トラディッショナルなチョッパー・スタイルの中で表現された オリジナリティと卓越のクオリティーを誇るパンヘッド・チョッパー
我が国最大のアメリカン・カスタムの祭典である“YOKOHAMA HOTROD CUSTOM SHOW”では、世界から称賛されるような優れたカスタムバイクが展示されますが、2019年のい開催時に“ベスト・チョッパー”を獲得したホットチョップ製の一台もまさにそんな一台です。どのような車両なのでしょうか。
チョッパーにおけるトラディショナルとは?
1950年代にアメリカで芽吹き、60年代にはスタイルや手法が確立されたチョッパーというカスタムスタイルですが、誕生からの月日を単純に考えてもお分かりのとおり、既に“トラディッショナル”と呼ぶべきものが存在しています。
辞書をひもとくと“伝統的”と記されている“トラッド”という言葉ですが、チョッパーがこの世に生まれて半世紀以上。当然、確立された手法は数多あります。
ではその典型的なチョッパーとは何か? そんな問いに対しての回答をあえて言えば“サイドビューから見たシルエットがネックを頂点に美しい三角形となるあのスタイル”とでもいえばいいでしょうか。もともとは自由な発想で創られるべき“チョッパー”というカスタム・スタイルで何かを定義づけることは、じつは矛盾したことなのですが、映画の“イージーライダー”に登場したマシンのような……とするのが一般的には分かりやすいかもしれません。
そうした“典型的”なスタイルのチョッパーの中で個性を加えることは、あたかも伝統的な懐石料理をアレンジするくらいに、じつは難しいことなのですが、それを見事に果たした車両がここに紹介する京都のホットチョップスピードショップの手による一台です。
適切なトレール量の算出で素直なハンドリングを実現
2019年、我が国最大のアメリカン・カスタムの祭典である“YOKOHAMA HOTROD CUSTOM SHOW”に於いてこのマシンは“ベスト・チョッパー”を獲得したのですが、やはり唸らされるのが典型的なチョッパー、その決めごとの中で徹底して高められたクオリティと個性です。
よくある“トラッド”なチョッパーといえば生まれた時代背景からリアサスを持たないリジッドフレームをベースにすることが定番なのですが、注目すべきポイントとして、この車両はあえて1965年式パンヘッドのスイングアーム・フレームが活かされています。
近年のホットチョップの作風として、このような“4速フレーム(1985年までのハーレーで採用されたスイングアームフレーム。この時代、ミッションが4速だったので、そう呼ばれています)”を使ったオールドスクール・チョッパーがよく見られるのですが、シンプルさを求められるチョッパーというもので、どちらかというとスイングアームを残すことはスタイル的に不利な手法といえるのですが、このマシンの場合はFLタイプのカバード・リアショックを用いて巧くまとめあげられています。
その車体のフロントにはホットチョップが製作したオリジナルのガーダーフォークが取り付けられているのですが、ビルダーの中野健太郎氏によると、このパーツは樽型のスプリングから設計し、国内生産されたものとのことでスタイルと走りを見事に両立するもの。
現代的なテレスコピックフォークを装着するスポーツバイクとまでは言いませんが、キッチリとトレール量を算出し、正しいディメンションとなっている為、ハンドリングは驚く程に素直です。
チョッパーといえば多くの人が「ハンドリングが重く、フロントがガクンと突然切れ込む」といったネガティブなイメージで語られることも多いのですが、正しく製作されたものは、その限りではありません。そうした部分もこのマシンが高い評価を得た一因でしょう。
トラディショナルなスタイルに閉じ込められた個性
また、外装を見てもフレームやタンクに美しく施されたモールディングや“HOT CREAM WORM”と名付けられた車名のとおり、随所に施された“ミミズ”調のデザインで統一感が図られている点など車体には隙と呼ぶべきものが見当たりません。
トラディッショナルなチョッパー・スタイルの中で個性を与えることは冒頭で書かせて頂いたとおり、難解な作業なのですが、このマシンは見事にそれが果たされています。
昨年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、中止の措置がとられたYOKOHAMA HOTROD CUSTOM SHOWですが、いよいよ今年は30周年。
まだ年が明けたばかりゆえ、この先はどうなるのか予想がつかないのが正直なところですが、2021年こそ年末には現在の状況が収束し、この一台のような素晴らしいマシンがパシフィコ横浜で1台でも多く無事に展示されることを祈るばかりです。
【了】
Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)
ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。