ヤマハ「TMAX」とガチンコ勝負できる唯一の存在 台湾キムコの大型スポーツスクーター「AK550」

台湾の大手バイクブランド「KYMCO(キムコ)」がラインナップするスクーターの中から、最大排気量となる「AK550」に試乗しました。やはりライバルはヤマハ「TMAX」なのでしょうか。

ヨーロッパ市場で好セールスを記録中

 2016年の発売以来、KYMCO(キムコ)の旗艦である「AK550」は、ヨーロッパで好セールスを記録しています。もっとも、日本の路上で「AK550」に遭遇する機会は、あまり多くはありません。その一番の理由は、単純に現在の日本でマキシスクーターの需要が少ないから……のような気がしますが、中には、排気量が近いヤマハ「TMAX」シリーズとの類似性に疑問を抱く人がいるようです。

キムコ「AK550」に試乗する筆者(中村友彦)

 確かに「AK550」は「TMAX」シリーズと無縁のモデルではないでしょう。アルミフレームの形状はよく似ているし、クランク位相角やバランサーの構成は異なりますが、並列2気筒エンジンや駆動系の構成などにも共通点があります。

 まあでも、2001年から発売が始まった「TMAX」シリーズは、マキシスクーター界のパイオニアにしてリーダー、これまでも多くのメーカーが規範にして来たわけですから、私自身(筆者:中村友彦)は「TMAX」シリーズとの類似性を「AK550」のマイナス要素とは感じていません。

 では逆に「TMAX」シリーズとは一線を画する特徴は何かと言うと、最もわかりやすいのは53.5ps/7500rpmのパワーです。ちなみにこの数字に触発されたのか、2021年型「TMAX」は排気量を530ccから561ccに拡大し、最高出力を46ps/6750rpmから48ps/7500rpmに高めています。

 また「AK550」は、トランクスペースが犠牲になるのを承知でシート高を近年の「TMAX」シリーズより15mm低い785mmに設定したことや、フロントブレーキにはスーパースポーツを思わせるブレンボ製ラジアルマウントキャリパーを装備すること、スマートフォンとの連動機能である「Noodoe(ヌードー)」を採用したことなども「AK550」の美点と言えるでしょう。

 さて、ここまでの文章を読み返してみると、期せずして「TMAX」シリーズとの比較論になりましたが、せっかくなので次のインプレッションも、2021年型「TMAX560」との比較を念頭に置きながら記してみようと思います。

ライバルとは似て非なるキャラクター

 やっぱり軽くはないんだな……と、試乗前に車体の全体写真と部分写真を撮影するにあたって「AK550」の押し引きを行なった私はそう感じました。もっとも既存のマキシスクーターの基準で考えるなら、車重226kgは決して重くはないのですが、「TMAX560」の218kgと比べると、それなりの手応えが伝わって来ます。ただし車体にまたがり、ライディングポジションの撮影を開始した時点で、私は「TMAX560」マイナス15mmのシート高の恩恵を感じました。

シート高785mmの車体に身長182cmの筆者(中村友彦)がまたがった状態

 先にお断りしておきますが、理想の運動性能を実現するため、高いシート位置を維持してきた「TMAX」シリーズに対して、私は漢気を感じています。よくぞ20年もの間、当初のコンセプトを継承してきたものだと。

 とはいえ、ゴー&ストップが多く、頻繁に足をつかざるを得ない状況では、足つき性が良好な「AK550」のほうが親しみやすいのは事実です。大柄なライダーならその点は問題にならないという説がありますが、シート高が近年の「TMAX」シリーズと同じ800mmだったら、このモデルのヨーロッパにおける評価は変わっていたかもしれません。

 実際に乗っての印象ですが、市街地や日本に多いチマチマしたワインディングロードで、スポーツライディングの充実感が得やすいのは、乗り手の操作に対する反応がダイレクトでキビキビしている「TMAX560」の方でしょう。と言っても「AK550」の反応がモッサリしているわけではなく、すべての反応は至って自然なのですが「TMAX560」と比べると、ライダーの気持ちはなかなか高揚しません。

 スクーターを移動手段として捉えるなら、高揚感が希薄なことは問題ではないものの、“操る楽しさ”を重視するライダーの場合は「AK550」の常用域には物足りなさを感じそうです。

 ただし、気持ち良くスロットルが開けられる道、ある程度以上の速度と回転数を維持できる環境だと「AK550」の美点が際立ってきます。

排気量550.4ccの水冷並列2気筒DOHC4バルブエンジンを搭載。ホイールサイズは前後15インチ。燃料タンク容量は15リットル

 まずパワーユニットは、開け始めから元気がいい「TMAX560」とは異なり、「AK550」は4000rpm以上が本領発揮という感触で、それ以下の回転数とは異なる鋭い吹け上がりと力強い加速が堪能できます。

 そして車体に関しては、常用域の軽快さは「TMAX560」に軍配が上がりますが、対する「AK550」は安定性が抜群なので、速度レンジが高い峠道では思い切ったアクションができますし、一定開度を維持しての巡航も容易に行なえます。

 そういった資質を理解した時点で、あらゆる領域でスポーツ性にこだわる「TMAX560」に対して「AK550」は中高速域を重視したスポーツ&ツアラーだと私は感じました。

 とはいえ「TMAX560」でツーリングが楽しめないわけではないし、「AK550」の運動性能が「TMAX560」に劣るのかと言うと、必ずしもそうとは言えません。そんなわけで、この2台には安易な甲乙がつけられないのです。

キムコ「AK550」

 いずれにしても「AK550」の試乗を通して、初めてのマキシスクーターで、長きに渡って熟成を続けて来た「TMAX」シリーズに匹敵する性能を獲得したキムコの技術力に、私は大いに感心しました。

 改めて振り返ると、2001年以降の2輪業界では“打倒TMAX”というコンセプトを掲げるマキシスクーターが数多く登場しているのですが、本当の意味で「TMAX」シリーズと真っ向勝負ができるモデルは、「AK550」以外に存在しないのかもしれません。

※ ※ ※

 キムコ「AK550」の価格(消費税10%込み)は110万円です。参考まで、ヤマハ「TMAX560 ABS」は127万6000円、より快適装備を充実させた「TMAX560 TECH MAX ABS」は141万9000円です。

【了】

【画像】台湾KYMCOの大型スクーター「AK550」詳細を見る(12枚)

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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