好きなバイクに乗ればいい! 足つき性の不安は身体を大きく使って克服する
ベテランライダー、身長161cmのジャーナリスト和歌山利宏さんは、バイクの足つき性に不安があっても、身体の使い方である程度克服できると言います。詳しく見てみましょう。
足つきの不安を克服して、楽しいバイクライフを
免許を取って50年、バイクを仕事とするようになって45年、身長161cmの私(筆者:和歌山利宏)は、もう少し身長があったら、足つきに気を遣うことはなく、もっとバイク人生を謳歌できたと思うことがないわけではありません。実際、シート高が880mmもある大型アドベンチャーバイクで公道を走りたくはないのです。
でも、それが理由でバイク人生が暗くなったことはありません。十分にバイクを楽しんでいます。立ちゴケしなかったことで、バイクを乗りこなした充実感に自己満足することがあるほどです。
今回は多くのKTMやハスクバーナ・モーターサイクルズ(以下、ハスクバーナ)に試乗しました。最近は「1290スーパーデューク」シリーズのように足つき性が考慮されたモデルも出てきましたが、押し並べてKTMはシートが高いことは事実です。私がバイクにまたがった写真をご覧の取り、決して足つき性は良くありません。
それでも、車体がスリムで重心バランスも良く、身体の動きに自由度が保たれているので対処しやすく、足つきに関してあまり苦労しませんでした。ハスクバーナは「シート座面の角が落とされていたら……」と思いましたが、おかげで広い座面が確保されていて快適ですし、深刻な問題にはなりません。
ただKTMやハスクバーナに限らず、昨今は足つきの不安から、希望のバイクの購入を躊躇する人が多いと聞きます。それも身長が175cmある人が、並みの足つき性のモデルを敬遠することさえあるそうですから、私に言わせれば「甘ったれているんじゃないよ」です。
1969年に市販されたホンダ「CB750Four」は、決して足つき性の良いバイクではありませんでした。でも、多くの若者が憧れ、乗りこなしていました。日本男性の平均身長が170cmに満たなかった時代にです。当時の若者は血気盛んだったのでしょうか。
それはともかく、1970年代には足つき性が悪いモデルもいくつかありました。でも、1980年代から90年代は多くの人がバイクに乗るようになった背景もあってか、どれも足つき性が改善されてきたように思います。
それが近年は、バイクの大型化に伴い再びシート高が上がってきたようです。国内外メーカー含め、小柄なテストライダーが少なくなり、その問題を指摘する人がいなくなっていることも一因かもしれません。もし、シートが高くても、跨ったままサイドスタンドの出し入れができたなら、それだけでも足つきへの不安はかなり解消するのですが……。
足つき性の不安解消法は身体の使い方にアリ、是非お試しを
足つきへの不安について、私は血気とか根性論で片づけるつもりはありません。じつは、スポーツとしての身体操作に注目すれば、かなりのところ対処できるものなのです。
よく「脚は股関節ではなく、みぞおちに着いているつもりで動かせ」と言われます。大腰筋という大きいインナーマッスルは、大腿骨の根元から腰椎のみぞおち付近に掛けて付着しており、体幹を使って大きく強く下肢を動かせるからです。足つきでも同じです。
みぞおちから脚が出ていて、みぞおちから爪先までを拡げるつもりで脚を伸ばせば、骨盤も動いて、感覚的に脚が長くなります。また、みぞおちの位置を地面に近づけてやれば、それだけ足は地面に届きやすくなります。お尻をずらした形になるのも、その結果です。
しかもこの場合、車体の傾き具合を筋肉への荷重感覚から把握でき、反射的に対処することもできます。バイクを支える荷重を股関節で受けるのですが、骨盤が正しく前傾していれば、車体が傾き荷重が大きくなったとき、お尻のホッペを後方に突き出すかのようになるとともに、その前側にある大腰筋も伸ばされます。すると、必要以上の伸長を避けようとする伸張反射によって大腰筋が縮み、無意識に踏ん張ることができるというわけです。
でも、骨盤をシート座面に置いたまま、股関節周りの筋肉だけで対処しようとするのは大変です。しかも車体の状態を平衡感覚で掴むことになり、車体は不安定になります。尾てい骨でシートと接する感じで骨盤を後傾させていると、リラックスしたように見えるのでカッコ良く思われるかもしれませんが、身体操作としては最悪の姿勢です。
股関節だけで車体を支えるのではなく、そのとき下っ腹で踏ん張る感覚が出てくれば、足つきもまた楽し、なのです。
【了】
Writer: 和歌山利宏
1954年2月18日滋賀県大津市生まれ。1975年ヤマハ発動機(株)入社。ロードスポーツ車の開発テストにたずさわる。また自らレース活動を始め、1979年国際A級昇格。1982年より契約ライダーとして、また車体デザイナーとして「XJ750」ベースのF-1マシンの開発にあたり、その後、タイヤ開発のテストライダーとなる。現在は、フリーのジャーナリストとしてバイクの理想を求めて活躍中。