ホンダ最後の「空冷直4」「空冷CB」!! 良質なスタンダードバイク「CB1100EX」と「CB1100RS」にあらためて試乗

2010年に新登場となったホンダの大型ロードスポーツモデル「CB1100」シリーズが2021年型で生産終了となり、2機種のファイナルエディションが発売されました。美しい造形と排気量1140ccの空冷直列4気筒エンジンを搭載する「CB1100EX」と「CB1100RS」に、あらためて試乗しました。

最後だからあらためて、日本の良質なスタンダードバイクを知る

 排気量1140ccの空冷直列4気筒エンジンを搭載するホンダのネオクラシックモデルが「CB1100EX」と「CB1100RS」です。いずれも生産を終えることになり、2021年秋にそれぞれのファイナルエディションを発表。瞬く間にオーダーが殺到し、その歴史に幕が降ろされたのです。今回、その2台にあらためて試乗することができました。

ホンダ「CB1100 EX Final Edition」に試乗する筆者(伊丹孝裕)
ホンダ「CB1100 EX Final Edition」に試乗する筆者(伊丹孝裕)

 同シリーズで仕様の異なる「EX」と「RS」の主な違いは、次の通りです。

・タイヤサイズ(前、後)
EX:110/80R18、140/70R18
RS:120/70R17、180/55R17

・ホイール
EX:ワイヤースポーク
RS:キャスト

・キャスター角
EX:27度
RS:26度

・トレール量
EX:114mm
RS:99mm

・フロントフォーク(インナーチューブ径)
EX:φ41mm
RS:φ43mm

・リアサスペンション
EX:プリロード調整可
RS:フルアジャスタブル&別体タンク付

・フロントブレーキ
EX:横留式
RS:ラジアルマウント式

・スイングアーム(材質)
EX:スチール
RS:アルミ

・ハンドル位置
EX:アップ&ワイド
RS:ロー&ナロー

 走りに直接関わるのがこうした部分で、外装関係ではフェンダーやシート、ウインカーなどが異なります。ざっくり言えば、昔ながらのオーソドックスな雰囲気を持つモデルがEX、それをベースにスポーティなハンドリングが与えられたモデルがRSというわけです。

ホンダ「CB1100 RS Final Edition」(左)と「CB1100 EX Final Edition」(右)
ホンダ「CB1100 RS Final Edition」(左)と「CB1100 EX Final Edition」(右)

 さて、それぞれのモデルで街中からワインディングまで走ってみたわけですが、なかなか手強いのがRSです。交差点や低速コーナーではフロントタイヤが想定よりも切れ込み、それが抵抗になって車体がスムーズにバンクしません。バイクの動きがカクカクとしたものになり、なかなか難易度高し。今どきちょっと珍しいハンドリングに仕立てられています。

 これはホイールを小径化した時に起こる特有の症状でもあり、その辻褄を合わせるためにトレール量や車体姿勢を最適化するのが普通です。もちろん、ホンダとてそんなことは分かっているはずから、もう少し煮詰めてから送り出してもいいのでは? 基本的にトレール量が減少すると安定性が損なわれるものですが(EX:114mm→RS:99mm)、その通りのクセになっているのです。

 ただ、ホンダの意図もわからなくはありません。というのも、アベレージスピードが上がり、バンク角が深くなる領域ではグッと安定感が増すからです。極端な話、街中では車体を直立させたままハンドルを切るようにして交差点をやり過ごし、気持ちよくスロットルを開けられる郊外に出るまでは我慢する。RSのハンドリングはそんな感じです。

ホンダ「CB1100 RS Final Edition」に試乗する筆者(伊丹孝裕)
ホンダ「CB1100 RS Final Edition」に試乗する筆者(伊丹孝裕)

 そういう意味では、ワインディング仕様と言ってもいいわけですが、「そもそもそんなバイクじゃないよね?」というジレンマもあり、むずかしいところ。気持ちいいスピードや安定するバンク角を探っていくと、結果的に法定スピードを上回ることになりますから、オーナーになった人は注意が必要です。ひとつアドバイスしておくと、あまりフロントに荷重をかけず、リア寄りに乗ると不用意な切れ込みが抑えられるはずです。

 一方、EXのハンドリングは素直そのもの。スタンダードバイクの手本のような仕上がりです。交差点でもヘアピンでも高速コーナーでも狙った通りに車体がバンクし、フロントタイヤの舵角もスムーズに追従。いわゆるオン・ザ・レール感覚のコーナリングを楽しむことができるため、ビギナーが初めて乗っても怖さを感じることはないでしょう。

 RSの引き締まった足まわりは見た目にも精悍で魅力的ながら、軽快感やオールラウンドな走りを求めるならEXをおすすめします。

 もっとも、CB1100を選ぶ人が重視しているのは、グレードよりもエンジンフィーリングかもしれません。この点に関しては文句なし。重厚なサウンドには、ほどよいバラつきというかザラつきのようなものが混ざり、それが空冷らしいぬくもりとして聞こえてきます。

ホンダ最後の「空冷直4」「空冷CB」として、予約期間限定で発売された「CB1100」シリーズ ※予約受注は終了しています
ホンダ最後の「空冷直4」「空冷CB」として、予約期間限定で発売された「CB1100」シリーズ ※予約受注は終了しています

 音だけでなく実際に力強く、スロットルをわずかに開けただけで湧き上がってくるようなトルクを発揮。クラッチを少々ラフにつないでもストールする気配はなく、ディーゼルエンジンさながらの粘りで250kg超の車体を押し進めていきます。加速時のパワーにもなんら不足はなく、回転数と吸気音が連動しながら盛り上がっていく爽快感をいつでもどこでも堪能することができるでしょう。

 また、ミッションのタッチが素晴らしく、高い剛性感をともないながら“カツーン、カツーン”と遊びなく切り換わっていきます。その組み付け精度はいかにも緻密で、こうした操作系の良し悪しでバイクの印象は大きく左右されるものですが、この点においても文句なしの完成度を味わえるはずです。

 モデル末期を迎えた空冷エンジンと言えば、ヤマハ「SR400」に注目が集まりがちでしたが、この「CB1100EX」と「CB1100RS」の外連味(けれんみ)のなさもなかなかのもの。日本の風景に溶け込む良質なスタンダードバイクであり、今回あらためて見直すことができました。

※ ※ ※

 予約期間限定(2021年10月25日をもって受注終了)で発売されたホンダ「CB1100」シリーズの国内年間販売計画台数は合計1600台、価格(消費税10%込み)は「CB1100 EX Final Edition」が136万2900円、「CB1100 RS Final Edition」が140万3600円となっています。

【画像】ホンダ「CB1100 EX」と「CB1100 RS」のファイナルエディションを見る(25枚)

画像ギャラリー

Writer: 伊丹孝裕

二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。鈴鹿8耐、マン島TT、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムといった国内外のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。

最新記事