「これは電動バイクだったんだ」。Zero Motorcycles「SR/S」が秘める完成度の高さ

走っていて電動バイクであることを忘れました。逆説的ですが、それほどZero MotorcyclesのSR/Sは電動バイクであることを追求したバイクだと思えました。完成度が高いからこそ、「電動バイクであること」を抜きにしてただひたすら、このバイクを走らせることに夢中になれたのでしょう。

バランスに優れた大型電動バイク

 Zero Motorcyclesはアメリカのカリフォルニア州にオフィスを置く電動バイクメーカーです。2006年に電動バイクの製造をスタートし、過去にはPPIHC(パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム)にも電動バイクSR/Fで参戦しています。日本では、電動バイクの輸入・販売を行なうMSソリューションズの電動バイクブランド、XEAMにラインアップされています。

Zero Motorcycles 「SR/S」の乗る筆者(伊藤英里)
Zero Motorcycles 「SR/S」の乗る筆者(伊藤英里)

 今回試乗したのは、フルカウルタイプの電動バイク、SR/S。一見するとかなり大きな車格です。それもそのはず、このSR/Sに搭載されているバッテリーは約80kg(定格容量14.4kWh)、車体重量は229kg。AT大型二輪免許または大型二輪免許で乗ることができる電動バイクなのです。

Zero Motorcycles「SR/S」と筆者(伊藤英里)
Zero Motorcycles「SR/S」と筆者(伊藤英里)

 身長153cmの筆者(伊藤英里)にとって、この車格と重量はちょっとした緊張を強いるものでしたが、またがってみると不安が少し和らぎました。タンクに向かってぎゅっとしぼり込まれたシート、そして足を下ろす場所に干渉するものが少ないため、両足を下ろした状態で踏ん張れるほど、足つきがいいのです。これはかなりの好印象でした。

 まずはエコモードで慎重にアクセルを開けていくと、その走りは「驚き」の一言でした。SR/Sの最大出力は82kW/5000rpm(約110PS)、最高速度はカタログ値で200km/h。加速が抜群に素晴らしく、自分が弾丸にでもなったかのようなその感覚は電動バイクらしいものなのですが、にもかかわらず走っているとき「電動バイクに乗っている」ことが頭からすっぽりと抜けていたのです。途中で「これは電動バイクなのだった」と思い出したほど。

Zero Motorcycles「SR/S」
Zero Motorcycles「SR/S」

 バッテリーはタンクにあたる部分の下、そしてモーターはその横、シート下に配置されています。前述のようにバッテリーは約80kgあり、モーターもその大きさから軽くはないでしょう。重さのあるものが中央部下に配置され、また、ある程度の重量があることで、SR/Sの大きなトルクをしっかりと受け止めるバランスになっていると感じました。

 同時に、SR/Sが持つ出力特性も秀逸の一言。各走行モードでもちろん出力特性は変わりますが、一貫しているのは非常にスムーズな出力にコントロールされていながら、内燃機関のバイクとはまったく違う、圧倒的な加速感があるというところです。大きなトルクを受け止める重量と、重量配分がしっかりと計算されているのだろう、そう思えました。

Zero Motorcycles「SR/S」に備えられたフルカラーの液晶メーター。選択中の走行モードなどのほか、面白いのがサイドスタンドが出ていることを示すアイコンがあること
Zero Motorcycles「SR/S」に備えられたフルカラーの液晶メーター。選択中の走行モードなどのほか、面白いのがサイドスタンドが出ていることを示すアイコンがあること

 今回は一般道路でしか走行できませんでしたが、高速道路で走らせたら、この素晴らしい加速を心ゆくまで味わえるんだろうな、と想像を膨らませてしまいます。最大航続距離が259kmというのも、頼もしい数字です。

 そして、各モードで異なる回生ブレーキもまた、走らせていて面白さを感じたところ。日本仕様ではエコ、ストリート、スポーツ、レインの4つのモードを選ぶことができ、それぞれ回生ブレーキの利きが異なります。

 エコモードでは最も回生ブレーキが強く、ストリートやスポーツモードでは回生ブレーキが弱くなっていきます。走行モードの名称だけ見れば、スポーツライディングにはスポーツモードが向いているのか、と思えるのですが、実際に走ってみれば、エコモードを使っても面白いかも、と思えました。というのも、エコモードは回生ブレーキが強めに利くので、回生ブレーキとブレーキでコントロールすることで、ある意味では内燃機関のバイクに近い走らせ方ができるからです。

モーターはシート下にあり、スイングアームピポットの出力軸と同軸に配置されている
モーターはシート下にあり、スイングアームピポットの出力軸と同軸に配置されている

 こうした走行モードごとに異なる走り方を模索しつつ走る、面白さがありました。スポーツライディングではなくとも、例えばツーリングで、先のルートを考えて走行モードを選びながら走る、そういう楽しみ方もできるでしょう。これほどまでにパワフルなポテンシャルがありながら、同時に電動バイクらしい静かさがあり、駆け抜けながら風が木を揺らす音が聞こえてくるのは、新鮮な体験でした。

 電動バイクらしく、そして同時に持つバイクとしての完成度の高さ。SR/Sはいわゆる内燃機関のバイクの電動版ではなく、電動バイクとして確立したバイクの一つではないでしょうか。

 XEAMが取り扱うSR/Sは、メーカー希望予定小売価格294万9,800円(消費税10%込み)となっています。

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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