乗るほどに楽しいイタリアンスクーター!! ベスパ「GTSスーパーテック300」に伝統と最新を確認

イタリアの老舗スクーターブランド「Vespa(ベスパ)」の最大排気量モデル「GTS SuperTech 300」(2021年型)に試乗しました。

なるほどイタリアンブランド、伝統のつくりは乗るほどに楽しい

「なんだ、250だったら車検が無いから維持費も安いのに……」そんな思いを、このベスパ「GTS SuperTech 300」(以下、GTS)に持った人もいるでしょう。しかしここに保証します。そんなこと忘れるほど、乗り物として楽しく、そして走りがしっかりとしているのです。

ベスパ「GTS SuperTech 300」(2021年型)に試乗する筆者(松井勉)

 見るからにベスパ然としたスタイル。その源泉はスチールモノコックフレームが生み出すスタイルです。フロアから続くフロントフェイスまで。もちろん、シート周りやリアフェンダー周りまでもスチール製です。この最大のメリットは、チューブラーフレームよりもフロアボードを低くしつつも、最低地上高をしっかり取れること。また、フレームに外装パーツをかぶせる必要が無いので、コンパクトサイズにして最大のユーティリティを引き出せること。

 ベスパは決して日本ブランドのスクーターのような、大きさを誇るイメージはありません。シート下のトランクも小ぶりなジェットヘルメットがひとつが入ればいっぱいです(その分ヘルメットホルダーはふたつ)。しかし、バッグを提げるフックやフロントトランクの使い勝手はバツグン。信号待ちでチャッチャと用事がこなせます。

シート高790mmの車体に身長183cmの筆者(松井勉)がまたがった状態

 そのサイズをヤマハの「XMAX」と比較すると、全長で235mmも短いスタイルながら、前後ホイールの軸間距離は、「GTS」が1375mmで「XMAX」が1540mmと、逆にこちらは165mmと全長ほどの差がつきません。これはベスパが採用する小径ホイールに理由があります。

 ホイールサイズが14インチや15インチが多くなってきた昨今のスクーター市場にあって、ベスパは頑なに小径ホイールの採用を続けます。今回試乗した「GTS」は前後とも12インチ。短い車体の前後イッパイにホイールを配置し、機動性と安定性をしっかり持たせているのです。

 つまり、イタリアの市街地に残る中世のような狭い道路でもクルリとUターンができ、石畳でも吸収性の良い足まわりによって日本でも上質な乗り心地を提供してくれるのです。

 そのフロントサスペンションは、伝統のシングルアーム方式です。小径ホイールだけに、ステアリングヘッドも車体の低い場所に配置することができ、低重心感がありながら充分なストロークがあるのも小径ホイールの恩恵でしょう。

 ホイール内部にこれでもか、と詰まる前後のブレーキは、硬めのレバータッチながらコントロール感と制動性は充分。レバー位置の調整が出来るとベターですが、市街地から郊外のツーリング路を気持ち良く走ってもじつに楽しいのです。

ベスパのスクーターは走るほどに楽しい、日本ブランドのスクーターとは違った味わいがある

 日本ブランドのスクーターが得意とする、やや後傾したリラックスポジションからすると、ベスパのそれは、ホンダのスーパーカブのようなキリっと上半身を伸ばし、膝を直角に曲げて座るようなスタイルです。つまり前方視界も良好なのです。

 走るほどその魅力に引き込まれるベスパです。とくにこの「GTS」は、駆動系の仕立てが上質。いわゆるCVTベルトミッションなのですが、アクセルを開けた時の動き出しの滑らかさとエンジン回転を無駄にあげないクラッチ制御の巧さが絶妙。「ああ、やっぱり運転にはうるさいイタリアの人が作っただけのことはあるな」と勝手に悦に入るのです。

 エンジンも素晴らしい。単体での振動が少なく、フリクションロス低減に根ざした開発がされた「HPE(ハイパフォーマンスエンジン)」なのです。実際、スチールモノコックフレームを介して感じる振動は、高周波のビーンとしたものがグリップなどに出るものの、かつてのようにミラーがびびるなどの現象が無かったのは驚きました。

 排気量は300と言いながら278ccですが、同じ排気量で先代エンジンより2.8HPもパワーアップ。吸排気系のチューニングも変わっていて、史上最強のベスパとして注目なのです。そしてそのエンジンはシートを開き、ラゲッジボックスを取り外すと簡単にアクセスできる仕組み。これもモノコックスチールフレームだからこそできる技です。小ぶりに見えてじつはスゴイ。こうした基本的構造を、ベスパは誕生した1946年から大きく変えていません。

ベスパ「GTS SuperTech 300」(2021年型)カラー:デリカートグレー

 街中だけではなく、高速道路では悠々と追い越し車線を流し、速い流れにも乗れるだけのパフォーマンスと安定感があります。消費税10%込みで77万円というプライスは、150クラスのベスパよりも20万円ほどお高くはなりますが、デザインに溶け込んだ液晶モニターを採用したメーターなど、「GTS」らしいディテールはベスパの中のプレミアム。その実力を、しっかりと確かめられたのです。

【了】

【画像】ベスパ「GTS SuperTech 300」(2021年型)の詳細を見る(19枚)

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Writer: 松井勉

モーターサイクル関係の取材、 執筆、プロモーション映像などを中心に活動を行なう。海外のオフロードレースへの参戦や、新型車の試乗による記事、取材リポートを多数経験。バイクの楽しさを 日々伝え続けている。

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