車椅子をけん引する電動キックボード? 高校生バイク免許OKの山梨で開発者に立ちふさがった車両区分と免許の壁

高校生はバイク免許が取得できない。法律にはない教育ルールが、車椅子を利用する人の移動を不自由にしています。昭和の時代も「3ない運動」を実施しなかった山梨県で、車椅子の電動化システムに取り組む開発者が「原付免許があれば乗ることができる車椅子」の電動化に取り組む理由とは?

手動の車椅子、動力を後付けすると「原付けん引車」

 高校生はバイク免許が取得できないという、法律にはない教育ルールが、車椅子を利用する人の移動を不自由にしています。昭和の時代も「3ない運動」を実施しなかった山梨県で、車椅子の電動化システムに取り組む開発者が「原付免許があれば乗ることができる車椅子」の電動化に取り組んでいます。その理由を伺いました。

車椅子の電動化システムに取り組む、開発者の金岡伸泰社長。山梨県北杜市で「有限会社 楽」を経営し、マッサージ師と技術者を両立する

「電動キックボードなど新しいモビリティの話題が出ていますが、この目的は、歩行が困難な人の移動を簡単にすることだと思って開発しました」

 そう語るのは、山梨県北杜市で車椅子の電動化に取り組む「有限会社 楽」の金岡伸泰社長です。同社が販売するのは、手動の車椅子の電動化システム。車椅子を電動キックボードの人が立つ部分に乗り上げ、付属装置で車体を固定することで車椅子に座ったまま、キックボードのハンドルやアクセルを使って操作します。

「電動車椅子やシニアカーは高齢者向けですが、活動期に歩けなくなった人にとって時速6キロなんて遅い。重過ぎて、公共交通を組み合わせた移動では使えない。特に筋力のある若い人は、新しいモビリティを使うことで家族に頼らずに移動ができる可能性が見えてきます。私の開発のきっかけも、高校生が車椅子生活で移動に苦労しているのを目の当たりにしたことです」

車椅子のフットレストの治具をキックボードの板上の装置で連結した様子。ロックは簡単に外すことができるので、車椅子に乗ったまま外して、キックボードを折りたたむこともできる

 金岡さんは開発の傍ら、マッサージ師として日ごろから障害者と接しています。バスや列車の車椅子利用は、基本的に事前連絡が必要です。そのため多くの学生は、家族に送迎を頼んでいます。

「交通ルールで速度を見直せば、電動車椅子でもいいだろう、という議論もありますが、電動車椅子を使うには、あの車椅子を置けるだけの広い玄関が必要です。車椅子生活者はガレージに乗用車を止めるようにはいきません」

 独り暮らしで住む場所には、電動車椅子が置けるような広い玄関はありません。家を出る前から自立が妨げられている状況を、金岡さんは変えたいと思っていました。

パラリンピック選手も持ち込めたのに……

「電動化装置は、軽快に動ける“アクティブユーザー向け車椅子”用に開発しました。病院内で使われている車椅子ではなく、車椅子で日常生活を送る人のためです。だから、本当は歩道走行できるものであればよいのですが、歩行補助車にはならない。電動化すると車椅子の車軸の耐久性の影響で時速20キロまでしかスピードは出ないのですが、原動機付自転車扱いにもなりませんでした」

手動車椅子と電動キックボードを分離した状態。保安部品やナンバープレートは電動キックボードに装備。免許があれば原付と同じように公道が走行可能。自転車のように走ることができる柔軟さがほしいところ

 開発当時、金岡さんはフロントフォークと前輪だけの動力輪を車椅子の前に取り付ける予定でした。

「海外では珍しくない。パラリンピックで来日した選手も、自分の車椅子にこの動力輪だけを取り付けて移動してました。しかし、日本の法律では2輪車は2つの車輪があることが原則。3輪でもいいが、1輪は認められないという。

 道路交通法を担当する警察では、公道走行ができる電動車は原動機付自転車以上か、6km/h以下の歩行補助車しか認められないと。ふたつの法律の間で堂々巡りでした。でも、1輪だと原付にもならないので、合法な手動車椅子の電動化を探り続けたら、人が乗れる電動キックボードで車椅子を引っ張る形しかなかった。最終的に、この車椅子は“原動機付自転車のけん引車両”なのです」

 ただ、この結果に金岡さんは満足しませんでした。免許を取得することが簡単ではないからです。警察にも相談しました。

「山梨県は高校生でもバイク免許が取れるから、まだ可能性がありますが、交付前に講習会を受けなければならない。どうするのか? 最終的に電動化した手動車椅子を講習会場に持ち込んで受講することで、免許証は交付されることになりました」

 全国に目を転じると、教育現場の理解が得られるのかも重要なポイントです。卒業すれば普通免許が取得できるので、在学中にバイク免許を取得する必要はない。それが教育現場の普通の考え方です。それでも、手動を電動化する使命に駆られたのはなぜか。あえて聞いてみました。

電動キックボードは手動車椅子をけん引するため「原動機付自転車の牽引車両」となる。電動化した手動車椅子の名前は「F7W」。電動キックボードの名称「F7」に、車椅子(wheelchair)の「W」を付けた。希望小売価格27万5000円

「車椅子をたたんで乗り込むことは、マイカーを持っていても大変。近くのコンビニに行くことも、結局あきらめてしまう。健康な人は歩ける距離でも自転車に乗りますが、車椅子生活者には自転車に代わる乗り物がない。求められている新しいモビリティの役割は、そこなのです」

 この視点、新しいモビリティの議論にはありませんでした。

【了】

【画像】電動キックボードで手動車椅子をけん引する「F7W」を見る(7枚)

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Writer: 中島みなみ

1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。

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