欧州デビューから20周年 ヤマハ最高峰スポーツツアラー「FJR1300AS」のスゴさに、乗って納得
ヤマハ「FJR1300AS」は、2001年の欧州デビューから20周年を迎え、ヤマハのバイクの中で最大排気量を誇る最高峰のスポーツツアラーです。クラッチ操作不要の車体にはどのような特徴があるのでしょうか。試乗しました。
粛々と進化を遂げ、完成の域を超えた熟成モデル
ヤマハの国内向けモデルの内、最大排気量を誇るのが「FJR1300AS」です。排気量1297ccの水冷4気筒エンジンを搭載し、全長2230mm、軸間距離1545mmという長さに加えて、車重は296kgに到達。保管場所から出し入れする際、何度か車体を切り返さなければいけない環境だと、それなりの力とコツを要します。ハンドルから伝わる手応えはズッシリと重く、取り回しの緊張感はかなり高いからです。その意味で、ある程度乗り手を選ぶバイクと言っていいでしょう。

ただし、エンジンが掛かっている時は快適そのもの。なにせ、このバイクのギアはセミオートマチックになっていて、クラッチ操作のストレスが何も無いのです。ギアチェンジは、ハンドル左側に備わっている「+」と「-」のボタンを操作するだけでOK。シフトアップは「+」を人差し指で引き、シフトダウンの時は「-」を親指で押せば、「カツン、カツン」とスムーズに切り換わっていきます。
指を使うことに慣れないのなら、通常のシフトペダルも装備されていますから一般的なマニュアルミッション車と同様、足で操作することも可能です。いずれにしてもクラッチ操作は不要……というか最初からレバーは備わっていないため、大型AT限定免許で乗車することもできるのです。
「いやいや、素早いシフトアップと滑らかなシフトダウンこそが操作の醍醐味」と言いたくなるライダーの気持ちも分かりますが、この快適さを知ってしまうと拒否反応もくつがえるのではないでしょうか。とくにタンデムの機会が多いライダーにはおすすめ。セミオートマチックであることをパッセンジャーが知らなければ、いきなりギアチェンジが上手くなったことに驚くに違いありません。

極低速走行時や停車時は自動的に1速までダウンしてくれるストップモードスイッチも装備され、街中でストップ&ゴーを繰り返すようなシチュエーションでも疲労を感じることなく、走行できるはずです。
では、ネガティブな要素はなにもないのか? ひとつ指摘するなら、Uターンするような微妙な速度域だと、クラッチをつなぐか、半クラッチを維持するか悩んでいる瞬間があり、そこに違和感を覚えるかもしれませんが、その程度。ライディングスキルが「並の上」、もしくは「上の下」くらいまでなら、確実に「FJR1300AS」のギアチェンジの方が上手いと言っていいでしょう。
もっとも、こうしたギミックが無かったとしても、スポーツツアラーとしての性能は優秀です。軸間距離の長さと車重は直進安定性に貢献し、クルーズコントロールと高さ調整が可能な電動スクリーンをフル活用すれば、どこまででも走っていけそうなほど、快適な時間をもたらしてくれます。

それでいてコーナリングも不得手ではありません。「キビキビ」とか「スパスパ」という擬音が使えるほど鋭くはないものの、「パターンパターン」と大らかなハンドリングできれいにラインをトレース。バンク角が深くなっても挙動は終始安定しているため、スーパースポーツでおっかなびっくり走るよりも気持ちよくワインディングを楽しめるライダーも多いでしょう。
もちろん、このクラスの現行モデルですから電子デバイスも充実。穏やかな「T」(ツーリング)とパワフルな「S」(スポーツ)が選べるライディングモード、リアタイヤのスリップを抑制するトラクションコントロール、SOFT/STD/HARDが選べる前後サスペンションの減衰力調整機構、タンデムや荷物の積載量に応じて硬さを選べるリアサスペンションのプリロード調整などを標準装備し、走るステージや好みによって、ボタンひとつで自由にカスタマイズできるというわけです。

日本ではややマイナーな存在ながら、装備と性能と価格のバランスがほどよくまとまっていて、そのルーツとなる「FJ1100」(1984年欧州モデル)時代も含めると37年にもおよぶ歴史を誇っているのも納得。サイドケースやトップケース、コンフォートシートといったアクセサリーも豊富に揃っていますから、ロングツーリングをこなすライダーは、一度チェックしててみてください。
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「FJR1300AS」の車体価格(消費税10%込み)は187万円、車体色にはブルーメタリックとダークグレーメタリックの2色が用意されています。
Writer: 伊丹孝裕
二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。マン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムなど、世界各国のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。