BMWの電動バイク「Cエボリューション」を検証 電費や充電時間、実際どうなの?

普通二輪免許で乗れるBMWの電動バイク「Cエボリューション」。車両重量275kg、モードごとに異なる回生ブレーキの利きを備えるこの電動バイクは、果たしてどのくらい走り続けられるのでしょうか? 充電にかかる時間は? それぞれ検証しました。

普通二輪免許で乗る電動バイクの航続距離は?

 BMWモトラッドの「C evolution(シー・エボリューション)」は、2017年に発売されたスクータータイプの電動バイクです。どっしりと大柄な車格に275kgの車両重量。最高出力は35kW(48PS)/4650rpm、定格出力は19kW(26PS)で、最高速度は129km/hとなっています。現状では高速道路を走ることができる数少ない電動バイクだと言えるでしょう。なお、「Cエボリューション」を走らせるには、普通二輪免許以上が必要です。

2017年に新登場となったBMWの電動バイク「C evolution」

 電動バイクと向き合うとき、必ずと言っていいほど気になる数字。それは航続距離ではないでしょうか。電動バイクにとって、日本の充電インフラ事情は発展真っただ中という状況。航続距離次第で「もしもこの電動バイクを走らせたら」といった行動範囲もおのずと想像できるものです。

「Cエボリューション」の場合、公開されているデータ上の航続距離は約160km(定地走行値)となっています。今回は約2週間にわたり「Cエボリューション」を走らせ、その電費を検証しました。

回生ブレーキの利きに違いがある4つの走行モード

 電費の検証の前に、走行モードについて触れておきましょう。「Cエボリューション」には「ECO PRO(エコ・プロ)」、「ROAD(ロード)」、「DYNAMIC(ダイナミック)」、「SAIL(セイル)」という4つの走行モードを備えており、それぞれに回生ブレーキの利きと加速が異なります。回生ブレーキとは内燃機関のバイクのエンジンブレーキにあたるもので、スロットルを戻すと回生ブレーキが働き、ブレーキ時にバッテリーにエネルギーが回生されます。

メーターはTFTカラーディスプレイ。スピードなどとともに、走行モード、回生度合いなども確認できる

 それぞれのモードについて少し細かく説明すれば、「エコ・プロ」は回生ブレーキの利きが強く、その分バッテリーへ回生されるエネルギーも大きくなり、同時に加速については制限されています。電費走行したいときにはうってつけのモードです。「ロード」は回生ブレーキの利きが緩やかで、加速は最大。「ダイナミック」は「エコ・プロ」と同等の回生ブレーキと、「ロード」と同等の加速を持っています。そして「セイル」には回生ブレーキはありませんが、最大の加速を持つモードとなっています。

 こうしたモード別の回生ブレーキは、走りを楽しむという点でも役立ちます。「セイル」モードでは高速道路で楽に走ることができますし、反対に「ダイナミック」モードでは、アクセル操作だけでバイクを停止させることも可能だと感じました。電動バイクを操る面白さを感じられる部分ではないでしょうか。

 さて、電費の検証に話を戻しましょう。筆者(伊藤英里)の体格は身長153cm、体重42kgです。今回、主に走らせたのは、東京都の「環状七号線(環七)」や「環状八号線(環八)」のほか、片側一車線でも交通量の多い道路です。走行モードはほぼ「ロード」、たまに「ダイナミック」を使用しました。

 これは好みによると思いますが、個人的には車両重量275kgのバイクを減速させるのに、「ロード」で回生ブレーキをほどよく利かせ、そのあとにフロント、リアのブレーキを使うと、バランスがとりやすかったからです。

ハンドル右のスイッチボックスにある「MODE」ボタンを押して走行モードを切り替える

 まず、1日目は18kmを走って10パーセントを消費。2日目は26kmを走って12パーセントを消費。そして3日目には19kmを走って8パーセントを消費しました。各日、最低でも80パーセントのバッテリー残量がある状態からスタートしています。

 その結果、一般道ではバッテリー1パーセントあたり1.8kmから2.3kmほどの走行が可能であることがわかりました。計算上は航続距離が200kmほどになりますが、筆者の体重は平均よりも軽く、また電動バイクの場合、バッテリー残量が少なくなるにつれて電費が悪くなっていきます。そう考えれば、スペック表の160kmという数字は、だいたい実際に近いのかもしれません。

 一方、興味深かったのが高速道路の走行です。まず、往路はほぼ「セイル」モードを使用し、まったく電費を考えずに走行しました。すると40kmで28パーセントを消費したのです。1パーセントあたりの走行距離は約1.4kmとなります。

実際の電費はどうなのか? 実走で検証する筆者(伊藤英里)

 内燃機関のバイクの場合、基本的に高速道路では燃費が良くなります。しかし、電動バイクでは大きく電費が落ちる結果になったのです。回生ブレーキをまったく利かせることがなかったのも要因でしょう。

 復路では「エコ・プロ」モードをメインに走行したところ、高速道路と10kmほどの一般道を走行し、62.3kmで36パーセントを消費しています。1パーセントあたり約1.7kmの走行距離です。高速道路ではほぼブレーキをかけるシーンはなく、回生ブレーキを利かせることはありませんでしたが、電費走行で約70km/hで走行しました。よって、加速の制限がバッテリーの節約に役立ったのだと思われます。こうして比較すると、モードによって電費の違いがあることがわかります。

充電時間はバッテリー残量によって変わる

「Cエボリューション」は単相200Vでのみ、充電が可能です。バッテリーの取り外しができませんから、充電の際はケーブルでコンセントと車体をつなぎます。充電の際は、BMWモトラッドの各店でも充電が可能となっています。また、200Vコンセントの設置工事をすれば、自宅でも充電することができます。

充電する際は200Vコンセントと車体をケーブルでつなぐ

 ただし現状で、この200Vの充電スポットは多くありませんし、クルマ用の駐車場の一角に備えられるなどして、バイクでの入場が困難なところもあります。自宅に200V電気工事をするにしても、集合住宅では難しいこともあるでしょう。今回は約2週間にわたって「Cエボリューション」を様々な場所で走らせたため、近場に充電設備がないことは、悩みの種となりました。

 しかし、充電時間についてはそこまで神経質になることもないかな、という印象を受けました。スペック表では約4時間30分でフル充電、約3時間30分で80パーセント充電となっていますが、これはバッテリー残量によって変わるようです。

 例えば、残量50パーセントから充電した場合、約2時間で93パーセントまで充電ができました。一方、残量17パーセントでは、充電約1時間で35パーセントと、残量50パーセントのときよりも少し時間がかかっています。少なくともバッテリー残量が50パーセントほどあれば、2時間程度で90パーセント以上までバッテリーを回復させられるということです。

 現状で、電動バイクが自宅近辺や街乗りが主な走行範囲になるだろうことを考えれば、こまめに充電すれば、ストレスの少ない充電時間と言えそうです。

 ツーリングなど趣味で走らせることを思えば、航続距離や充電スポットの少なさはやや厳しいかもしれません。しかし、街乗りや決まったルートの往復などの範囲で考えれば、充電設備さえ確保すれば、便利に走らせることができるのではないでしょうか。

※ ※ ※

 BMWモトラッド「C evolution」の価格(消費税10%込み)は159万円となっています。BMWモトラッドの公道仕様モデルにはすべてETC2.0車載器が標準装備されます。

【了】

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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