「速くない、怖くない」公道の安全な走りに生きるサーキットレッスン チームマリBCL体験レポート

サーキットで行なわれるバイクのライディングレッスンとはどんなものなのでしょうか。膝擦り? 速く走れないから無理? いえいえ、そんなことはありません。サーキットという特殊な場所だからこそ、得られるものがあるのです。

速さはいらない、安全にバイクを楽しむためのサーキットレッスン

 サーキットで開催されるバイクのライディングスクール、というと、どのようなイメージでしょうか。「速い人ばかりなのでは?」「遅い人は参加してはいけないのでは?」「みんな膝を擦っているような人ばかりなんじゃないの?」エトセトラ、エトセトラ……。

チームマリが開催する『サーキットビューティレッスン』のヒトコマ。ブレーキング練習では、なかなか思ったところで止まれない。そういう自覚ができたのも収穫

 というわけで、実際のところはどうなのか、筑波サーキット コース1000で行なわれた女性ライダー向けのサーキットレッスン、チームマリ開催による『ビューティサーキットレッスン』(以下、BCL)に、筆者(伊藤英里)が参加した模様をお届けしたいと思います。なお、当日は新型コロナウイルス感染症の感染防止対策が徹底された上で開催されました。

『チームマリ』は元ロードレース世界選手権ライダー、井形ともさんが代表を務める団体で、女性のライダーを対象としたライディングスクールを開催しています。中でもBCLは、サーキットを利用した中高速のスピード域のライディングスクールです。

 この日のレッスン内容は、主に「ブレーキング練習」、「ミニバイクによる膝擦り練習」、「マンツーマンの走行アドバイス」、「中高速のパーシャル、しっかりした加速からのブレーキング練習」、「フリー走行」です。なお、クラスによって内容は少々異なります。

 こうして内容を見ると、「サーキット走行に特化したレッスンなんだ」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。例えばブレーキング練習では、一定ラインでスロットルを戻してフルブレーキをして止まる、また、設定された地点でちょうど停止できるようにブレーキングする練習を繰り返し行いました。今回はカリキュラムになかったのですが、ABSの体験や、リアタイヤがロックしたときに慌てない方法を教えてもらえる回もあるそうです。

ブレーキング練習前、コース上でインストラクターのお手本を見せてもらってから走行に入る。そのため、イメージがしやすかった

 ブレーキ操作、急制動は、公道において自分や周囲の安全のためにも大事なスキルです。そうでありながら、練習できる機会は多くないものです。私もここぞとばかりにしっかりと止まれるようブレーキングを練習! しかし、停止地点で待っていたインストラクターから「もう少し速度はゆっくりでいいですよ」との言葉が……。どうやら少し、張り切りすぎたようです。

 このように、1回停止するたびに個人のレベルに合ったアドバイスをもらえますし、最初からハイスピードで練習する必要はありませんでした。自分ができないところを把握し、どう改善していけばいいのかを教えてもらえる、それは意識の向上につながると思えました。

 そして「これは贅沢だな」と感じたのが、各参加者に対しマンツーマンでアドバイスをもらえるパートです。インストラクターに数周、自分の走りを見てもらい、走行中の走りのくせ、できていないところなどを丁寧にアドバイスしてもらえるのです。私は「すべての操作をデリケートに、丁寧にしてください」とのこと。どうやら操作が荒いらしいです……とほほ。

「丁寧に走って操作ができないところがあるなら、そこはもう一度学ばなければいけないところですよ。丁寧な操作を心掛けるとその分遅くなるかもしれませんが、デリケートな操作で今くらいのスピードで走れるようになれば、低いリスクでさらに速くなっていけます」という、インストラクターさんの言葉が身に染みました。

走る前には座学で説明を受ける。インストラクターとの距離が近いので、走行後の質問もしやすい

 このとき、私はスポーツライディング寄りの走りをしていたのですが、このアドバイスを聞きながら、これは公道の走りにも通じることだと感じていました。確かにアクセルを開ければスピードは出るけれど、確実な操作ができなければ、例えば公道で不意のアクシデントに遭遇したとき、危険回避はできないだろう、と。そして、丁寧な操作を心掛け、かつできないところを意識することは、公道での走りの安全性を高めることにもつながると思えたのです。

 ちなみに、BCLでは少しサーキット走行に慣れているライダー向けのクラスに、スポーツライディング寄りのカリキュラムも用意されていました。たとえば、「ミニバイクでの膝擦り練習」などがそれにあたります。私もこちらに参加。インストラクターを務める石井千優選手にアドバイスをもらいつつ定常円をぐるぐると走ります。石井選手は、全日本ロードレース選手権併催のMFJ CUP JP250に参戦するレーシングライダーです。

 しかし、しっかりアドバイスをもらってもすぐにはできないのが運動音痴満点の私、伊藤というもので、「こんなにバンクさせたら転んでしまうのでは!?」とビクビクしっぱなしです。それでも石井選手のアドバイスを信じて走っていたところ、気づけば膝擦りを達成したではありませんか! このとき参加した全員が膝を擦ることができました。じつは内心、「私は速くないし、膝を擦れなくても……」と思っていたのです……石井選手、ごめんなさい。

ミニバイクでの膝擦り練習を体験する筆者(伊藤英里)。走りながら円の中心からどんどん離れていってしまった。膝擦りは達成したが、まだまだだ

 けれど、どうして膝擦りが必要なのかを説明され、実際に擦ってみれば「なるほど」と、納得しました。言葉で理解させてもらってから走ることの大事さを感じた次第です。練習ではみんなで「(膝擦りまで)あと少し~!」などと励まし合い、和気あいあいとした雰囲気も印象的でした。

公道ではできないことを練習できる

 ところで、高速域が怖いと感じるのはなぜでしょうか。個人的な見解では、その怖さの大元にあるもののひとつは、「不安」ではないかと思っています。実際のところ、私は数年前まで、高速道路で80km/h以上のスピードを出すことができませんでした。それ以上のスピードを出したときにどうなるのかわからず、不安だったからです。信じられない方もいるでしょうが、速さへの不安、恐怖をぬぐえないライダーもいるのではないでしょうか。最近ではサーキット走行を楽しむようになっていますが、今でも私は、スピードを出すことに不安を感じています。

フリー走行の時間では、希望すればレンタル車両、ホンダ「CBR150R」での走行も可能。軽くて扱いやすいので、その分練習しがいがある

 ただ、不安とは未知のものに対して起こる感情ではないか、そしてその解決策のひとつは、「知る」ことではないかとも思うのです。知らずに怖がることと、その速度域を体験し、何が危険かを知った上で怖がることは違うはずです。知っていれば、アクシデントへの対処の方法も考えることができるし、その対処ができないとわかればそのための練習に取り組むこともできます。そして、中高速の領域をレッスンの中で知り、練習することができるのがBCLというサーキットで行われるスクールのよさではないか……レッスンに参加して、そのように感じました。

 全体的な雰囲気として、BCLではサーキットだから速く走らなければならない、というプレッシャーはありませんでした。参加者の方がみんな、「もっとうまく走りたい」という思いとともに参加しているのが伝わってきます。インストラクターの方々の教え方も、それに応えるように、丁寧かつ細やか。レッスンを受けている間に速さへの劣等感や焦りを感じることはなく、自分のライディングスキルを向上させること、ただそれだけに集中することができました。

BCLでインストラクターを務める3名。代表の井形さん(中央)、石井選手(左)、安藤聡さん(右) ※撮影時のみマスクを外しています

 レッスン後、代表の井形さんに「最近の交通事情を鑑みてレッスンに取り入れたことはありますか?」と聞いてみました。すると、井形さんが挙げたのはバイクの性能についてでした。

「最近はバイクの性能が上がっています。みんな、いいバイクに乗っているでしょう。ただ、女性はスピードが怖くて、バイクの性能を使えていないこともあります。ABSを使えなかったりね。だから、バイクの性能向上にともない、人間もそれに追い付けるように(レッスンを考えている)。

 サーキットである程度の速度を体感しておくと、さらにゆっくりした速度では十分に余裕をもって走れるので、公道での走りにすごく生きるんです。スピードが怖い人にこそ、BCLを受けてほしいですね」

 公道の安全な走りにも役立つサーキットのスクール、そういう選択肢もアリではないでしょうか。

【了】

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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