた空油冷ボクサーを搭載します。排気量1169ccの水平対向2気筒エンジンを始動すると、回転はスムーズですが、アクセルをブンと開けると横方向に車体がグワッと一瞬傾きます。ライダーはバイクから生命感を感じずにはいられません。

排気量1169ccの空油冷水平対向2気筒DOHC4バルブエンジンを搭載

 軽いクラッチレバーを引き、スっと音もなくシフトできるミッションを1速にいれてクラッチを繋ぐと、満タンで222kgの車体は力強く押し出されます。マフラーから吐き出される水平対向エンジンの音も、歯切れが良く音圧も充分。排気音までカスタム風味です。

 排気量からすれば110馬力と驚くスペックではありませんが、アクセルに対する素直で扱いやすいことも加わり、走りはパワフルです。前輪が19インチ、後輪が17インチとなるため、コーナリング性能に鋭さはありませんが、旋回性もスムーズで素直。曲がっている間もしっかりと手応えを味わえます。その充実感が走っている間中ライダーを包み、顔がほころびます。一体感が楽しめる良いバイクです。

 メーターは単眼の速度計と、その中に必要な情報をLCDモニターに表示するシンプルなもの。回転計すら省かれています。

 V型エンジンよりも低い回転までスムーズさが失われないのが美点の水平対向エンジンは、ゆったり走る場面でも大柄な雰囲気から想像できないほど味わい深さがあり、市街地などの低速でも重心が低いため、ふらつき感がなく上手になったような印象です。前後サスペンションも熟成され、ダンパーの効き具合も悪くありません。

 高速道路では腕を前方外側に伸ばすようなアップライトなポジションですが、ステップの位置が後方になるため自然な前傾となり、走行負圧とバランスがとれるので、日本の制限速度領域では疲労感少なく走れるでしょう。

力強い走り、素直で扱いやすい出力特性、スムーズな旋回性などがライダーを楽しませてくれる

 ガレージカスタムを楽しみながら、オシャレな帆布のバッグにキャンプ道具を詰めこみ、見知らぬ土地を目指して旅をしたくなる冒険クルーザーとしても活躍しそうなキャラクター、休日の振り幅がグンと大きくなりそうなバイクでした。

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「R nineT Scrambler」の価格(消費税10%込み)は192万1000円からとなっています。ETC2.0車載器、グリップヒーターを標準装備しています。

【了】

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Writer: 松井勉

モーターサイクル関係の取材、 執筆、プロモーション映像などを中心に活動を行なう。海外のオフロードレースへの参戦や、新型車の試乗による記事、取材リポートを多数経験。バイクの楽しさを 日々伝え続けている。

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