最新の「モンスター」で感じた、ドゥカティのスタンダードとしての存在意義

イタリアのバイクメーカー「ドゥカティ」を代表するモデルのひとつ「MONSTER(モンスター)」は、アップタイプのバーハンドルやスタンダードなスタイリングが特徴のネイキッドモデルです。第4世代でフルモデルチェンジとなった最新モデルに試乗しました。

選ぶ理由が、見出しづらくなってきた?

「まさか新型が出るとは……」2020年末に第4世代の「MONSTER(モンスター)」が発表されたとき、私(筆者:中村友彦)はそんな印象を抱きました。書き出しから誠に失礼な話ですが、近年のドゥカティのラインナップの充実ぶりを見て、もはやモンスターの進化は不要じゃないか……という気がしていたのです。

ドゥカティ「MONSTER +(モンスター・プラス)」に試乗する筆者(中村友彦)
ドゥカティ「MONSTER +(モンスター・プラス)」に試乗する筆者(中村友彦)

 と言っても、私はモンスターが嫌いなわけではありません。1993年に登場した初代に強烈なインパクトを受けたことは、今でもよく覚えていますし、少なくとも2000年代前半までは、日常域が楽しみやすいアップハンドルのモンスターが、私にとってのベスト・ドゥカティでした。

 そんな私が、モンスターの存在意義にそこはかとない疑問を抱くようになったのは、3代目が登場した2014年頃です。初代がデビューした1993年を振り返ってみると、アップハンドルのドゥカティはモンスターだけだったのですが、2014年の同社のラインナップにはムルティストラーダやハイパーモタード、ストリートファイター、ディアベルなど、多種多様なアップハンドル車が並び、さらに2015年からは、大アップハンドル車がメインとなるスクランブラーシリーズの販売が始まったのですから。

ドゥカティ「MONSTER +(モンスター・プラス)」はヘッドライト上部にマイクロビキニカウル、リアシートにパッセンジャーシートカバーを標準装備する
ドゥカティ「MONSTER +(モンスター・プラス)」はヘッドライト上部にマイクロビキニカウル、リアシートにパッセンジャーシートカバーを標準装備する

 つまり、約20年の間にアップハンドル車が大幅に増えたことで、その中からモンスターを選ぶ理由が、私には見出しづらくなったのです。ツーリング派にはムルティストラーダ、スポーツライディング好きにはハイパーモタードかストリートファイター、ロー&ロング指向のライダーにはディアベル、クラシックテイストを欲する人にはスクランブラーがオススメできるのですが、果たして、モンスターはどんな人に向いているのでしょう……?

各部の刷新で大幅な軽量化を実現

 2021年夏から日本への導入が始まった第4世代のモンスターは、いろいろな面で改革という意識を感じるモデルです。最大の注目要素は、伝統の鋼管トレリスフレームに替えて、パニガーレV4譲りのアルミ製フロントフレームを導入したことでしょう。このフレームに加えて、GFRP(ガラス繊維強化ポリマー)のサブフレームや、新作のスイングアームや前後ホイールなどを採用した結果、既存のモンスター821とモンスター1200に対して、第4世代の装備重量はなんと、18kgや23kgも軽くなっています。

 それに加えて、エンジンを排気量937ccの水冷90度Vツインに一本化したことや、日本製ネイキッドと同等となる36度のハンドル切れ角を確保したこと、日本仕様に限っては775mmというかなり低めのシート高を実現したことなども、第4世代の特徴です。こういった改革から推察するとドゥカティ自身にも、第4世代では存在意義を明確にしなければ、という意識があったように思います。

他のアップハンドル車とは異なる魅力

 今回の試乗で第4世代のモンスターを初めて体験した私は、まずは予想以上の乗りやすさに、ちょっとした驚きを感じることになりました。もちろん前述したように、モンスターは昔から日常域が楽しみやすいモデルだったのですが、ライディングポジションは何となく中途半端で、エンジンは回してナンボと言いたくなる特性でしたし、モデルによっては足まわりに難しさを感じることがありました。

ドゥカティ「MONSTER +(モンスター・プラス)」に試乗する筆者(中村友彦)
ドゥカティ「MONSTER +(モンスター・プラス)」に試乗する筆者(中村友彦)

 ところが第4世代には、そういった気になる要素が見当たらないのです。ライディングポジションはフレンドリーで(ただし大柄な私の場合は、シートは低すぎるという印象でした)、エンジンは低回転域から滑らかで扱いやすく、足まわりはどんな場面でもしなやかに動きます。誤解を恐れずに言うなら、第4世代のモンスターは良質な日本製ネイキッドを思わせるほどに乗りやすく、それでいてドゥカティならではのスポーツ性をきっちり維持しているのです。

 ただし、前述した他のアップハンドル車もそのあたりは同様で、近年のドゥカティはどのモデルに乗っても、扱いやすさとスポーツライディングの楽しさを高次元で両立しようという意識を感じます。だからこそ私は、モンスターの存在意義に疑問を抱いていたのですが……。

 距離が進むにつれて「そうか、そうだよな!」という感じで、何を今さら的な事実に気づきました。他のアップハンドル車の個性が明確すぎるせいか、私はすっかり見落としていましたが、近年のモンスターは、伝統の90度Vツインを搭載する、ドゥカティのスタンダードだったのです。

排気量937ccの水冷90度V型2気筒4バルブエンジンを搭載
排気量937ccの水冷90度V型2気筒4バルブエンジンを搭載

 逆に言うなら他のアップハンドル車は、一昔前のドゥカティの視点で考えれば異端のモデルで、ムルティストラーダとディアベルは車体の大きさ、ストリートファイターはパワフルさ、ハイパーモタードは車高の高さ、スクランブラーは足まわりの頼りなさが、場面によってはネックになることがあります。でも第4世代のモンスターにそういった要素は見当たらず、どんな場面でもドゥカティならではの資質が過不足なく楽しめるのです。

 となるとモンスターは、コレといった趣向が定まっていない、あるいは、用途を限定したくない欲張りなライダーにオススメということになるのでしょうか。いずれにしても今回の試乗を通して、私のモンスターに対する認識はガラリと変わり、現在は守備範囲が広い90度Vツインライトウェイトスポーツとして、やっぱりドゥカティのラインナップに欠かせないモデルだと感じています。

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 ドゥカティ「MONSTER +(モンスター・プラス)」の価格(消費税10%込み)は152万5000円です。

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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