シフトチェンジ操作は脳トレになる? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.112~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、クルマやバイクのペダルの配置は脳トレになるかも? と言います。どういうことなのでしょうか?

なにげないマシン操作、じつは複雑な仕事をこなしている

 僕(筆者:木下隆之)が日産契約ドライバーだった頃、特殊なレーシングマシンのテストをした(させられた)ことがある。数々の開発マシンのテストドライブをしたのだが、その中でももっとも苦労したことがあった。

チェンジペダルが左ではなく右に配置されるカワサキ「650 W1」(1966年)、通称「ダブワン」

 当時は世界的に2リッターのツーリングカー が隆盛を極めており、日産もプリメーラをレーシングカーに仕立て世界各地に送り込んでいた。そんな時、ブラジルから妙なリクエストが届いた。

「マシンのペダルを、右からアクセル、クラッチ、ブレーキに変えて欲しい」

 通常、足元の「ABC」ペダルは、右からアクセル(A)、ブレーキ(B)、クラッチ(C)の順に並ぶ。だがブラジルからのリクエストは、ブレーキとクラッチの位置を変えて欲しいというものだった。「まったく妙な要求だよね」と笑ったものだ。

 しかしその理由は、伊達や酔狂ではなかった。最初はブラジル人の遊びかと勘ぐったが、速く走るための施策だったのだ。

 というのも当時、クラッチを踏まずとも変速が可能なシステムが普及したこともあり、左足ブレーキングが流行した。アクセルは右足、ブレーキングは左足。だから、ブレーキペダルは左側にあるのが理想だというのだ。

 そしてクラッチペダルは発進と停止の瞬間だけであり、使用頻度が低いのだから、右足でも左足でも操作しづらい中央でいいと主張する。なるほど、理にかなっている。

 ただ、たったペダルの入れ替えだけなのだが、瞬間的な操作が要求されるレーシングマシンでは大問題だ。コーナーを前にした急ブレーキは、左側を踏む。ピットに帰還して停止する瞬間にはクラッチペタルを踏まねばならず、そのクラッチは左ではなく真ん中なのである。

 かくして慣れぬ変速ペダルレイアウトのマシンを開発させられたのだが、そのシステムが世界的な標準になることはなかった。今ではほとんどのドライバーが左足ブレーキを起用に使うが、ペダルレイアウトはそのままだ。

 などという話をしていたら、1966年式のカワサキ「W1(ダブル・ワン)」は、右足シフトで左足ブレーキだという。しかも右足シフトはシーソー型のシフトペダルのようで、かかと側のペダルを押し下げるとシフトアップだという。現在のように、1速こそ押し下げるが、つま先にひっかけて2速からのシフトアップとは逆なのだから、さぞかしライディングしづらいことだろう。

 ともあれ、それもこれも慣れの問題であり、機会があれば安全な場所でチャレンジしたいものである。還暦過ぎた僕にはいい脳トレになりそうだ。

【了】

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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