このスタイルが好きなら急ぐべし 上質な外装をまとったインディアン「FTRカーボン」は前後ホイールサイズがキモ!!
1901年創業の長い歴史を持つアメリカのモーターサイクルカンパニー「インディアンモーターサイクル」が現代に放つ個性的なモデル「FTRカーボン」に試乗しました。
純粋なフラットトラックレーサーのイメージは2021年型まで?
英国発祥の「ロイヤルエンフィールド」と並び、現存する2輪ブランドとしては世界最古の歴史を誇っているのが「Indian Motorcycles(インディアンモーターサイクル)」です。1901年にアメリカ・マサチューセッツ州で創業し、1950年代以降は生産停止や破産、買収といった数々の試練を経ながらも近年復活。2013年からは「チーフ」や「スカウト」といったクルーザーを中心に本格的な展開が始まりました。

そんな中、ひと際スポーティなモデルが誕生。それが2017年に発表された「FTR1200」です。同年、「アメリカンフラットトラックレースシリーズ」でタイトルを獲得したワークスマシン「FTR750」をモチーフに持つこのモデルは話題を呼び、2019年から日本へ導入を開始。ハーレー・ダビッドソンとは一線を画すシャープなデザインと、それに見合う軽やかな走りが瞬く間に拡散されていきました。
いくつかあるグレードの内、フラッグシップに相当するのがこの「FTRカーボン」です。車名の通り、燃料タンクやシートカウル、ヘッドライトカバーといった外装パーツの多くがカーボンで成型されている他、アクラポビッチ製のマフラーを標準装備。凄みのあるたたずまいが最大の特徴になっています。

シート高は853mmあり、足つき性は良好な部類ではありません。ただし、ホイールベースが長く、見た目よりずっと低重心なことも手伝って低速走行でも車体は安定。上体も起きているため、とっつきにくさは抑えられています。
珍しいのはメーターでしょう。フルカラーのTFTディスプレイ自体は多くのモデルに採用されていますが、スマートフォンなどと同様、タッチパネルによってモードや表示情報の切り換えができるのです。どれほど高度なデバイスが投入されていても、まだまだスイッチやボタン操作を介するインターフェイスが一般的で、その複雑さゆえに必要な機能まで辿り着けず、イラッとしたことがあるユーザーも多いでしょう。
その点、このモデルは直感的な操作が可能で、もちろんグローブをしたまま反応。グリップから手を離せない走行中は、左側スイッチボックスに備わるジョイスティックによって同様の操作ができるなど、実によく考えられているのです。

美しいパイプワークで組まれたトレリスフレームには、1203ccの水冷Vツインエンジンが懸架されています。125hpを発揮する最高出力は、228kg(乾燥重量)の車体を猛然と加速させる一方、ホイールベースの長さがここでも効果的に機能し、車体が不必要に振られたりすることなく、終始穏やかなハンドリングを楽しむことができます。
ただし、コーナーで気をつけたいのはタイヤのグリップ力です。フロント19インチホイール、リア18インチホイールに標準装着されるダンロップのブロックタイヤは、ダート向けのパターンを持つため、アスファルト上で深くバンクさせると接地感が希薄になるからです。もしもの場合はトラクションコントロールが機能するとはいえ、過度な車体やスロットルへの入力は控えた方が賢明です。
とくに、RAIN/STD/SPORTと3パターンあるエンジンモードの内、SPORTを選択した時のレスポンスは鋭く、3000rpmを超えてからの吹け上がりはかなりのもの。基本的にSTDで走ることを推奨しておきます。
それにしても、良いバイクです。伝統的なフラットトラッカーのスタイルを持ちながらもインターフェイスは先進的で、マスの集中化のために燃料タンクをシート下まで伸ばしているところはレーシングマシン的ですらあります。他のなににも似ていない、唯一無二の個性を持っているのが、この「FTRカーボン」なのです。

今回試乗したモデルは2021年型ですが、じつはすでに2022年型「FTR Rカーボン」の導入が始まっています。大きな違いは前後に17インチホイールが採用され、ロードスポーツとしての性能が高められた点ですが、フロント19/リア18インチホイール特有の伸びやかなスタイルを優先するなら、2021年型に軍配が上がるのが悩ましいところ。現時点ではまだ新車が残っているため、購入を考えているのなら早めに決断した方が良いでしょう。
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インディアンモーターサイクル「FTRカーボン」(2021年型)の価格(消費然10%込み)は248万8000円です。
【了】
Writer: 伊丹孝裕
二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。マン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムなど、世界各国のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。