ハンターカブに相通ずるほのぼのさとしっかり感 ホンダ「GB350」は基本に忠実な乗り方で移動を楽しめる

ホンダ「GB350」は、新開発の排気量348cc空冷直立単気筒エンジンを搭載する、シンプルなネイキッドスタイルのニューモデルです。どのような乗り味なのでしょうか。試乗しました。

古風なスタイリングで、移動が楽しいバイクに仕立てる

 ホンダ「GB350」が注目されています。まず、2021年モデルとして新設計された排気量348ccの空冷単気筒エンジンを搭載したモデルであり、性能やハンドリングという言葉から想起される「速さ」ではなく「移動そのものを楽しむ価値」に軸足を置いて作られた趣味性の高い1台です。

ホンダ「GB350」(2021年型)に試乗する筆者(松井勉)

 なにより、400ccクラスでも80万円台が珍しくない車両価格帯に対し、「GB350」は「Rebel 250」の59万9500円よりも安い55万円(消費税10%込み)。これはインパクト「大」です。

 ルックスはネオレトロ。1970年代以前のバイク的でもあります。しかし現代風にしっかりアレンジされたデザインは、フレームとリアショックの角度に統一感をもたせたり、燃料タンクとシートの下側を路面と平行の線で結ぶなど、シンプルかつ大胆なライン構成が特徴です。前後フェンダー、サイドカバーをスチール製にして外観にアクセントを付け、LEDヘッドライトや細身の14本スポークを持つキャストホイールで、今を主張します。なによりシリンダーが直立したバーチカルエンジンの採用など、懐かしいのに新しい、という今の時代らしさは見た目からも伝わるのです。

 エンジンは排気量348ccの空冷単気筒です。90.5mmという長いストロークを持つそのシリンダー外観は、各部までデザインされた見応えあるルックス。一言で表現すれば古風。しかし、燃焼行程時にピストンがコンロッドを押し下げるフリクションを低減するため、シリンダーとクランクシャフトの位置をオフセットしたり、燃焼室上にオイル通路を細かく通し、空冷ながら燃焼室温度の均質化も図るなど、投入されている技術は最新のものばかり。

 エンジン振動を低減するためのバランサーを2箇所に備え、そのうちクランク軸後方にあるバランサーは、駆動力を伝えるメインシャフトに取り付けるなど、前後長を伸ばさずに2軸バランサーのメリットを持たせています。振動低減を図れたエンジンは、クランク軸付近にある重心位置の近くをフレームと4箇所での締結が可能になり、「GB350」が目指したハンドリングを生み出す車体の剛性バランス作りにも貢献しているのです。

身長183cmの筆者(松井勉)がシート高800mmの車体にまたがった状態

 目の前にした「GB350」は、意外に存在感があります。幅広いハンドル、容量15リットルの大きな燃料タンク、そしてクランクケースから上に行くほどボリューム感が増えるエンジンなど、単気筒、スリム、コンパクトな印象の代表格、ヤマハ「SR400」とは対極にある印象です。ライディングポジションもライダーの上半身がほぼ直立する印象で、肩から少し両手を開いて伸ばすと左右のグリップがあり、なるほど、ゆったりしています。

 エンジンをかけると、そこから発する無用な振動成分がしっかりと抑えられ、排気音、爆発音が心地よく伝わります。なるほど、これが開発者が目指したものだったのか。アシストスリッパークラッチ機構を採用するクラッチレバーの操作力がとても軽い! 

 最初、シーソータイプのシフトペダルに戸惑いましたが、慣れるとつま先でかき上げることなくできます。慣性マスをタップリもたせたエンジンとシフト操作のリズムもGB流なもの。前輪が19インチ、後輪が18インチと外径が大きめのホイールを採用し、車体をカーブや交差点に向けて寝かせると穏やかに、しかししっかりと前輪の向きが変わるハンドリングとも馴染みます。前後のブレーキもクセがなく制動性能も充分。

ホンダ「GB350」(2021年型)はいたってオーソドックスなスタイリングが特徴のひとつ。燃料タンクとシート下部をつなぐ地面と平行なラインが安定感を演出。車重は180kg

 高いギアレシオのミッションをシフトアップして、低いエンジン回転のトトトトという音と回り方を楽しむように走ると、すっかりGBワールドに引き込まれている自分に気が付きます。この感じ「CT125・ハンターカブ」とも共通する、ほのぼのさとしっかり感のミクスチャーです。市街地では1速の発進時に少しレスポンスの速さが欲しいと思う意外、あとはアクセルをひねるだけで持ち前のトルクでしっかりと加速する。速さ感は無いのに周りの交通を見るとけっして遅くないことがわかります。

 高速道路では15kWという出力とハイギアードな5速の組合せもあり、豪快さはありません。しかし、向かい風や登り区間でなければ100km/hクルーズは余裕でした。そこから追い越しを掛けるような場面では、5速でアクセルを開けるより、4速にシフトダウンして回転を上げた方が素早く加速を引き出せました。むしろ80km/hや90km/hあたりでのんびり移動するのが得意なようです。

 最後にワインディングでの走りを紹介しましょう。大きな前輪、ゆったりしたハンドリングですが、慣れてくると、市街地のように狙ったところで前輪の向きを変え、それに合わせてアクセルを開けて後輪に駆動力をかける……減速をキッチリと曲がる手前で終わらせ、エンジンのトルクを活かすような走りと一体感がありました。

基本に忠実な乗り方で見た目以上にスポーティな走りも楽しめる

 バンク角も意外に深く、じつは限界も高そう。ライダーがこじったりするとしっとりとした車体はそれに反発してきますが、基本に忠実な乗り方では見た目以上にスポーティであることも確認できました。

「GB350」はシンプル、リラックス、リーズナブルという原則の上にたくさんの悦びが載っている印象です。自分をGB色に染める。そんな世界観を持ったバイクでした。

【了】

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Writer: 松井勉

モーターサイクル関係の取材、 執筆、プロモーション映像などを中心に活動を行なう。海外のオフロードレースへの参戦や、新型車の試乗による記事、取材リポートを多数経験。バイクの楽しさを 日々伝え続けている。

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