大型スポーツネイキッドのヤマハ「MT-10 SP」 高いレベルのスポーツ性能をツーリングでも味わえるチューニングに

ヤマハ「MT-10」は“ザ・キング・オブ・MT”をキーワードに「YZF-R1」のフレーム、エンジンをベースに開発されました。その2020年モデルであり上級グレードの「MT-10 SP ABS」に試乗しました。

新しいネイキッドスポーツを追求した「MT」シリーズ最高峰

 ヤマハ「MT-10」は“ザ・キング・オブ・MT”をキーワードに、ヤマハのスーパースポーツモデル「YZF-R1」のフレーム、エンジンをベースに開発されました。今回はその2020年モデルであり、上級グレードの「MT-10 SP」に試乗しました。

ヤマハ「MT-10 SP」に試乗する筆者(松井勉)

「MT-10 SP」には、電子制御のセミアクティブサスペンション(オーリンズ製)や、TFTカラーモニター、詳細なセッティング変更が可能なヤマハライドコントロールなどが搭載され、その装備内容が近しい「YZF-R1M」にも通じるブラック、シルバー、ブルーのカラーリングが特徴です。

 排気量997ccの直列4気筒エンジンは“MTらしい特性へのこだわり”を封入するため、市街地から一体感ある走りに向けたチューニングが施されました。

 市街地、ツーリングで多用する微細なアクセルコーントロール領域でのドライバビリティーを上げるため、クランク軸についている発電用マグネトーの重量を増やし、ピストンとクランクシャフトを結ぶコネクティングロッドの材質をチタンからスチール製にするなど、回転パーツの慣性質量を上げています。サーキットでの限界性能を追求する「R1」とは異なるセッティングです。

 また、ファイナルレシオを「R1」よりもショート(ローギアード)にすることで、加速感の向上や、タンデムライド時の扱いやすさも考慮されるなど細やかなチューニングが施されているのも特徴です。

ヘッドライトをフレームマウントとした独特なデザインのフロントフェイス。「SP」にはオーリンズ製のセミアクティブ電子制御サスペンションを標準装備

 車体も「MT」シリーズに合わせて剛性バランスなどをチューニングしたサブフレームなどを使うことで、ただ「R1」からカウルを剥ぎ取っただけのネイキッドでは無いことがわかります。

 跨がったときに感じるライディングポジションは、バーハンドルを持つネイキッドでありながらスポーティなもの。シート先端が細く絞られ、ライダーが深くイン側に体を入れるような動きでも、太ももがシームレスにタンクと接触するようなイメージです。

 また、停止時には地面へストンと足を下ろせるため、足つき感は上々です。車体左側のピボット付近上に後付けで装着された、MT-10専用のETCブラケット(ETC車載器を納めたケース)が左足と干渉するのが少し気になる程度です。

 エンジンを始動すると、直列4気筒でありながら不等間隔爆発による独特の排気音が印象的で、ここは「R1」同様の個性です。

 走り出しのクラッチを繋いだ瞬間、しっかりとしたトルク感で路面を蹴り出します。さすがに2000rpm以下はそれほどではないものの、2500rpmあたりは実用域といえるトルク特性で、市街地走行では4000rpm以下でも一体感ある走りを楽しめます。さすが4気筒だけあって、6速で50km/h以上ならばスルスルと加速もします。

視覚的にも車体中央へ塊が寄せられたような凝縮感を演出したスタイリング

 選べる3つのパワーモードは、その特性が「弱」「中」「強」的に明確な段差をつけたものではなく、それぞれの領域にあえて重なる、クロスオーバーするエリアを設けることで、それぞれのモードをより積極的に変更したり、選びやすい方向に仕上げています。

 使ってみると、確かにそれを感じます。例えば「レイン」「ノーマル」「スポーツ」とモードがあるバイクの場合、アクセルに対するレスポンスが「レイン」では穏やか過ぎで「スポーツ」ではシビア過ぎに感じ、結局「ノーマル」一択でライディングモード変更を使わなくなる、ということが少なくありません。その点「MT-10」の設定は、切り替えることで得られる塩加減の良さが印象的です。

 シフトタッチは、クイックシフターを活用している時には気持ち良くアップもダウンもスムーズにチェンジするのですが、信号停止でニュートラルを探すような場面では、シフトの渋さを感じるのが少し気になりました。

 市街地でのハンドリングは安定感があり、過敏なところはありません。そして電子制御サスペンションの動きが素晴らしく、乗り心地がとてもマイルド。スプリングやダンパーはしっかりしているのに、動き出しの作動性とその時の吸収力に優れた良い足です。

 こうした乗り味は高速道路でも快適なクルージングを提供してくれます。アクセルを開ければ6速で80km/hからでも素晴らしい加速を披露し、アクセルの開け始めからグッとひねった手首の角度とライダーの期待感を勝手に上回ること無く、加速の楽しさを堪能させてくれます。

スーパースポーツモデル「YZF-R1」とプラットフォームを共通としながらも、まったく異なるチューニングでクルージングからワインディングまで楽しさを堪能できる

 これはツーリング先のワインディングでも同様でした。ハンドリングは充分にシャープ。そのなかに安定感と手応えがあり、「R1」とは異なるチューニングです。このとき、ブレーキングの力をきれいに路面に伝え、さらに路面にタイヤをしっかりと接地させ続けるサスペンションのセッティングもお見事。それをツーリングレベルから享受できるのが、このバイクが持つ大きな価値観なのだと感じました。

 結論を言えば、どこにも荒々しい部分がないのに、乗り味は高いレベルで上質かつスポーティ。実際にその性能を解き放てば痛快な走りも楽しめる、ピークの高さより裾野の広さが印象的でした。

 ヤマハ「MT」シリーズのフラッグシップモデル「MT-10 SP ABS」の価格(消費税10%込み)は203万5000円です。

【了】

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Writer: 松井勉

モーターサイクル関係の取材、 執筆、プロモーション映像などを中心に活動を行なう。海外のオフロードレースへの参戦や、新型車の試乗による記事、取材リポートを多数経験。バイクの楽しさを 日々伝え続けている。

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