バイクレースのバンク角、これ以上深くなったら…… ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.110~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、近年のバイクレースを観てコーナリングの深いバンク角におかしな妄想が広がると言います。どういうことなのでしょうか?

バイクレースのバンク角、これ以上深くなったらどうなる?

 レーシングカーの進化は、ロールとの戦いでもある。クルマが左右に傾くこと、難しくいうならば、重心点を前から後ろに串刺したにしたように貫くX周りの回転モーメントがロールとなる。このロールがクルマのコーナリング性能を悪化させることが少なくない。

バイクのロードレースでは、コーナリングは肘が接地するほど深く傾けて走る

 スポーツカーのサスペンションは、乗り心地を犠牲にしてまでも堅く締め上げられている。激しい横Gが加わってもクルマが傾かないように細工されているのだ。レーシングカーなどはその傾向が顕著で、横に傾くことはほとんどない。

 その理由は、大きく分けてふたつある。ひとつは、タイヤの接地面積が減るからである。タイヤの路面に接するトレッド面は、だいたいフラットに設計されている。可能な限り、タイヤを路面に接地させることで、高いコーナリング性能が得られるからだ。

 そしてもうひとつの理由は、空力的な効率の悪化がある。クルマのダウンフォース、つまり、クルマを路面に押し付けるための空気の力は、クルマが整体している状態が最も効率がいい。とくにF1のような、巨大なウイングが組み込まれているマシンであればその傾向が強く、マシンをロールさせない方がコーナリング速度を稼げるのである。

 という理由からクルマはロールを嫌うのだが、同じ乗り物でありありながら、タイヤの数が4本から2本になると、ロールに関する考え方は激変するようだ。

 最近のバイクのロードレースを見ているとそれは明らかで、コーナーではほとんどのライダーが、路面に寝ているかのような深いバンク角で挑んでいる。傾けているのかコケそうなのか? 判断に迷うほどの角度だ。

 かつて僕(筆者:木下隆之)が高校生の頃、コーナリング中にステップを擦れば、ちょっと勇猛果敢なライダーと称賛されていた。それがやがて、ステップはおろか膝を擦らねば勇者として称えられなくなった。さらにそれはエスカレートし、勇者のポイントは膝から肘になった。近い将来は、ヘルメットを路面に当てながら走るライダーが現れるに違いない。

 となれば、僕の頭の中におかしな妄想が広がる。もう危険だから、ヘルメットに車輪が装備され、それはもはや2輪ではなく3輪か4輪となり、つまり、バイクではなくクルマと呼ばれるかもしれない? なんて戯言を、最近のGPレースを観ていて思ってしまう……。

【了】

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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