カワサキ「Ninja ZX-10R」新型モデルはミドルクラスのストリートスポーツのような軽快さ
カワサキは愛知県のスパ西浦モーターパークにおいて「カワサキプラザスタッフ向けNinja Team Green Cup講習会」を開催しました。そこでは新型の「Ninja ZX-10R」が展示されるとともに、コース使用の合間を縫って新型10Rを走らせることができました。ジャーナリストの和歌山利宏さんは新型モデルにどのような印象を抱いたのでしょうか。
ミドルクラスのストリートスポーツのような軽快さ
発表されて間もない2021年型カワサキ「Ninja ZX-10R」(以下:10R)に、早くも試乗の幸運が訪れました。愛知県のスパ西浦モーターパークにおいて「カワサキプラザスタッフ向けNinja Team Green Cup講習会」が行われ、コース使用の合間を縫って新型10Rを走らせてもらうことができたのです。
そこで見た10Rは、明らかに10Rそのものであっても、従来モデルとのデザインの狙いの違いがはっきり伝わります。従来型はデザイン屋さんが目一杯腕を振るったという感じで、芸術点としては高いでしょうが、この新型は空力の追及から生まれてきたと思わせます。
それにしても、この空力特性の改良が、これほどまでに新型の走りを刷新していたとは、意外でした。
ピットロードをゆっくり走り出し、軽くスラロームしたら、何と、実に軽快で素直なのです。ミドルクラスのストリートスポーツを思わせるほどです。フォークオフセットが2mm大きくされ、トレールが小さくなったことによる操舵が軽くなっていること、ヘッドライトが450g軽量化されたことなどのおかげもあるのでしょうが、それ以前に、バイクがリーンし、向きを変えていく3次元的な動きを空気が妨げていない印象です。
ダウンフォース向上による安定感
ここスパ西浦には、コーナーとコーナーの間が少し“く”の字に曲がっていて、フル加速しながら向きを変えていくところが2か所ありますが、おかげでそこでも軽快な素直さが維持されている気がします。
空気抵抗が7%低減していることはともかく、バイクの動きそのものに対して抵抗が小さくなった感じです。これからすると、従来型は車体にたくさんの空気がまとわり付いていたかのようです。
ダウンフォースが17%高められた効果も絶大です。フル加速中でも、軽くなりがちな前輪荷重がしっかり保たれ、安定しています。ウィンドシールドが40㎜高くなり、伏せ姿勢でヘルメットに掛かる風圧もなく、快適です。
一度、中途半端に上体を起こしたまま、3速でフル加速したら(車速で200km/h超)、軽くなる前輪荷重にさすがにステアリングに振れが生じましたが、それすら増幅する不安はありませんでした。従来型だとちょっと冷や汗を掻いたかもしれません。
そして、走り出したときに低速域で感じた素直な軽快さが、コーナリングでのハンドリングにそのまま反映されています。コーナリングの自由度が高く、ラインも修正しやすいのです。そのことには、フロントフォークのバネのソフト化やピボット位置の1㎜低下によって、スロットルワークで姿勢変化を生じさせやすくなったこと、フォークオフセットの増大で舵角を入れやすくなったことのおかげも大きいのでしょう。
操りやすいライディングポジション
ライディングポジションは、ハンドルが10㎜前方で絞り角も開かれ、ステップは5㎜高くなりました。シート座面も後部が高く前傾角を強められています。先鋭度を強める方向ですが、競合車と比べ決して尖っているわけではありません。微妙にスポーツ度が高められ、マシンの操りやすさに貢献しているのです。
また、アンダーブラケットのクランプ幅が下側に拡大され、剛性が高められています。これによりブレーキングから一次旋回に掛けて、マシンから安定した手応えを掴みやすくなっています。
ブレンボキャリパーのフロントブレーキの効きもコントロール性も抜群です。握り代の変化からも状態を把握しやすいものとなっています。ただ、サーキットを攻めるなら、握り代の変化をもう少し抑えたほうがいいかもしれません。実際、高性能バージョンの「Ninja ZX-10RR」はホースがステンレスメッシュ製になっており、サーキット走行を主体に楽しむならそちらへの換装もいいでしょう。
ズボラな走りにも応えるエンジンの柔軟性
エンジンの基本は従来型から引き継がれますが、改めて上質なコントロール性には感心させられます。今回はサーキット走行ということもありフルパワーモードで通し、トラクションコントロールは介入度がやや多めのモード3に落ち着きました。標準装着タイヤのままさほど攻めない走りで、制御が程よく感じられたからです。
新型は、ミッションがワイドレシオ方向に変更され、1~3速でややショート化されています。1コーナーに進入してから最終コーナーを立ち上がるまで、2速キープというズボラな走りも可能で、エンジンの柔軟性とワイドレンジさも思い知らされます。
この新型10Rは、多岐に改良の手が入れられることで、見事に完成度が高められています。スポーティさを高めながらも、より多くのライダーを受け入れられるものへと変貌していました。
しかも、高められたコーナリングの自由度の高さが、10Rの持ち味、そしてレースでの強さが明確に感じられるものとなっています。では、その持ち味と強さとはいかなるものなのか、それは次回に譲るとしましょう。
【了】
Writer: 和歌山利宏
1954年2月18日滋賀県大津市生まれ。1975年ヤマハ発動機(株)入社。ロードスポーツ車の開発テストにたずさわる。また自らレース活動を始め、1979年国際A級昇格。1982年より契約ライダーとして、また車体デザイナーとして「XJ750」ベースのF-1マシンの開発にあたり、その後、タイヤ開発のテストライダーとなる。現在は、フリーのジャーナリストとしてバイクの理想を求めて活躍中。