ドゥカティを相手に驚愕の走りを見せつけるハーレー 「JOYRIDEスピードショップ」がFXRでサーキットに挑む意味とは

一部モデルを除き、一般的にはサーキット走行には不向きと思われているハーレーダビッドソンですが、あえて不利なハーレーに手を加えレースに挑む人物がいます。いったいどのような意図があって参加しているのでしょうか。

多くのユーザーがハーレーに抱く印象とは

 世間一般の方々が思い浮かべる“ハーレーダビッドソン”というバイクのイメージ……それには一体、どんなものが挙げられるでしょうか?

 たとえば「威風堂々とした重厚なムード」や「どこまでも続く広大なアメリカ大陸の一本道をひたすらに走り抜ける直進安定性」などがアタマに浮かびますが、しかし、それは逆に「コーナリング」や「サーキットでのスポーツ走行」に不向きであると言わざるを得ないのが現実です。

ハーレーのビッグツインであることが信じがたい程のバンク角でコーナーを駆け抜けるJOYRIDE-FXR。ライダーである西田選手の力量もさることながらマシン自体のポテンシャルの高さも伺えます

 たとえばハーレーの中でスポーツモデルと位置づけされる「スポーツスター」にしても車重は256kg。大排気量のビッグツイン・モデルに目を移すと「ソフテイル・スタンダード」でも297kgの重量となっており、最高峰のツーリングモデルに至っては400kgオーバーもザラです。加えて、どのモデルも総じて車高も低く設定されているので、コーナリング時のバンク角を確保出来ないのも正直なところでしょう。

 しかし、その「ハーレーのビッグツイン・モデル」でレースに挑み、ただ出場するだけではなく、勝利を重ねる人物がいます。それが東京の小金井市に店舗を構える「JOYRIDEスピードショップ」の西田裕氏です。

ヘビーな車重や車体のバンク角の少なさなどサーキット走行に不向きなビッグツイン・ハーレーをサーキット仕様にモデファイしたこのマシン。ビルダー兼ライダーである西田裕氏が試行錯誤を重ね、現在は筑波サーキットで1分6秒1のタイムを叩きだすまでのポテンシャルに仕上げられています。ちなみにノーマルのFXRのスペック上の車重は265kgなのですが、そうしたマシンでこのタイムは驚愕の一言です

 ちなみに西田氏が出場するレースはMCFAJが主催する「クラブマンロードレース」の「MAX10グループ」というカテゴリーで、そのレギュレーションは「海外メーカーで生産された車両」でライダーのラップタイムによって「ライダーのタイムが1分04秒を切る」ことが条件とされる「スーパーMAX」から、「1分4秒台まで」の「MAX4」そして「6秒台」の「MAX6」や「10秒台」の「MAX10」(いずれも筑波サーキットでのタイム)と区分されているのですが、その中で西田氏が参戦するのは「MAX6」の空冷クラスである「B」というレースです。

ハーレーで挑む理由とは?

「MAX6」の空冷クラス「B」の参加者は、ほとんどがサーキット走行性に優れたイタリア「ドゥカティ」製のマシンで参戦しているため、西田氏は圧倒的に不利な状況での戦いとなりますが、あえてその中でハーレーのビッグツインモデルであるFXR(1982~95年まで生産されたモデル。1999年に1年間限定で復活)で挑む理由は一体なぜでしょうか? 西田氏は次のように話します。

にしだ ゆたか 1974年に東京都台東区上野で生まれ、5~18歳までは宮城県仙台市で過ごす。幼少期から野球漬けの毎日を送り、仙台育英高校時代はレギュラーとして甲子園に出場。スポーツ推薦で大学に進学するものの野球の夢を断念し、20歳の頃にバイクの免許を取得。それ以降、年の前半はバイク・パーツメーカーの“POSH”、12~4月までのウィンターシーズンは北海道でスノーボードに熱中する毎日を送り、数年を経てからPOSHに就職。15年間、商品開発を担当する。2013年にJOYRIDEスピードショップを開業し、現在に至る。このサイトでご紹介するとおり“走り”を念頭に置いたマシン・ビルドはもとより、リジッドのチョッパーなども手掛ける幅広い作風を持つ。ライダーとしては勿論、カスタム・ビルダーとしても丁寧な仕事に定評のある優れた資質を持つ人物です

「ハーレーのビッグツイン・モデルの中で“走りがイイ”とか“フレーム強度に優れている”とか言われている“FXR”というモデルですが、単純にそれを実際に試してみたかったんです。それを計る自分の中での尺度を持ちたかったとでも言いましょうか……また“曲がる”“止まる”という要素やコーナリングのことなどからもテクニカルな筑波サーキットなら普段、自分が扱っているお客さんのバイクにもフィードバックしやすいのではないか、と考えています」。

「最初にFXRを走らせた時から車体の良さは感じていましたが、ただサーキットでは圧倒的にバンク角が足りませんね。なのでマフラーやステップは何度も造り変え、プライマリーカバーもダービー部分をカットして内側に寄せて、追い込んであります。車高もドンドン上がる方向になってしまったのでバンク角が稼げる分、重心が上にきてしまうデメリットも発生していますが、サスのセッティングと乗り方で何とかイイ感じにまとまるようにはなっています。そうした経験で得たノウハウは普段、自分が扱っているストリート・バイクにも還元出来ると思っていますよ」。

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 実際、これまでのJOYRIDEの西田氏といえば2003年からスポーツスターのワンメイクレースである「SSC」への参戦を皮切りに2006~2016年はリジッドフレームにスプリンガーフォークの旧車で争われる「A.V.C.C.」、そして2014年から今の「MAX」クラスへと参戦を果たしてるのですが、確かにそのノウハウは彼のカスタムに活かされているように見受けられます。

 リジッドにスプリンガーフォークのオールドスクール・チョッパーから走行性能を念頭に置いたハーレーカスタムなど、幅広いジャンルに対応できる点もJOYRIDEというショップの特色です。

往年のツインレース、“バトル・オブ・ツイン”ではハーレーがドゥカティを向こうに回し、勝利した光景も見られましたが、それはあくまでもXRなどの純レーサーでの話。ハーレーのFXRで水冷のドゥカティ851と対等に戦い、抜き去る姿は圧巻です

 無論、イチ・レースファンとしてもハーレーの、しかもビッグツインがドゥカティを抜き去る光景は中々に感慨深いもの。最近ではアメリカでビッグツインのツアラーモデルのワンメイクレースである「キング・オブ・バガーズ」なるレースも始まりましたが、往年の「バトル・オブ・ツイン(2気筒エンジン車のみで競われるレース)」の如く並みいるイタリアン・スポーツバイクを相手にハーレーが挑む姿はファンにとってはかなり痛快です。

 ちなみに西田裕氏が筑波サーキットで叩きだしたラップタイムは1分6秒1とのことですが、レース経験者ならそれが如何に凄まじいものかがきっとお分かり頂けるでしょう。

 今も昔も「ハーレー」といえば良くも悪くも他のオートバイと違う特殊なものとして捉えられがちですが、しかし、二輪車として求めるべきものは基本的に同じです。

 ヘビーなビッグツイン・ハーレーであろうとも「走り」を求め、あえてサーキットに挑む……そんな「基本」を体現する西田裕氏の姿勢には脱帽です。

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