1990年代の「ストリート・トラッカー」を現代的にアレンジ 軽快さを感じるヤマハ「MT-25」カスタム
日本ではかつてヤマハ「TW」やホンダ「FTR」をベースにした「ストリート・トラッカー」が一世風靡しましたが、広島のショップ「ビアード」が手掛けたカスタムはまさに、そうしたマシンを彷彿させる一台に仕上げられています。どのような仕様となっているのでしょうか。
ヤマハ「MT-25」を現代的なストリート・トラッカーに
1990年代後期、雑誌やTVドラマの影響でヤマハ「TW」やホンダ「FTR」をベースにした「ストリート・トラッカー」が数多く造られ、盛り上がりを見せた我が国のカスタム・シーン……当時といえば多くの若者たちが「バイクを日常のアシ」として活用し、街中で頻繁に目にしたものですが、ここに紹介する1台は、まさにそんな時代のノリを現代的にアレンジし、アップデートを果たした上で復刻させたものといえるかもしれません。

同カスタムバイクを製作した広島県廿日市市の“A-Beard(ビアード)”は、1996年にバイク総合量販店である「己斐オートバイセンター」のカスタム部門として設立されたショップで、当時からいわゆる「ストリート・トラッカー」を多く手掛け、広島のシーンの盛り上がりに一役買ってきた存在です。
2019年のカスタムイベント「YOKOHAMA HOTROD CUSTOM SHOW」に出展されたビアード製のマシンは、まさに“当時の息吹”を感じさせる仕上がりで、249ccエンジン搭載のネイキッドモデル、ヤマハ『MT-25』をベースに見事なカスタムが施されています。

インドネシアにあるヤマハ発動機のグループ企業「PT.Yamaha Indonesia Motor Manufacturing(YIMM)」で生産される同モデルは、バイク人気が加速する同国に於いて、高い支持を得ているモデルですが、その要因としてあげられるのがDOHC4バルブニ気筒249ccエンジンの扱いやすさと市街地での機敏な走行に適したライディングポジション。このビアードによるマシンも、そうした素材の良さを活かしつつ、各部がモデファイされているのですが、当時の「TWトラッカー」をイメージさせる外装は作り手のセンスを感じさせるものとなっています。
カスタムバイクでもさりげない利便性を
フレームはあえてストックを活かしつつ、タンクやシート、カウルなどの外装とアップマフラーの装着などで「オフ車とロードモデルの中間」のようなスタイルとなったこの車両は、ハーレーのスポーツスター用を加工したコンパクトなタンクやフラットな形状のダブルシート、前後に履かれたシンコー製ブロックタイヤなどで確かに当時の「ストリート・トラッカー」のような雰囲気に仕上げられているのですが、そこはやはり現在のマシン。

LEDヘッドライトボディにはUSBポートが備えられており、「スマホ世代」の若者にとっての使いやすさが追求されている点も唸らされるポイントとなっています。たとえば、このマシンが「NEW-TW」としてメーカーからリリースされたもの……と言われたとしても違和感を感じさせない完成度の高さは、繰り返しを承知でいえば見事の一言です。
ちなみに我が国では2006年から道路交通法と駐車場法が改正され、若者たちが「日常のアシ」としてバイクを使用することがスッカリ難しい状況となっていますが、「もしも、その法律がなければ……」と空想すると、多くの人々が再びこのマシンのようなカスタムを求めるのではないかという予感もあります。
折しも現在は「コロナ禍」の中、キャンプと並んでバイクがアウトドア・レジャーとして見直され、ひとつのブームとなっているそうですが、やはりバイクは「密」を避ける上で打ってつけの存在であり、移動手段。この先、「生活様式の変化」に合わせて法律が改正されることで、90年代のようにこうしたマシンの多くが「街中」を疾走し、「若者たち」によって盛り上がったシーンが再び見られることを個人的には願うばかりです。
【了】
Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)
ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。