TVアニメ「スーパーカブ」で小熊と礼子が飲んだエスプレッソに注がれた「内田グラッパ」を探す山梨県勝沼への旅
TVアニメ『スーパーカブ』第9話に登場する、『内田グラッパ』を知っていますか? その製造場所が、聖地のひとつとなっているようです。
主人公たちが飲むグラッパ入りのエスプレッソ
親はいない、お金もない、友達も趣味も、将来の目標もない。ひとりぼっちの高校生 小熊が、ホンダ「スーパーカブ」を手に入れたことから始まる物語、TVアニメ『スーパーカブ』。
山梨県北杜市を舞台に紡がれる、どこか懐かしいような甘酸っぱい友情ストーリーは、バイク好きだけでなく、幅広い層の支持を得て、近年、ブームの兆しを見せている「聖地巡礼」で現地を訪れる人も多いようです。

『スーパーカブ』は、スーパーカブ50に乗る小熊と、郵政カブ(MD90)を颯爽と駆り、後にハンターカブ(CT110)に乗り換える成績優秀で活発な少女、礼子を中心に話が繰り広げられますが、ふたりと仲良くなるクラスメイトの小柄な女の子、椎も魅力的なキャラクターです。
アニメ内では、両親が自宅でベーカリー&カフェを営む椎が、身体が冷えた小熊と礼子に「グラッパ」入りのエスプレッソや紅茶をふるまうシーンが出てきます。そんな作品中に登場する『内田グラッパ』にも、どうやら熱心なファンの注目が集まっている様子。

通称『内田グラッパ』こと『内田葡萄焼酒(うちだぶどうやきしゅ)』を製造・販売する、山梨県甲州市勝沼町にあるファミリーワイナリー、白百合醸造で、内田多加夫社長と内田圭哉常務に話を聞いてきました。
グラッパは、ワインを搾った後のぶどう果皮を原料にした蒸留酒で、ブランデーの一種です。
同社はいち早く、10年以上前に本場イタリア製の蒸留機を導入。減圧式蒸留では日本初となる、国産グラッパの製造を始めたワイナリーだそうです。
「ワインは他のお酒と違って、水をまったく使わず、ぶどうが含む水分のみで造ります。水の良し悪しではなく、ぶどうの産地で生産されるんです。
ですので、こちらに来ていただければ、ぶどう畑や製造過程のバックヤードも見られます。アニメを観て、ツーリングでいらっしゃる人も多いですが、ほぼ全員がグラッパを購入してくれますね」と、内田社長は話します。
また、来店するカブ乗りも数多く、『内田グラッパ』が登場した第9話「氷の中」が放送された直後に、関係者から提供されたオリジナルのステッカーは、あっという間に無くなってしまったと、説明してくれました。

インタビュー時、実際にグラッパ入りコーヒーをいただきましたが、カップに顔を近づけると、コーヒーの湯気に乗って、レーズンを思わせるようなブランデーならではの甘い薫りが漂います。筆者(井出ナオト)の貧弱な味覚では表現しきれませんが、グラッパとコーヒーがお互いの味を引き立ててくれているような、そんな印象でした。

ちなみに『内田葡萄焼酒』には、甲州種ぶどうを原料とする「甲州」、さらにそれを樽で熟成させた「樽熟成 甲州」、マスカット・ベーリーA種を使った「ベーリーA」の3種類がラインナップされていますが、そのなかの「樽熟成 甲州」が、2021年の『東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)』のブランデー部門で、国内最高賞となるシルバーを受賞したとのこと。
入れるのは1杯につき、せいぜい5cc程度で良いそうで、アニメのなかでも触れられていたように、あまり入れ過ぎると酒気帯び運転になってしまうので、バイクやクルマに乗る前や、お酒に弱い人は要注意です。
キャンプツーリングに最適な『内田グラッパ』
フランスへの武者修行から1年ほど前に帰国した、圭哉常務は次のように話します。
「本来グラッパは胃腸の消化を助ける食後酒なんですが、イタリアだと濃いエスプレッソに入れて、カッと飲むというのが習慣になっています。
ザラメ糖をたっぷり入れて、なんて人も結構います。これからの寒い時期だと身体が温まりますし、ヨーロッパではブランデーを気付け薬代わりに飲んだりもします」

キャンプツーリングの途中で、社屋に併設されるショップに立ち寄ってグラッパを購入し、夜のバーベキューで強めのアルコールとして(いずれも度数40%)楽しんだり、コーヒーや紅茶に入れて味わうのがオススメですが、いちごのジャムを煮込む際や、デザートを作る時に使うと、グッと大人の口当たりに変化するそうで、普段食べるアイスクリームに、ほんの少しかけるだけでも、味がワンランクアップするのだとか。アウトドアで小粋にバナナのフランベを作ったりすれば、“カブ”ならぬ“株”がストップ高になることは間違いありません。
「寒い冬のキャンプで、あえて外へ出しっぱなしにしてトロトロにし、炎の熱で少しずつ溶かしながら味わいが変わっていくのを楽しむのも乙ですよ」と、さまざまな楽しみ方を教えていただきました。

また、ショップ内の一部が『スーパーカブ』コーナーになっていて、ショップソムリエさんが制作したと思われるポップには「コーヒーフロートや焼きリンゴ、パウンドケーキにも」と書いてあり、まだまだ応用は利きそうです。

ロリアンワインという愛称でも知られる白百合醸造は、中央自動車道「勝沼I.C.」からバイクで10分とアクセスしやすく、東京方面からだと奥多摩を経由して大菩薩ラインというのが定番ルートのひとつ。人気のフルーツラインや、昇仙峡ラインからも近くです。

「現在、ワインに合うフィンガーフードや軽食を、ショップで提供できるように準備しているところなので、新型コロナが落ち着いて、提供がスタートしたら、グラッパ入りのコーヒーや紅茶、グラッパをかけたアイスクリームもメニューとして検討してみます」と多加夫社長。
「私は造り手なので、こだわって造るだけですが、さまざまな形で興味を持っていただけるのは嬉しいです。お好きな方法で、楽しんでください」
コロナ禍で遠出するのは気が進まないという人は、『スーパーカブ』のブルーレイBOXが2021年8月25日に発売されたので、白百合醸造のオンラインショップで入手した『内田葡萄焼酒』を口にしながら、アニメを楽しむというのも素敵な秋の夜長の過ごし方ではないでしょうか?
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●白百合醸造詳細
・住所:山梨県甲州市勝沼町等々力878-2
【了】
Writer: 井出ナオト
ロードレース専門誌時代にMotoGP、鈴鹿8耐、全日本ロードレース選手権などを精力的に取材。エンターテインメント系フリーペーパーの編集等を経て、現在はフリーランスとして各種媒体に寄稿している。ハンドリングに感銘を受けたヤマハFZ750がバイクの評価基準で、現在はスズキGSX-R1000とベスパLX150を所有する。
Twitter:@naoto_ide