電動バイクには変速機が搭載されていない?一体なぜ?
「変速機」はバイクに必須の部品のひとつですが、電動バイクには搭載されない傾向にあるといいます。これには、どういった理由があるのでしょうか。
電動バイクに変速機が搭載されていない?その理由とは
クルマ業界では、地球環境にクリーンで家計にもやさしい電気自動車(EV)の普及が進んでいます。その一方で、バイク業界ではクルマと比べると、ラインナップがまだまだ少ないのが現状です。それでも現在は、郵便や新聞などの配達業務では、積極的に電動バイクが導入されてきており、だんだんと世間の関心が高まりつつあります。

しかし、バイクを趣味として楽しむライダーの中には、電動化を歓迎しない人も少なくありません。理由としては、ガソリン車に比べての航続距離の短さや加速時の物足りなさ、バッテリーの充電時間の問題などがあるようです。

また、動力がモーターで静かなため、マフラーから発するエキゾーストノートを楽しめないといった、バイク特有の要因も挙げられます。加えて、電動バイクのほとんどの車種には、基本的に変速機が搭載されていません。そのため、ギア操作によるバイクを操る楽しさを味わうことができないのも、理由のひとつといえそうです。
では、なぜ電動バイクは変速機が搭載されない傾向にあるのでしょうか。
そもそもバイクの変速機の役割は、内燃機関(エンジン)の回転数やマシンに負荷をかけずに、より効率的にパワーを引き出せるようにギアをシフトチェンジすることです。

バイクの変速機には、一般的なMTバイクに搭載されている「リターン式」と、125㏄以下のカブなどのモデルに多く搭載されている「ロータリー式」があります。
例えば、リターン式のギアチェンジは、1速→N→2速→3速→4速→5速→6速のように、1速から6速の間を行ったり来たりするような構造になっています。一方のロータリー式のギアチェンジは、N→2速→3速→4速→Nのように、円を描くように循環するような構造が特徴です。
電動バイクの動力には、モーターが使用されています。車体に積んだバッテリーを介して電力が供給され、その電力でモーターが回転する仕組みです。その回転する動力が、前に進む力となって利用されているわけです。つまり、バイクの外観はほとんど変わらなくても、内燃機関(エンジン)の動力が、ガソリン車と電動バイクではまったく異なる構造になっているということです。

ちなみに、現在の電動バイクに搭載されているモーターは、「インホイールモーター」が主流となっています。インホイールモーターとは、その名のとおりホイール内に納まっているモーターで、構造がシンプルで非常にコンパクトなのが特長です。
また、トルク特性がフラットで変速機を必要とせず、モーターがホイールに直接つながっているため伝達ロスが限りなく抑えられ、レスポンスに優れているメリットがあります。トルクやパワーといったモーターの出力特性もガソリンエンジンとは、まったく違うものになっています。
ガソリンエンジンでは、クラッチや変速機の操作によって回転数を上げて最大トルクを発生させています。そして、そこに到達するまでに徐々にパワーが上昇していく仕組みです。
これに対しモーターの場合は、回転が始まると同時に最大トルクを発生するため、低回転時が一番トルクが強くなり、高回転になるほどトルクが低下するという特性があります。つまり、電動バイクはスタートの時点で最大トルクを発揮することが可能というわけです。これこそが、ガソリンエンジンにないモーターの最大のメリットであり、電動バイクに変速機が搭載されない理由といえます。

そうしたなか、電動バイクにもかかわらず変速機を搭載したモデルが発表されています。それが、台湾の二輪車メーカーであるKYMCOの電動スーパースポーツモデル「Super NEX」です。
Super NEXは、テクニックを重視するライダーでも充分に満足できるよう、6速トランスミッションを搭載し、バイクを操作する楽しみをエンジンモデル同様に再現しています。また、電動モーターの静かさを解消するため、エキゾーストノートを再現する世界初となる「アクティブ・アコースティック・モーター」を搭載。スーパースポーツモデルにふさわしいモーターサウンドを発生させることが可能です。なお、サウンドの種類や音量は好みに合わせて調整ができるのも嬉しいポイントとなっています。

そして、変速機の導入により走行性能もエンジンバイクに引けを取っていません。時速0km/hから100km/hまでを2.9秒、0km/hから200km/hまでを7.5秒、さらに0km/hから250km/hまでを10.9秒で到達するという驚異の加速性能を記録しています。
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電動モーターとガソリンエンジンでは、出力特性がまったく違うことが、電動バイクに変速機が搭載されない理由といえます。しかし、変速機を駆使してバイクを操ることは、ライダーの楽しみのひとつであり、なるべく残してほしい機能といえるかもしれません。
バイクの未来もクルマと同様に、電動化に移行していくことは確実といえます。今後どのような進化を遂げるのか、バイク業界の動きに注目していきたいところです。