【自転車の種類】流行の兆しアリ!? 共同作業で走るタンデム自転車とは
自転車にはその歴史のなかで驚くべき進化を遂げた車種が存在します。2人かそれ以上で乗る「タンデム自転車」は、見た目のインパクトも強烈ですが、自転車という乗り物の幅を広げる実用性の高さも特徴です。
自転車なのに、共同作業?
自転車にはその歴史のなかで驚くべき進化を遂げた車種が存在します。2人かそれ以上で乗る「タンデム自転車」は、前後に長いフレームの自転車に複数のサドルとペダルが装備され、複数人が前後に並んで乗車し、ペダルを漕ぐことで進む自転車です。

通常、自転車は1人乗り用なので、1人が自転車を運転して、もう1人が荷台などに乗ることは道路交通法違反になってしまいますが、「タンデム自転車」は一部地域を除いて、一般道の走行が許可されています。
見た目のインパクトからイロモノと思われがちですが、その実力は侮れません。まず、乗車している人がそれぞれペダルを漕ぐので、1人乗りよりも強い推進力が生まれます。単純に、2人で乗れば出力は倍になり、後ろ側に乗っている人は空気抵抗を受けにくいため、体力の消耗が軽減されます。
車体重量が重く、小回りが利かないといった弱点もありますが、高速走行については2人で別々の自転車に乗るよりも有利と言えます。
また、1台の自転車で同じ「風」を共有できるというのも大きな魅力です。1人乗りの自転車で複数の仲間と走ったとしても、走ること自体は孤独な作業です。しかし「タンデム自転車」なら、間近で励まし合いながらパートナーとペダルを漕ぐという、1人乗りの自転車では得難い体験を味わうことができます。この魅力に憑りつかれ、夫婦で世界一周旅行をしたという猛者もいます。
また、身体的に障害を持っている人でもサイクリングを楽しめるというのも「タンデム自転車」ならではの魅力です。最前部に健常者が乗って自転車をコントロールし、後方に障害のある人が乗ってペダルを漕ぐことで、日常生活では感じることができない風を感じることができます。
「タンデム自転車」の歴史は古く、1893年にデンマークのミカエル・ペデルセンが発明したと言われています。19世紀に入ってヨーロッパなどで流行し、1908年のロンドン五輪からは自転車の正式種目となりました。50歳代以上の人なら覚えているかもしれませんが、1972年のミュンヘン五輪まで「タンデム自転車」のスプリントは自転車競技のひとつとしてオリンピックを盛り上げていたのです。

その後50年、オリンピックの種目としては登場していませんが、パラリンピックでは注目を集める競技のひとつになっています。1996年のアトランタ大会で正式採用され、前方に「パイロット」と呼ばれる健常者が乗り、後方に「ストーカー」と呼ばれる視覚障害者が乗る競技は、選手2人のコンビ力も見どころです。
ちなみに、全くの余談ですが、1970年代を代表する日本の名作アニメ『ヤッターマン』で、悪役のドロンジョ、ボヤッキー、トンズラーの3人が、正義の味方に敗れたあと、命からがら「タンデム自転車」らしき乗り物で逃げるシーンがありましたが、よく見ると、あの自転車はペダルはあってもチェーンが無く、一輪車を前後に3台つなげただけという事が分かります。あれは「タンデム自転車」ではないので、ご注意(?)ください。
長い間、日本では「タンデム自転車」が公道を走ることは禁止されていましたが、その有用性が徐々に認められはじめ、2022年7月時点では東京・神奈川を除く45道府県で一般道の走行が許可されています。
もちろん普通自転車とは違うので、歩道を走行してはならないなどの制約はありますが、大切な仲間や家族、恋人と同じ「風」を感じられるサイクリング体験は格別です。また、これまで自転車に乗れなかった人に自転車で走る喜びを味わってもらえる大きなチャンスにもなります。
「タンデム自転車」が安全に走ることができる道路環境の整備と合わせて、今後に期待したいところです。