独特のデザインに旨味が凝縮!? ドゥカティ「ハイパーモタード950SP」を堪能するならサーキットが然るべき
モタードスタイルのドゥカティ「ハイパーモタード950SP」は、軽快でアグレッシブなキャラクターの大型バイクです。実際どのような走りが楽しめるのでしょうか。試乗しました。
じつは、往年のドゥカティらしさがもっとも色濃いモデル
数あるドゥカティのラインナップの中で、乗っていて最も楽しいのが、じつはこれ、「Hypermotard(ハイパーモタード)950 SP」です。

「乗っていて」とわざわざ限定したのにはワケがあります。これは「止まらないで済むのなら」という意味で、なにせ足が地面から遠い……890mmのシート高は典型的な日本人以上に典型的な体格の僕(筆者:伊丹孝裕)にとって、無慈悲の極み。両足を着いた写真を見ても分かってもらえる通り、あまりにツンツンで半笑いになっちゃってます。
シェア拡大のため、ヨーロピアンブランドもおもてなしを重視する傾向になってきたものの、このモデルに関しては一切無視。シロートお断り感を清々しいほど隠そうとせず「乗れる人だけどうぞ」という姿勢を貫いています。
これはシート高のみならず、サスペンションも同様です。純正装着されているオーリンズはスプリングも減衰力も明確に締め上げられ、またがった程度では沈み込み量はわずか。走り出してもその傾向は続き、路面のギャップをガツガツと遠慮なく伝えてきます。

エンジンもある程度回していないとギクシャクし、渋滞路をゆっくり走るのはちょっと苦手ですが、ペースを上げられる環境では印象が一変。それまでの我慢がウソだったかのように爽快な走りを披露してくれるのです。
実際コーナーが近づいて強めにブレーキを掛けると、街中ではあまり動いてくれなかったフロントフォークにスムーズさが増していきます。加えて、シート上ではライダーが積極的に動くことによって、車体姿勢を思いのままにコントロールすることができるのです。
乗車ポイントが高く、旋回時は一気に車体がバンクするため、最初は不安もあるでしょうが、ハイグリップタイヤとトラクションコントロールがしっかりとフォロー。深いバンク角を保ったまま、狙ったラインをきれいにトレースすることができるはずです。
サスペンションもエンジンも、「ハイパーモタード950SP」が求めるレベルに引き上げるにはスキルが必要なのは事実です。スロットルを開けられるところは開け、ブレーキや体重移動で荷重を制御し、車体を休ませることなくキビキビと動かす。そんな走りができた時にこそ、本領を発揮するタイプだからです。
その領域ではこちらの操作に間髪入れずに反応。リアクション上手というか、聞き上手なタイプと言ってもよく、そのテンポが楽しくなって、ついついペースが上がってしまいます。もちろん限界はありますから、いつかどこかで裏切られるので注意しましょう。基本的にはサーキットが然るべきステージです。

近年のドゥカティは、エンジンのパフォーマンスに注目が集まりがちでした。「スーパーレッジェーラ」のV型4気筒は220PSを超え、「ディアベル」は強大なトルクで突き進む1262ccのLツインを搭載していることなどが好例ですが、「ハイパーモタード950SP」のそれがどれくらいかと言えば、114PSの最高出力を持つ937ccのLツインを搭載しています。
排気量はさておき、パワーは意外と普通だと思いませんか? 切れ味鋭いハンドリングに対して思いのほか低く、裏を返せば、だからこそライン取りやブレーキングに集中できるというワケです。
思えば、かつてのドゥカティはこうでした。パワーやトルクよりも軽量スリムな車体がもたらすハンドリングを重視。コーナーでライバルを追い詰める機動力を優先したマシン作りを得意としていたのです。
スタイルは特異ながら、往年のドゥカティらしさが最も色濃く残っているのが、この「ハイパーモタード950SP」だと思います。徐々に失われつつある美しいトレリス構造のパイプフレームを踏襲していることや、名車中の名車「916」をオマージュしたアップタイプの2本出しマフラーも、生粋のドゥカティファンにはグッとくるポイントに違いなく、決してキワモノではないのです。

“バイクはスポーツ”それを教えてくれるストイックなコーナリングマシンを望むなら、これ以上のモデルはそうそうありません。
ドゥカティ「ハイパーモタード950SP」の車体価格(消費税10%込み)は219万円です。
【了】
Writer: 伊丹孝裕
二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。鈴鹿8耐、マン島TT、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムといった国内外のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。