レトロかっこいいMVアグスタ「スーパーヴェローチェ800」 そのオリジナリティは今に始まった話ではなかった?

イタリアのバイクブランド「MVアグスタ」がリリースした造形美が特徴のスーパースポーツモデル「スーパーヴェローチェ800」は、流行や懐古的な手法を選ばず、革新的なスタイリングを実現しています。

スーパーベローチェの意外な資質

 2020年秋から日本市場への導入が始まった「SUPERVELOCE 800(スーパーベローチェ800)」は、MVアグスタが初めて手がけたレトロテイストのバイクです。

MVアグスタ「SUPERVELOCE 800(スーパーベローチェ800)」に乗る筆者(中村友彦)

 パッと見で目を引くのは、往年の名車を再現したのではなく、昔ながらの丸みを帯びた造形と現代の手法を巧みに融合したデザインですが、ハンドルバーをやや上方かつ手前に移動すると同時に、シート座面を前下がりから水平に変更し、開発ベースの「F3 800」とは一線を画するフレンドリーさを獲得したことも、このモデルの魅力を語るうえでは重要な要素でしょう。

 そんな「スーパーベローチェ800」を走らせている最中、私(筆者:中村友彦)の頭の中にはふと1999年に体験した「F4 Serie Oro」(セリエ・オロ=ゴールド・シリーズの意)、MVアグスタ復活の第1号車となった、名車の姿が浮かびました。

 もちろん「スーパーベローチェ800」と「F4セリエオロ」は、生い立ちも構成もまったく異なるモデルですが、各時代のスーパースポーツの王道に迎合しないキャラクターは、2台に通じる要素だと思えたのです。

「F4セリエオロ」の思い出

 2台の共通点の前に、まずは1999年の私が「F4セリエオロ」に抱いた印象を記しましょう。

MVアグスタ「F4 Serie Oro(F4セリエオロ)」(1999年)

 当時の私は2輪雑誌の仕事を始めて4年目で、黎明期の日本製並列4気筒リッタースーパースポーツに対して、そこはかとない疑問を抱いていました。もっともその背景には、私自身の経験や技量不足があるのですが、日常域でツラさを感じるスパルタンな乗車姿勢や、回してナンボのエンジン特性には馴染めなかったし、全車が同じようなアルミツインスパーフレームと同じような外装を採用していることには、何となく物足りなさを感じていたのです。

 そういった心境を経て「F4セリエオロ」を体験した私は、日本車とは異なる構成と特性に、大いに心を動かされました。乗車姿勢は決して安楽ではないのですが、シートが同時代の日本製リッタースーパースポーツより20mmほど低かったため、日常域にも何とか対応できましたし、エンジン本体の味付けに加えて4本出しセンターアップマフラーの効果なのでしょう、低中回転域でもかなりの充実感が得られました。また、クロモリパイプ+マグネシウム製ピボットプレートのフレームは、当時のアルミツインスパーと一線を画するしなやかさを備えていましたし、流麗で抑揚に富んだ外装からは、既存の常識に捉われない、MVアグスタのオリジナリティを感じました。

 いずれにしても「F4セリエオロ」は、当時の2輪の世界では異端児と言っても差し支えない存在で、このモデルを通して、私は大排気量並列4気筒スーパースポーツの正解がひとつだけではないことを学んだのです(ラジアル配置の吸排気バルブやセンターカムチェーン、背面ジェネレーターなども、当時の日本車の基準で考えると意外な機構でした)。

 もっとも、以後のF4シリーズは高出力化と大排気量化を推し進め、運動性能を追求した結果として、初期のセリエオロやF4Sシリーズの特徴だったフレンドリーさは、次第に失われていくこととなりました。

スーパースポーツの新しい可能性

 さて、過去の体験談が長くなりましたが、「スーパーベローチェ800」を走らせていると、基本設計を共有する「F3 800」よりも、なんだか並列3気筒エンジンのメリとハリが濃厚に感じられるし、シャシーからのフィードバックは常用域でも瑞々しく伝わって来るのです。

MVアグスタ「SUPERVELOCE 800(スーパーベローチェ800)」は、排気量798ccの並列3気筒エンジンを搭載するスーパースポーツモデル「F3 800」がベースとなっている

 その最大の理由は、「F4セリエオロ」に通じるフレンドリーなライディングポジションのおかげで、ライダーがリラックスできるからでしょう。そしてその事実を認識したうえで、外観を改めて観察すると、柔らかで暖かみを感じるデザインは、アグレッシブ路線を突き進む現代のスーパースポーツとは完全な別物で、相対的な位置づけは、デビュー時の「F4セリエオロ」とよく似ているように思えてきます。

 となれば、近年のスーパースポーツに疑問を抱くライダーがこのモデルを体験したら、おそらく、かつての私のように“こんな世界があったのか!”という感じで、目からウロコという気持ちになるのではないでしょうか。

 いずれにしても「スーパーベローチェ800」は、「F3 800」の単なる“着せ替えレトロ仕様”ではなく、スーパースポーツの守備範囲を広げる、新しい可能性を備えているのです。

 もちろんその可能性は、どんなメーカーでも利用できます。ただし、例えば現代の日本製スーパースポーツ、あるいはドゥカティ「パニガレーV4」やBMW Motorrad「S1000RR」などが、ライディングポジションをフレンドリーにして、レトロな外装を採用したら、それだけで魅力的なバイクが作れるのかと言うと、必ずしもそんなことはないでしょう。

レトロな印象ながら他に例がない造形が最大の特徴であり魅力

 でも私としては、「スーパーベローチェ800」が導入した手法は、今後のスーパースポーツを考えるうえで、多くのメーカーにとってヒントになるような気がしています。

※ ※ ※

 MVアグスタ「スーパーヴェローチェ800」の価格(消費税10%込み)は、写真の「アゴレッド/アゴシルバー」が249万7000円、「メタリックカーボンブラック/メタリックダークグレー」が256万3000円です。

【了】

【画像】革新的な造形の「スーパーヴェローチェ800」を見る(9枚)

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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