旧車(バイク)って何が面白いの? ~2輪系ライター中村トモヒコの、旧車好き目線で~ Vol.7

人気が高まっているバイクの旧車ですが、現行車とは異なる魅力とはどのようなものなのでしょうか? ライターの中村友彦さんが考察します。

常用域の楽しさと、いじりやすさ

 バイクに乗り始めて35年。私(筆者:中村友彦)はこれまでに数多くの旧車を体験・所有してきましたが、“旧車って何が面白いの?”と改まって聞かれると、返答に窮するというのが正直なところです。

筆者(中村友彦)にとって初の旧車は、20歳のときに入手した11年落ちの1979型カワサキ「Z650」。北米旅行中に新聞の個人売買で5万円くらいで購入し、そのままロッキー山脈に出かけた

 単純にカッコいいとか、何となく肌に合うでは、説得力はゼロですし……。というわけで、今回は自分の意識を確認する意味も含めて、現行車とは異なる、旧車ならではの魅力を記してみたいと思います。

 まずは乗り味の話をすると、旧車好きの会話では、普通に走っているだけで楽しい、潜在能力をきっちり使える、などという言葉がよく出てきます。とはいえ、普通に走っているだけ=常用域が楽しいモデルは現行車にもたくさんありますし、潜在能力を使えるかどうかは乗り手の腕次第なので、現行車が必ずしも使えないとは言えません。

 もっとも大排気量車に注目すると、私を含めたほとんどのライダーが持て余してしまう現代のスーパースポーツとは異なり、少なくとも1970年代以前の各社のフラッグシップは、多くの人が潜在能力を引き出せましたが、やっぱりこのあたりの見解は各人各様でしょう。

昨今ではその点を気にする人はほとんどいなくなったが、OHV2バルブ時代のBMWのフラットツインは、エンジン腰上の整備が行いやすいことで有名。もちろんキャブレターの調整もイージー

 続いては“いじりやすさ”の話です。これも旧車好きの会話でよく話題に上るテーマで、確かに、いろいろな部品がムキ出しで余白が多い旧車は、現行車よりいじりやすい傾向です。と言うより、昔のバイクはオーナーが定期的な整備をすることが前提と思える構成でしたから、多くの人がメカいじりを楽しんでいたことでしょう。

 まあでも、いじりやすさなら現行車にだって、スーパーカブを筆頭とするホンダの水平単気筒車という最高の素材が存在します。なお旧車好きの中には、気化器の主役がキャブレターから電子制御式インジェクションに代わった時点で、メカいじりが楽しめなくなったと言う人がいますが、サブコンを熟知した人の視点では、キャブレターよりインジェクションのほうがいじりやすいようです。

ダイレクト感と、操る手応え

 なかなか旧車ならではの魅力に迫れませんが、次に挙げるダイレクト感は、現行車とは一線を画する要素ではないでしょうか。と言うのも、排出ガス・騒音に関する規制が格段に緩かった、あるいは存在しなかった時代に生まれたバイクは、現行車よりすべてがダイレクトなのです。

歴史に残る名車ではあるが、現代の視点で見ると、各部に物足りなさを感じるホンダ「CB750フォア」(1969年)。とはいえ、だからこそ操る楽しさが感じやすく、乗る人が乗れば、峠道では現行車より速く走れる

 具体的な話をするなら、走行中は吸気&排気音とエンジンの燃焼感に加えて、各車各様のメカノイズがハッキリ伝わってくるので、乗り手の気分は否が応にも盛り上がります(聞き慣れないメカノイズは心配の種になりますが)。もっとも、規制を材料にして旧車の魅力を語るのは、何となく反則のような気がします。

 では操る手応えはどうでしょうか。この件も乗り手次第ですが、至れり尽くせりになった現行車と比べると、旧車はいろいろな面で気を遣う必要があって、それが操る手応えに結びついている、と言えなくはありません。例えばホンダの1969年型「CB750フォア」と現代の「CB1300SF」で同じ峠道を走ったら、充実感を得やすいのは、前後ショックとブレーキが頼りなく、アクセル操作に対する反応が柔軟とは言い難い「CB750フォア」の方でしょう。

 つまり旧車には、不便を楽しめる資質が備わっているわけですが、この要素も旧車ならではの魅力と言うには、やっぱりインパクトが弱いような……。

当時の開発陣の意気込み

 で、いろいろ考えた末に私の頭に浮かんだ旧車ならではの魅力は、ライディング中に当時の開発陣の意気込みがビンビン伝わって来ることでした。

ヤマハ「RZ250」「RZ350」(1980年)を含め、排気バルブが存在しなかった時代の2ストローク車は、エンジン特性がピーキーで、整備性がすこぶる良好だった

 ここまで引っ張ってオチが精神論と言うのは、我ながらちょっとどうかと思いますが、名車と呼ばれる旧車の多くは、各時代、各クラス、各ジャンルの最高峰(速いという意味ではありません)を目指したモデルで、そういった車両に開発陣が託した気持ちは、どれだけ年月が経過してもライダーの胸を打つのです。そしてもちろん、最高峰を目指したモデルでありながら、常用域で潜在能力を引き出しやすいこと、操る手応えを感じやすいことも、現行車とは一線を画する旧車ならではの魅力でしょう。

 そう考えると、先ほど車名を挙げたホンダ「CB750フォア」は、「CB1300SF」だけではなく、リッタースーパースポーツの「CBR1000RR-R」に通じる資質を備えているのです。

 というわけで、今回は旧車の魅力を考えてみましたが、“旧車って何が面白いの?”と誰かに聞かれて、“当時の開発陣の意気込みが……”などと語っても、質問の主は腑に落ちた表情にはならないでしょう。だから今回のテーマは、今後も私の課題になりそうです……。

【了】

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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