ヘルメットもファッションに? アライ『ラパイドNEO オーバーランド』デザイナー加藤ノブキが描くコンセプトとは

2020年6月下旬、アライヘルメットから発売される『ラパイドNEO オーバーランド』は、先進的ながら日常に馴染む新しいデザインで注目を集めています。デザインを手がけた加藤ノブキさんに、その誕生へ至った道のりと、コンセプトを伺いました。

日常的にバイクを、ファッションも楽しむきっかけとして

 取材に応じてくれたクリエイター、加藤ノブキさんは温和な笑顔をたたえていました。しかし一度バイクの話になると少年のように目をきらきらとさせ、口調は熱を帯びてきます。まるでバイクへのあふれる情熱を、自身でも持て余しているかのようです。

取材当日にお持ちいただいた『ラパイドNEO オーバーランド』は加藤さんの私物。スモークシールドに変更されている

 16歳で原付免許を取得し、20年以上バイクに乗り続けている加藤さん。現在の愛車はKTMの「RC8」で、近々ファンティックの「キャバレロ・フラットトラック250」を増車予定とのこと。2輪ロードレースの最高峰MotoGP観戦も大好きで、バレンティーノ・ロッシ(Monster Energy Yamaha MotoGP)に声援を送ります。

 これまで漫画家、イラストレーター、絵コンテライターと、幅広いジャンルで活躍してきた加藤さん。最近では腕時計メーカーSEIKOの広告イラストデザインや、イタリアの2輪メーカー「FANTIC(ファンティック)」の日本における広告にも携わっています。

 様々なジャンル、多岐にわたる活躍に「肩書はどうなるんでしょう?」と冗談めかして聞けば「じつは、僕もわからないんですよ」と苦笑い。

 加藤さんが今回デザインを手掛けた『ラパイドNEO オーバーランド』は、アライヘルメットから発売されるニューモデルです。オリーブ・カーキとベージュ・カーキの2色がラインアップされています。

 きっかけは、2019年9月から10月にかけて開催した『モトクロニクル2030』というグループ展でした。ヘルメットにイラストを描く、という企画のため、アライヘルメットに交渉し、厚意により『ラパイドNEO』の提供を受けました。このとき展示されたのが『ラパイドNEO オーバーランド』の原型になります。そしてこれが、アライヘルメット社内で商品化の話につながったのです。

アライヘルメット『ラパイドNEO オーバーランド』を手掛けた加藤ノブキさん

 ちなみに“オーバーランド”とは、このヘルメットのために付された言葉で、クルマでキャンプをしながら旅をするスタイルを表した言葉だそうです。既成の枠を超え、オンロードヘルメットに収まらない、という加藤さんの思いが反映されています。

 加藤さんがこのヘルメットに込めた思いは「ライダーに向けたファッションをトータルで提案したい」という投げかけだと言います。もっと自由に、バイクに乗るときのファッションを楽しんでもいいのではないか、ライディングギアという枠だけにとどまらない格好良さでバイクに乗る、そういう考え方があってもいいのではないか──加藤さんはそう考えます。バイクを降りても、気軽に街歩きができるような、バイクのファッションがあってもいい、と。

「僕は、バイクは自由の象徴だと思うんです。“自由って何だろう?”と考えたとき、一番当てはまるツール。だからこそ、あらゆる観点から、バイクというものをがんじがらめにしたくないんですよ。ファッションを含めてね。もちろん、ライディングギアではない服装でバイクに乗るなら、インナープロテクターは必要ですけどね」

 また加藤さんは「今の時代、もっと寛容さが欲しい」とも言います。何かを否定するのではなく「そういう考え方、ファッションでバイクに乗るのもアリだよね」と受け入れたい。そうした姿勢は、バイクに乗るときのファッションの可能性を広げ、楽しむ選択肢が増えるはずだ、と。

バイク乗りのファッションに、もっと自由と可能性を

 せっかく格好良いバイクに乗るのなら、現在という時代を意識した格好良いファッションで乗りたい──『ラパイドNEO オーバーランド』にはそうしたコンセプトが流れています。

加藤さんが提案するバイク乗りファッションのイラスト群

 取り入れたのは、以前からのライダーファッションらしさと、今、一般のファッションで盛り上がりを見せている要素でした。

「デザインにあたり、若い人をとても意識しましたね。ずっと以前からバイクファッションとして認知されているライダースジャケットのようなミリタリー、最近流行っているアウトドア、それからストリートファッションをミックスし、スポーツの要素も入れています。最近では、ナイキやアディダスのようなスポーツ向けファッションも市民権を得ていますから」

 色使いにもそうした要素が隠れています。

「いわゆる熱狂的なバイク好きだけではないライダーにも反応してもらうために、差し色でペールミントや蛍光オレンジを使っています。これは僕の中でスポーツの要素なんですけど、普段着に合わせやすいようになっているんですよ」

『ラパイドNEO オーバーランド』は、オンロードやオフロードという枠を感じさせないデザインとなっています。

 ブラックの帯は、オフロードバイクに乗るときに装着するゴーグルのバンドをイメージしていますが、オレンジなどの差し色にはスポーツらしさも漂います。さらには近未来の要素も加わっています。

 発端となったグループ展『モトクロニクル2030』は、10年後のモトカルチャーの視覚化をテーマとしており、加藤さんがフォントからデザインした『ARAI』のロゴには、そんな少し先のデザインも含まれています。

 ただし、内奥するのは要素ばかりではありません。「僕はこのヘルメットをつくるとき、“デザイン”しました」と、加藤さんは言います。

「ヘルメットをデザインする、とはどういうことかというと、ラパイドNEOというモデルでなければ、このデザインが成立しないということなんです。だから、例えばすべてのラインはこのラパイドNEOのプロダクトデザインに基づいています。僕が自分で自由に出した線というのはありません」

 デザインにあたり「感覚的な絵や線による装飾にはしたくなかった」と加藤さん。ほとんどが「なぜその色がその場所にそのサイズで置かれ、ラインが配されているのか」ということが説明できると言います。

 その根底には視覚的効果を高める理論があり、デザインはラパイドNEOから導き出され、ラパイドNEOだからこそ、このデザインが実現したのです。加藤さんのヘルメットデザインに対するこだわりが、ひしひしと感じられます。

ラインなどはすべて『ラパイドNEO』から生まれたデザインだという

 ストリート、ミリタリー、アウトドア、そしてスポーツ、さらには近未来のエッセンスが込められた『ラパイドNEO オーバーランド』。すべてが加藤ノブキというクリエイターの手によって効果的にヘルメット内に収まり、静かに主張しています。

 クリエイターとして、なにより1人のバイク乗りとしての思いがヘルメットのグローバルブランドと繋がった加藤ノブキさん。はたして『ラパイドNEO オーバーランド』に込められた思いは、ライダーの心へどのように響くのでしょうか? 期待が高まります。

■加藤ノブキ・プロフィール■
1977年広島県出身。
バイク歴27年。愛車はKTM「RC8」。間もなくファンティック「キャバレロ・フラットトラック250」が相棒に加わる予定。
2002年東京芸術大学美術学部デザイン科卒業。
アーティスト活動とともに、フリーランスとして漫画・イラストレーション・絵コンテなどのクライアントワークを行なう。また、創作漫画集団『mashcomix』のメンバーとしても活動。
2019年、2020年には『UNITEDcafe』店内でのバイクをテーマにしたイラスト展『HAVE A BIKE DAY.』を2年連続で開催。2019年は『DEUS EX MACHINA 原宿』で『モトクロニクル2030』も実施。
腕時計メーカーSEIKOや、イタリアの2輪メーカー「FANTIC(ファンティック)」の日本での広告イラストデザインなどを請け負う。
2020年6月下旬、アライヘルメットよりデザインを手掛けた『ラパイドNEO オーバーランド』がリリースされる。

【了】

【画像】ヘルメットをファッションに?(7枚)

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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