ボスニア紛争で起こった大量虐殺の真実を伝える『アイダよ、何処へ?』

1995年7月、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で起こった、戦後ヨーロッパ最悪の悲劇「スレブレニツァの虐殺」の真実に迫る映画『アイダよ、何処へ?』が、2021年9月17日(金)より全国順次公開されます。

遠い昔ではない、わずか26年前に起こった悲劇

 本年度アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート作品『アイダよ、何処へ?』が描くのは1995年7月、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で起こった「スレブレニツァの虐殺」です。戦後ヨーロッパ最悪の悲劇とされるこの集団虐殺事件を、なぜ止められなかったのか? なぜ8千人以上もの命が奪われなければならなかったのか? 本作はその答えを差し出すものではなく、同じ世界の一員として、我々に“共に考えること”を促します。

(c) 2020 Deblokada/coop99 filmproduktion/Digital Cube/N279/Razor Film/Extreme Emotions/Indie Prod/Tordenfilm/TRT/ZDF arte.

 ユーゴスラビア連邦解体に伴うボスニア・ヘルツェゴビナ独立を機に、1992年3月に勃発したボスニア紛争。セルビア人(セルビア正教徒)、クロアチア人(カトリック教徒)、そしてボシュニャク人(ムスリム人 ※イスラム教徒)の3民族のあいだで武力衝突が生じ、死者約20万人という最悪の結果をもたらしました。『アイダよ、何処へ?』は国連保護軍の通訳として働くアイダとその家族を軸に、紛争の過程で起こったボシュニャク人虐殺という惨劇の真実に迫ります。

 本作が真に迫っている理由の一つに、十代の多感な時期にボスニア紛争を経験したヤスミラ・ジュバニッチ監督の存在があります。これまでにも故郷で起こった紛争の傷跡を描き続けてきたジュバニッチ監督は綿密なリサーチを行い、さらにジェノサイド=大量虐殺の生存者たちにエキストラ出演を依頼。非人道的な拷問を生き延び、処刑を免れた人々からの証言はリアルな撮影に貢献しましたが、なかには過去のトラウマが蘇り取り乱してしまう人もいたようです。

 より多くの人に観てもらうためか、本作は残酷な描写をあえて見せません。しかし、主人公など架空の人物を交えながらも、後に終身刑を言い渡されたラトコ・ムラディッチなどは実名で登場させます。このあたりは、市内での撮影を許可しなかったスレブレニツァ市長を含む“虐殺否定派”に対する抵抗の意思表示と、“映画というフィクションの世界”でいかに真実を伝えるか、というジュバニッチ監督の手腕が発揮されています。戦争を「陳腐な悪」と呼ぶ監督は、いわゆる映画的な血なまぐさい演出によって、本作がエンタメとして消費されることを良しとしていないのでしょう。

(c) 2020 Deblokada/coop99 filmproduktion/Digital Cube/N279/Razor Film/Extreme Emotions/Indie Prod/Tordenfilm/TRT/ZDF arte.

 日本人にとっても他人事ではない過去の過ちと、現在のアフガニスタンなどにも繋がっていく争いの連鎖。我々は、国際社会が目をそらした歴史を改めて見つめ直し、学び、自戒し、未来に伝え続けていかなくてはなりません。激動する世界を生きていく上で、今こそ観ておかなければならない映画『アイダよ、何処へ?』は、2021年9月17日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開です。

9/17公開「アイダよ、何処へ?」予告編

【了】

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