新しくなったヤマハ「YZ450F」はライバルにも自分にも勝てる!? モトクロスがもっと面白い!!

レースでナンバーワンを獲るために──ヤマハ・モトクロス競技車の最高峰モデル「YZ450F」がエンジン・車体ともに刷新されフルモデルチェンジしました。2001年に登場したクラス初の4ストモトクロッサー「YZ250F」を当時いち早く購入した青木タカオさんが、スポーツランドSUGO(宮城県柴田郡)で初ライドします。

「成長した」という充実感が得られる

「やった、勝った!」ジャンプを飛びきった瞬間にそう確信し、達成感に満たされる筆者(青木タカオ)です。自分の実力を出し切るモトクロスって、やっぱり面白い!! 充足感が得られて、またもうワンステップ上の走りを目指したい。次は攻略が難しいあのセクションでも勝負だ……。

ヤマハ新型「YZ450F」(2023年型)に試乗する筆者(青木タカオ)
ヤマハ新型「YZ450F」(2023年型)に試乗する筆者(青木タカオ)

 と言いっても、誰かとレースをしているわけではありません。フルモデルチェンジした2023年型ヤマハ「YZ450F」に乗って、1人でモトクロスコースを走っているのです。

 最初は飛びきれなかったジャンプでしたが、周回を重ねていくうちに飛び越すことができるようになり、スムーズに曲がれなかったコーナーもだんだんと上手く旋回でき、気持ちよく立ち上がれるようになりました。つまり、自分が上達したと言っていいでしょう。

 上手くなったと感じるには、マシンを操る感覚が伴ってなければなりません。思い通りの素直な操作性で、コーナリングでは軽快に倒し込め、レーンチェンジも俊敏。ラインの自由度があり、コーナーの出口でアクセルを開ければ路面をしっかりととらえ、力強く押し出すようなトラクションション性を感じつつ加速できます。

ヤマハ「YZ450F」(2023年型)※オフロード競技用モデル
ヤマハ「YZ450F」(2023年型)※オフロード競技用モデル

 ヤマハ発動機YZシリーズ企画&マーケティング担当の小川尊史さんは「あらゆるユーザーを勝者にしたい」と言い、「レースで勝つことはもちろんですが、いつも一緒に走っている仲間に勝つことであったり、過去の自分自身に勝つことだって勝者です」と、教えてくれました。

 つまり、冒頭で述べたとおり筆者も「ウイナー」というわけです。今回、新型「YZ450F」のおかげで、自分の能力をより多く引き出し、成長できたのですから!

勝ち続けていても、フルモデルチェンジ!!

 事実、「YZ450F」は国内外の最高峰クラスでも数多くのタイトルをもたらしています。2021年にディラン・フェランディス、2022年にイーライ・トマックでAMAモトクロスを連覇し、AMAスーパークロスでもイーライ・トマックが今シーズンのチャンピオンを獲得しています。

青木タカオ(筆者)が「スポーツランドSUGO」のインターナショナルモトクロスコースでヤマハ新型「YZ450F」(2023年型)を初ライド!!
青木タカオ(筆者)が「スポーツランドSUGO」のインターナショナルモトクロスコースでヤマハ新型「YZ450F」(2023年型)を初ライド!!

 モトクロス世界選手権ではマニュファクチャラーズタイトルに輝き、全日本選手権でも富田俊樹が現在ランキングトップとなっています。

 小川さんによれば「マシンの安定性、エンジンの扱いやすさがトップレベルのライダーにも好評」とのこと。

 こうした輝かしい実績があり、レースで順調に勝っているにも関わらず、ヤマハは「YZ450F」をフルモデルチェンジしました。小川さんは「歩みをとめない。勝っていても満足せず、さらなる高みを目指していきます」と、胸を張ります。

骨格を強化しつつ、軽量化を実現

 プロジェクトリーダー石埜敦史さん(ヤマハ発動機OV開発部YZグループ)は、技術説明会で「変更点が多過ぎて説明がたいへんなので、従来モデルと共通としている部分を話したほうが早いと考え、“逆”フィーチャーマップをつくりました」と切り出しました。フレーム、エンジン、すべてが新作で、進化ポイントは多岐に渡っているのです。

ヤマハ「YZ450F」(2023年型)※オフロード競技用モデル
ヤマハ「YZ450F」(2023年型)※オフロード競技用モデル

 実際に乗って感じるのは、450クラスとは思えない軽さです。数値的にも重量を2.3kg減らし、従来型と比較すると車体だけで1.2kg、エンジン単体で1.1kgの軽量化を達成しました。

 エアクリーナーで400g、フットレストブラケットで220g、燃料タンクやリアフレームで200gなど、全構成部品におよぶ見直しによって、装備重量を109kgにまで絞り込んでいるのです。

 ただし石埜さんは「軽くするだけではバタバタと暴れ、リラックスして乗れなくなってしまいます。メインフレームやエンジン懸架ではあえて300g増量し、荒れた路面に対するタフネスを向上しました」と教えてくれました。

 10種以上のアルミ製構成部品を相互に溶接し、各部材の挙動を最適にバランスさせた新設計バイラテラルビームフレームは、ダウンチューブの断面積を増やし剛性を確保しました。

跨った瞬間に、イケると感じる!

 跨ると、車体がよりスリムでフィット感が向上していることがわかります。シート下にある燃料タンクの幅が6mm短縮され、シュラウドの幅も50mm抑えられたことで、コーナーでシッティングポイントを前寄りに移すときもスムーズに身体を動かせるし、下半身でのホールドがしやすくなりました。

吸気構造の大幅な見直しでシュラウドのスリム化を実現し、前乗りしやすく跨った瞬間にマシンとの一体感が得られる
吸気構造の大幅な見直しでシュラウドのスリム化を実現し、前乗りしやすく跨った瞬間にマシンとの一体感が得られる

 また、コーナーアプローチで感じる軽快でクセのない倒し込み感覚やレーンチェンジでの俊敏性は、車体の軽量化だけでなく、ヘッドパイプとタンクレールの連結部を15mm引き下げたことの影響が大きく、ライダーの意思に遅れのないクイックなハンドリングをもたらしています。

 メインフレームを見ると、至るところに小さい孔が開けられているのが目視できますが、「これは剛性調整のためで、最適な孔の大きさは何ミリなのか徹底追求しました」と、石埜さんが説明してくれました。

 良好なトラクションを生み出すため、リアアーム保持部に適度なたわみを持たせるように形状を見直したほか、リアアクスルシャフト内径を従来モデルの径20mmから20.5mmに拡大するなど、シャシーは細部までとことん手が加えられています。

エンジンもオールニュー、電子制御も充実!!

 車体同様、パワーユニットもオールニューとしているから目をみはります。高剛性シリンダーボディやクランク、アルミ鍛造ピストン、すべてを完全新作としたDOHC4バルブエンジンは、マルチアングルオーバル形状を吸気通路の狭くなるスロート部に採用し、吸入空気量を増大。チタン製の吸気バルブは径37mmから39mmにスケールアップし、最大リフト時の吸入空気量を9%高めています。

こだわりが過ぎるヤマハの開発陣。YZ450Fプロジェクトリーダーの石埜(いしの)さん(右)から説明を受ける青木タカオ(左)
こだわりが過ぎるヤマハの開発陣。YZ450Fプロジェクトリーダーの石埜(いしの)さん(右)から説明を受ける青木タカオ(左)

 低速域でのトルクをキープしつつ、中高速域での出力を向上。レブリミットの回転数を500rpm上げ、最大出力は5PSアップしました。それでいて、エンジンの幅を8.5mmコンパクト化し、エアクリーナーエレメントの整備性も改善。より「戦える」エンジンに生まれ変わっているのです。

 3段階で調整できるトラクションコントロールも備わり、ローンチコントロールにはレブリミット機能も追加。そうした電子制御も含め、直観的で容易にセッティングできる専用アプリ「パワーチューナー」は表示内容やインターフェイスを一新し、より使いやすくなりました。

 ラップタイム計測機能が新たに設けられ、サスペンションやエンジンはFAQ方式でセッティングを進められるから親しみやすい。

 新型「YZ450F」は、レース派たちには表彰台の真ん中が狙えるマシン、ファンライドを愉しむ層には、よりモトクロスが楽しくなるマシンだと言えるでしょう。

※ ※ ※

 完全新作となった「買いに行けるファクトリーマシン」、ヤマハ「YZ450F」(2023年型)の価格(消費税10%込み)は115万5000円です。※生産可能数の上限に達したため予約受付は終了しています

【画像】ヤマハ新型「YZ450F」(2023年型)をもっと見る(20枚)

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Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。

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