MVアグスタ「スーパーヴェローチェ800」 独創的なデザインに包まれた並列3気筒エンジンの魅力
MVアグスタ「スーパーヴェローチェ800」は、2018年にコンセプトモデルとして初登場し、革新的なデザインで大注目を集めた並列3気筒エンジンを搭載するスーパースポーツモデルです。いったいどのような乗り味なのでしょうか。
独創的なデザイン、搭載される3気筒エンジンもまた独特
MVアグスタのニューモデル「SUPERVELOCE 800(スーパーヴェローチェ800)」に乗りました。英語とイタリア語を組み合わせた車名を訳すと「激速800」……スポーツバイクらしい、じつにド直球なネーミングと言えるでしょう。

とはいえ、排気量は798cc、最高出力は148HPですから、手に負えないほど過激ではありません。6000rpmあたりまでならトルクはやや細く、レスポンスはむしろまったりとしたものです。
反面、8000rpm以上になると俄然快活になります。スロットルのわずかな動きを見逃すことなく加速態勢に入り、その様はリードをグングン引っ張る犬さながら。2ストロークエンジンにも似たフィーリングで、パワーがどんどん溢れ出してきます。もっとも、これで大型犬並に奔放なら大変でしょうが、コンパクトな「スーパーヴェローチェ800」は、さしずめ中型犬といったところ。むやみに振り回されることなく、主導権を握っていられるはずです。
乾燥重量は173kgを公称しています。ガソリンやオイル、クーラントといった水モノを含んでも190kg台前半に収まっているに違いなく、実際、押し引きや取り回しは楽に行えます。なによりライディングポジションがよくまとまっていて、平均的な体格の日本人がまたがっても違和感は皆無。ハンドルはかなり低い位置にありますが、その見た目よりもずっと安楽で、街乗りでもほとんど苦痛を感じません。
ただし、操作系に関しては、弱点がひとつだけあります。それがクラッチレバーの重さです。今時のモデルとしては握力をかなり要し、ストップ&ゴーが続く渋滞路では相応の負担になることは否めません。

ギアのアップにもダウンにも対応するオートシフターが標準装備されているため、走り出してしまえば左手はフリーにできるとはいえ、手が小さい人や握力に自信がない人は、ディーラーなどで一度試しておいた方がいいでしょう。現在、MVアグスタは自動遠心クラッチの一種である「SCS(スマートクラッチシステム)」の搭載に積極的ですから、「スーパーヴェローチェ800」にも採用されることを期待しています。
二次曲線的に盛り上がるパワーフィーリングや高回転で発せられる刺激的なサウンドが、このモデルに搭載される並列3気筒エンジン独特の味わいであり、魅力の大半を担っています。それは「F3 800」や「ブルターレ800」、「ドラッグスター800」といった兄弟モデルにも共通する部分ですが、「スーパーヴェローチェ800」が抜きん出て素晴らしいのがハンドリングです。

既述の通り、ハンドルは低いのですが手前にセットされているため、自然にフロントタイヤを路面へ押しつけられるようになっています。このおかげでまっすぐ走っている時はもちろん、深々とバンクさせている時もタイヤの接地感が分かりやすく、実際にしっかりグリップ。ビタッと張りついたような安定感を生んでいるのです。
イタリアのスポーツバイクといえば、シロートお断りのスパルタンなイメージが色濃いものですが、「スーパーヴェローチェ800」の振る舞いには落ち着きがあり、誰もがスムーズなコーナリングを楽しめるでしょう。
また、MVアグスタらしいのは、止まっていても満足度が高いところです。ジャンルとしては流行りのネオクラシックに当たるのでしょうが、例えばカワサキ「Z900RS」に対する「Z1」、スズキ「KATANA」に対する「GSX1100S」というように、明確なモチーフはありません。
丸みを帯びたフロントカウルや燃料タンクのレザーバンド、前後に備わる一灯のライト類は1970年代風と言われればそう見えるものの、過去の名車に頼ることなく、オリジナリティに富んだ造形で構成。それによって他のネオクラシックにない、独特な雰囲気が与えられています。

このレトロテイストのデザインありきで手に入れてもおそらく後悔はなく、乗れば乗ったで非日常的な時間が過ごせるに違いありません。
※ ※ ※
MVアグスタ「スーパーヴェローチェ800」の車体価格は、税込みで249万7000円(アゴレッド/アゴシルバー)から256万3000円(メタリックカーボンブラック/メタリックダークグレー)です。
【了】
Writer: 伊丹孝裕
二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。マン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムなど、世界各国のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。