ベネリ「TRK251」に乗って感じた、スズキ「V-Strom 250」に通じる資質!?

イタリア発祥の名門バイクブランド「Benelli(ベネリ)」がラインナップする「TRK251」は、排気量249ccの水冷単気筒エンジンを搭載するアドベンチャーツアラーです。その走りにはどのような魅力があるのでしょうか。試乗しました。

主軸を大排気量車からミドル以下に変更

 改めて振り返ってみると、十数年の停滞・空白期間を経て、1990年代後半に復活したイタリアの名門「Benelli(ベネリ)」に対して、2000年代中盤頃の私(筆者:中村友彦)は、2度目の終焉は時間の問題かも……という印象を抱いていました。と言うのも、当時のヨーロッパの2輪業界では、古豪の復活がちょっとしたブームになっていたのですが、それらの多くは数年で消滅、あるいは、計画段階で頓挫していたのです。

ベネリ「TRK251」に試乗する筆者(中村友彦)
ベネリ「TRK251」に試乗する筆者(中村友彦)

 もっともベネリの場合は、2000年代初頭に発売した並列3気筒エンジンの「トルネード900」や「TNT」シリーズが世界中で大きな注目を集め、それらに対するメディアの評価は良好だったので、一発屋でも企画倒れでもありませんでした。ただし、生産と販売は上手くいかなかったようで、業界内で話題になる機会は徐々に少なくなっていったのです。

 そういった状況を経て、ベネリは2005年に中国のQ.J.グループの一員になったのですが、当時の私は会社の体制変更に大きな期待はしていませんでした。ところが、以後のベネリは着実にラインアップを拡大し、現在の本社のウェブサイトには11台のモデルが並んでいます。つまり、かつての私の予想は大ハズレだったわけです。

 では、同社が堅実な成長を実現できた理由は? というと、それは大排気量車からミドル以下への主軸の変更だと、私は感じています。

オンロード重視のキャラクター

 ベネリがアドベンチャーツアラーというジャンルに参戦を開始したのは、Q.J.グループの一員になってからで、2006年に登場した「Tre1130K」と、その派生機種として開発された2007年以降の「Amazonas」は、既存の並列3気筒車をベースにしていました。

ベネリ「TRK251」※試乗車両にはウインドスクリーンのスポイラーやハンドルのスマホマウント、サイド&トップケースなどのアクセサリーを装着
ベネリ「TRK251」※試乗車両にはウインドスクリーンのスポイラーやハンドルのスマホマウント、サイド&トップケースなどのアクセサリーを装着

 そして以後の同社は、なかなか新規のアドベンチャーツアラーを開発しなかったのですが、2017年に並列2気筒の「TRK502」を、2018年には単気筒の「TRK251」を世に送り出し、2021年からは日本市場でも「TRK251」が購入できるようになりました。

 2台の「TRK」で私が最初に興味を惹かれたのは、素性がスズキの「V-Strom(ブイ・ストローム)」と似ていることです。具体的な話をするなら、「TRK502」は「Vストローム650」と同様に、車体関連部品の多くを専用設計しているのですが(エンジンは「レオンチーノ500」から転用)、「Vストローム250」が「GSR250」から基本設計の多くを転用したように、「TRK251」は「レオンチーノ250」との共通部品が非常に多いのです。

 と言っても、外装部品やライディングポジション関連パーツ、フロントフォーク、マフラーなどは専用設計ですが、25.8psを発揮する水冷単気筒エンジンや鋼管トレリスフレーム、前後17インチのキャストホイールなど、運動性能を左右する大物は同じ部品が使われています。

 日本市場における「TRK251」のライバルは、前述した「Vストローム250」に加えて、ホンダ「CRF250ラリー」、カワサキ「ヴェルシス-X250ツアラー」、KTM「250アドベンチャー」でしょう。

 とは言え、オンロード重視のタイヤや前後サスペンションの設定(フロントのストローク量は「レオンチーノ250」+10mmの135mmで、リアは「レオンチーノ250」と同じ60mm)、60万円台の価格、500km以上の航続可能距離などを考えると、やっぱり直接的な競合車は「Vストローム250」になりそうです(他3車はオフロードを意識した足まわりで、航続可能距離は400km台)。

どんな用途にも使える、守備範囲の広さ

 アドベンチャーツアラーにしては、ハンドルの絞り角が強めで、シートが低く、ステップ位置が前寄り。というのが、「TRK251」に対する私の第一印象です。そんな中途半端なライディングポジションを通して、「このジャンルの決まり事を、ベネリはまだわかってないんだろうなぁ」と思いました。

パワーユニットは排気量249ccの水冷単気筒DOHC4バルブ。最高出力19kw/9250rpmと最大トルク21.1Nm/8000rpmを発揮
パワーユニットは排気量249ccの水冷単気筒DOHC4バルブ。最高出力19kw/9250rpmと最大トルク21.1Nm/8000rpmを発揮

 しかし今回の試乗で気になったことはそれだけで、しかもしばらく走るうちに違和感はほとんど消えたのです。これは私にとっては意外な事態で、過去に体験した250ccクラスのアドベンチャーツアラーでは、車体の重さやエンジン特性に違和感を抱いたり、「兄弟車のほうが魅力的?」と感じたりすることがあったのですが、「TRK251」の場合は余計なことを考えずに、走りに没頭できました。

 いや、没頭という表現は語弊があるかもしれません。と言うのも、このバイクは走りに夢中になるのではなく、目的地に向かって淡々と走るほうが似合っているのです。乗車中に、バイクのほうから何らかの個性をアピールしようという気配はなく、すべてのパーツがやるべき仕事を粛々とこなしている……という雰囲気です。

 具体的な話をするなら、まずエンジンは6000rpm近辺からがパワーバンドですが、それ以下の回転域でもレスポンスは良好でスムーズに回ってくれますし、シャシーは大前提としてシットリした安定感を備えつつも、乗り手の操作に対する反応は従順です。

 また、前後ショックの作動性やブレーキの操作感は至ってナチュラルで、どんな場面でも過不足ない動きと利きを見せてくれます。

乗り手の操作に従順で、淡々と走るキャラクターだと感じる
乗り手の操作に従順で、淡々と走るキャラクターだと感じる

 そういった特性をどう感じるかは乗り手次第で、面白味に欠けると感じる人がいるかもしれません。しかし私は大いにアリだと思いました。おそらく、いい意味で黒子に徹してくれるこのバイクなら、近所の買い物から高速道路を使ってのロングランまで、どんな用途にも過不足なく対応してくれるでしょう。

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 ベネリ「TRK251」の価格(消費税10%込み)は64万9000円、製造国は中国です。日本における輸入販売は株式会社PLOT(プロト)が行なっています。

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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