電動ならではの“静けさ”に気付くツーリング 原付2種区分の電動スクーター、niu「NQi GT」で走ってみた

電動バイクと言えば、気になるのが航続距離ではないでしょうか。とくに家庭に備えられる100Vコンセントでバッテリー充電を行なう電動バイクの場合、外出先で充電できる可能性はかなり低くなります。果たして、そんな電動バイクでツーリングを楽しむことができるのか……? いざ、検証です。

電動バイクだからこそ味わえる、新しい感覚

 航続距離が気になる電動バイクでのツーリング。まずは検証をした車輌についてご紹介しましょう。海外のさまざまな電動バイクブランドを輸入、販売する「XEAM(ジーム)」のラインナップの中から、原付2種区分の電動スクーター、niu「NQi GT」で走ります。

原付2種区分の電動スクーター、niu「NQi GT」(写真は2020年モデル)

 公表データによると、定格出力1000W、最大出力3500Wで、定格容量2100Wh(60V/35A)のパナソニック製バッテリーを2個搭載。航続距離は約92km(走行条件はダイナミックモード90%とスポーツモード10%、搭乗者体重76kgにて平坦な道を走行)となっています。

 今回走らせた車体は2020年モデルで、2021年モデルは中国製バッテリーに変更されており、バッテリーの定格容量は1560Wh(60V/26A)、航続距離が約82km(テスト条件は同上)となっています。

 自然の真ん中にずぶずぶと沈みたい。そんな気持ちに突き動かされるように、往復90kmほどの道のりで、目的地を「鎌北湖」(埼玉県入間郡毛呂山町)に設定しました。とは言え、これまでにロングツーリングに行ったことはあれど、電動バイクでのツーリングは初めてのことです。もし途中でバッテリー残量が心もとなくなったら躊躇なく引き返そう、とも心に決めました。

「NQi GT」には「E‐セーブ」、「ダイナミック」、「スポーツ」という3つの走行モードがあり、それぞれに最高速度が定められています。「E‐セーブ」は約20km/h、「ダイナミック」は約45km/h、「スポーツ」は約70km/hといった具合です。

搭載するモーターはドイツのBOSCH社製。走行中は非常に静かなもの

 ちょっとした渋滞を抜けると、次第にクルマの流れも落ち着いていきました。往路はほぼ電費を考えず、ほとんど「スポーツ」モードでの走行で、クルマの流れに遅れをとることはなく、むしろゼロからの発進では電動バイク特有の加速感で流れをけん引できました。

 街並みが落ち着いたものになり、どんどん静かになっていくと、ふと「ああ、走らせているのは電動バイクなんだ」と思い至ります。クルマの流れの中を走っているとエンジン音に囲まれ、電動バイクの静けさを感じにくいのです。けれど1人きりで「NQi GT」を走らせていると、鳥のさえずりがフルフェイスのヘルメット越しでも聞こえてきます。

 まるで自然と一体になったような不思議な感覚。きっと多くのバイク乗りがそうであるように、ツーリングでは季節のにおいを感じることができるでしょう。けれど、走りながら音を体に取り込むことができるツーリングは初めての体験でした。

失態! 鎌北湖に水がない!

 事件発生です。鎌北湖に到着すると、まったくもって湖面が見えないのです。これは一体……? もしやとスマホで調べてみると、耐震化工事のため2019年から水抜きをしているというではありませんか。「なんてこった! 完全なる事前調査ミス!」。しかも2019年からというから、自分のうっかり八兵衛ぶりに愕然……。

鎌北湖は訪れた当時、水抜き中だった。ただ、周辺にはハイキングコースがあり、ハイキングを楽しむ人もいた

 しかし、慌てるには及びません。こんなこともあろうかと、ちゃんとプランBを用意していました。そのあたりは抜かりない……というわけでもなく、ただ「ここもいいなあ~」なんて目的地の候補に挙げていた場所。ともあれ、目的地を約5km走った先の「宿谷の滝(しゅくやのたき)」に変更することにしました。

 災い転じて福となす、とはこのことかもしれません。「宿谷の滝」は小さな滝ではありますが、その場に身を置くととても気持ちが安らぎます。別名「信太の滝」とも呼ばれ、さかのぼれば修験の場でもあったそうです。

 この滝の周辺には小川に沿った遊歩道が整備されていて、楽しそうに会話しながら歩く家族なども多かったのですが、この場所だけは、とても神聖な雰囲気が漂っていました。自然と背筋が伸びるような、呼吸が深くなるような、魅入られる滝でした。音の静かな電動バイクでここを訪れてよかったな、と思える静かで凛とした場所でした。

 さて、復路です。バッテリー残量を確認すると、距離52kmを走ってバッテリー使用量23%(残量67%)でした。復路は約50kmですから、バッテリー残量はまず問題なさそうです。電費を気にしつつも「スポーツ」モードを主に、状況に応じて「ダイナミック」モードを使用して走りました。

 この日の走行距離は約104kmで、懸念していたバッテリー残量は、最終的に31%でした。常にバッテリー残量を気にしてはいましたが、今回に関しては、バッテリー残量がルートや走り方にほぼ影響しなかったと言えます。

 バッテリー残量が30%台になっても、一般道を走る際に大きな影響はありませんでした。XEAMの公表値よりも走行距離が伸びたことについては、筆者の体重が42kgと軽めだったことも影響しているのではないでしょうか。

お昼ごはんにいただいた毛呂山町のご当地グルメ「豚玉毛丼(ぶったまげどん)」。イメージとしては玉子丼に生姜焼き用の豚肉が一緒に煮込まれている感じ。ゆずがいいアクセント。お値段670円(消費税込み)

 たった104kmのショートツーリングでしたが、電動バイクを相棒としたツーリングは、その場所と一体になることができる、新しい体験を与えてくれました。

「XEAM」が展開するniu「NQi GT」の価格(消費税10%込み)は、2020年モデルが43万7800円、2021年モデルが34万9800円となっています。

【了】

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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