カワサキ「MEGURO K3」発売のウラで繰り広げられる川崎重工と特許庁の激しい攻防 じつは商標登録してなかった!?

2021年2月発売となるカワサキ「MEGURO K3」ですが、その名称やロゴの商標登録には紆余曲折がありました。カワサキ「Ninja H2」や「Ninja ZX-25R SE」などのカワサキ車オーナーである小林ゆきさんが解説します。

戦前からあった日本の二輪車メーカー『目黒製作所』

 戦後、二輪車メーカーが乱立したのち、現在の4メーカー寡占体制の流れになっていくなか、倒産の危機にあった名門「メグロ」を吸収合併したのが川崎重工業(以下、カワサキ)でした。

満を持して発表、2021年2月発売決定となったカワサキ「MEGURO K3」だが、その名称やロゴの商標登録には紆余曲折があった

 カワサキはメグロ合併後、メグロブランドの代表モデル「メグロスタミナK」にルーツを持つ「Z1」や「W1」シリーズを開発。現在の「Z」「W」にもその潮流は脈々と受け継がれています。

 そして満を持して2021年2月に発売されることになったのが「MEGIRO K3(メグロ・ケースリー)」です。

 ところが、じつはこの「メグロ」「MEGURO」のネーミングを使用するにあたって紆余曲折がありました。一般的にメーカーは自社ブランドを守るため、社名や商品、車名の商標登録を行いますが、カワサキは最近まで「メグロ」「MEGURO」の商標登録をしていなかったのです!

「メグロ」を巡るカワサキと特許庁の攻防、温度差がスゴイ!!

 メグロの雰囲気を継承するバーチカルツインの「W650(ダブル650)」が発売されたのは1999年でした。2011年には「W800(ダブル800)」にモデルチェンジし、2019年の東京モーターショーでは「W800」をベースにして「メグロ」と名付けたモデルが出るのではないか? そう思わせる演出が行われました。

2019年東京モーターショーのカワサキブース正面に展示された「カワサキ500メグロK2」。奇しくも、ホンダも原点回帰をテーマに歴代「CB」シリーズを展示していたが、そちらはブースの奥だった

 モーターショーはニューモデルのお披露目の場なのに、ブースの表側には往年の名車、カワサキ「メグロK2」(1965年式)と「650-W1」(1967年式)が展示されたのです。ニューモデルとして再登場した「W800」は、あえてブースの内側に展示されました。

 この演出により、次期「W」にはメグロの名称が使われるのではないかと思われましたが、そこには、じつはカワサキは「メグロ」「MEGURO」の商標を獲得できていなかったという大きな障壁が立ちはだかっていました。

 日本で「メグロ」「MEGURO」に関係する商標を持っているのは、塗料などのメーカーである「メグロ化学工業株式会社」と、電子計測機器のメーカーである株式会社目黒電波測器の存続会社、「株式会社計測技術研究所」で、それぞれ自社ロゴマークを「メグロ・MEGURO」の呼称で登録しています。ほかにも、個人で「メグロ発動機」の商標を取っている人もいます。これらは商標の商品区分に「二輪自動車」なども含まれていました。

 商標とは、言葉や文字、ロゴマークなどを指しますが、特許庁に商標出願し、商標登録されると勝手にほかの人や会社が使えなくなります。このため、自社で製造する予定がなくても、広範囲の区分を登録するのが普通です。

 これを踏まえて、カワサキはメグロの名称をバイクで使うため、2019年1月から「メグロ」「MEGURO」の文言やロゴ、かつてのメグロ時代に使用していた「MW(メグロワークス)」の標章の商標出願、そして他2社のMEGUROマーク(会社のロゴ)に対する二輪自動車等の指定商品登録の取り消しを出願しています。

 メグロはバイクファンなら周知の二輪ブランドですが、今回のカワサキの商標登録にあたっては、特許庁から拒絶査定の審決を受けるなど、攻防が繰り広げられています。

 たとえば、片仮名でデザインした「メグロ」のロゴに関しては、特許庁審判官から「片仮名文字をややデザイン化した書体で表してなるところ、そのデザイン化の程度は格別特異のものとはいえない」「普通に用いられる域を脱しない程度に表示してなるものと認められる」などと、デザインセンスを問われています(とほほ)。

特許庁に「デザイン化の程度は格別特異のものとはいえない」「普通に用いられる域を脱しない程度」と酷評され商標登録を一旦拒絶されたメグロのカタカナロゴ。昭和モダンでカッコイイロゴだと思えるが……

 また「本願商標は、東京都23区の一つである“目黒”を片仮名で表記したものと容易に認識される」「自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない」とバッサリ……。

 さらには「ありふれた氏の一つと認められる」とされ、出願を拒絶されてしまいました。

「MEGURO」に関しては「“目黒”をローマ字で表記したものと理解されるものであり、我が国において、“目黒”はありふれた姓氏の一つであるとみるのが相当」と通知が出されました。理由として「苗字辞典」やインターネットの「目黒さん都道府県ランキング」を参考資料にして“ありふれている”と断定しています。

 これに対してカワサキは、6000字以上に及ぶ意見書の中で「審判官の拒絶理由はそもそもデータが古い」「確かな出典がない」「ほかのデータを調べると目黒はありふれた姓氏ではない」「目黒にはスズメ目メジロ科の鳥の意味合いもある」とし、MEGUROは「日本を代表する二輪自動車メーカーだった目黒製作所又は同製作所の二輪自動車も想起されます」と意見しています。

 すると今度は特許庁から、「MERUROは東京都23区の一つである“目黒”を欧文字で表記したものであり、“東京都目黒区において生産・販売される商品程の意味合いを容易に理解・認識される商品”であり、“誤認を生じさせるおそれがある”」として、またまた拒絶査定されてしまいます。

 いやいやいやいや「メグロ」「MEGURO」は世界に誇る二輪車産業の歴史的な名称ではないですか!? あぁん!? とばかりに、今度は2万字にもおよぶ審判請求書をカワサキは提出しました。

通称「メグロワークス」と呼ばれる「カワサキ500メグロK2」のエンブレムのデザインも、すぐに商標登録というわけにはいかなかった

 それによれば、そもそも「MEGURO」は……

「工場のあった地名の“目黒”に由来しており、我が国を代表する二輪自動車メーカーのブランドを承継している」

「戦前から白バイに採用されていた」

「1964年の東京オリンピックでは聖火リレーを先導したメーカーであった」

つまり「すごいんだぞ」(※意訳)

「1965年発売のメグロK2はメグロ製作所を吸収合併した川崎航空機工業が製造したモデルであり、いまのカワサキに技術もブランドも受け継がれている」

「現在発売しているカワサキW800シリーズはカワサキ500メグロK2のコンセプトを引き継いでおり“好評を博している”」(※原文ママ)

「MEGUROはすでにアメリカ、EU、オーストラリア、ニュージーランド、ブラジルで商標登録が認められている」

「ていうか、日本の二輪車メーカーはカワサキとスズキ、ホンダ、ヤマハの4社で寡占されているのは自明なのだから、今現在MEGUROを目黒で作るという誤認はされないし、そもそも目黒にそんな大規模な企業はないじゃねーか、だいたいMEGUROつったら地名だけじゃなく、バイクや鳥や魚の名前、人の氏姓などいろいろ想起されるだろ、ってか目黒ってそんなにありふれた苗字じゃないぞ? もう一回言うけど?」(※超意訳)

 ……と、このような内容で審判請求を提出しました。

 メグロに関する商標登録の攻防は現在も続いていますが、片仮名のメグロは商標登録済みとなりました。

「MW(メグロワークス)」の標章に関しては、2020年9月に審査中と発表されたので、間もなく登録されるのではないでしょうか。

 また、英文「MEGURO」に関しても、2020年12月17日に面接が行なわれ、審査官が「出席者等の説明の内容を理解した」との記録が発表されましたので、こちらも商標登録間近と見てよさそうです。

カワサキ「MEGURO K3」のエンブレムはアルミニウム製で色付けは職人が手作業で行なっているとのこと

 とにもかくにも、ニューモデル「MEGURO K3」は2020年11月19日に発表会が行なわれ、2021年2月1日に発売が決まりました(税込価格127万6000円)。

 それまでに商標問題がすっきりすると良いですね!

【了】

【画像】カワサキとメグロの懐かしいロゴを見る(11枚)

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Writer: 小林ゆき(モーターサイクルジャーナリスト)

モーターサイクルジャーナリスト・ライダーとして、メディアへの出演や寄稿など精力的に活動中。バイクで日本一周、海外ツーリング経験も豊富。二輪専門誌「クラブマン」元編集部員。レースはライダーのほか、鈴鹿8耐ではチーム監督として参戦経験も。世界最古の公道バイクレース・マン島TTレースへは1996年から通い続けている。

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