ネオクラ火付け役のBMWが手掛ける正統派ロードスポーツ!! 「S1000R」は突出した運動性能の持ち主

「R nineT」で「ネオクラ」ブームを巻き起こしたBMWモトラッドは、その一方で正統派スポーツネイキッドにも真正面からアプローチし、リリースし続けています。スーパーバイク直系となる排気量999ccの並列4気筒エンジンを搭載する「S 1000 R」に試乗しました。

モデルラインナップのカテゴライズが秀逸!

 昨今トレンドとなっているのが「ネオクラシック」あるいは「レトロモダン」と呼ばれるモデルたち。BMWモトラッドが2014年に発売した「R nineT(アール・ナインティ)」シリーズはその火付け役とも言える存在で、往年のレジェンドモデルをオマージュしたスタイルの中に、トラディショナルなムードを漂わせるモデルとして人気を博しています。

BMW Motorrad「S 1000 R」に試乗する筆者(青木タカオ)
BMW Motorrad「S 1000 R」に試乗する筆者(青木タカオ)

 その一方で、正統派スポーツネイキッドへの探求にも一貫した姿勢を見せています。最高峰スーパースポーツのカウルを脱ぎ捨て、エンジンを最適化するとともにネイキッドならではの軽快なハンドリング、アップライトな乗車姿勢がもたらすコンフォート性など、「ロードスター」のあり方を正面から真摯に徹底追求する開発・設計思想は高い評価を受けて然るべきでしょう。

 1923年から深い信念をもって作り続ける伝統のボクサーツインを心臓部にした「R nineT」系や、BMWモトラッド史上最大の排気量を持つ「R 18」シリーズを「Heritage(ヘリテイジ)」とし、「S1000R」や「R1250R」、「F900R」、「G310R」などを「Roadster(ロードスター)」と位置づけて差別化。それぞれのあるべき姿、価値が明確化されたラインナップには舌を巻く筆者(青木タカオ)なのでした。

アクセルを開けるのが楽しい

 今回はロードスターの最高峰であり、ラインナップの柱となっている「S1000R」に乗りました。200馬力超えのスーパースポーツモデル「S1000RR」譲りの並列4気筒DOHC4バルブエンジンは、カタログ値では最高出力を165馬力に抑え、可変バルブタイミング機構が採用されていないものの、低回転域から痛快なほどにトルクフルで、高回転域まで気持ちよく吹け上がっていきます。

BMW Motorrad「S 1000 R」カラー:ライト・ホワイト/Mモータースポーツ(Mパッケージ専用グラフィック)
BMW Motorrad「S 1000 R」カラー:ライト・ホワイト/Mモータースポーツ(Mパッケージ専用グラフィック)

 強烈なパワーをいつでもどこからでも発揮しつつも気難しさがなく、スロットルワークに神経質にならなくていいから、どんどんアクセルを開けてアグレッシブな走りが堪能できます。

 試乗したのは最上級グレードの「Mパッケージ」です。アクラポヴィッチ製のスポーツサイレンサーを標準装備しているので、すぐにそれとわかります。軽量化はもちろん、バンク角を稼ぐトライオーバル形状も戦闘力の高さが一目瞭然です。

本性は、並みはずれた怪物

 プレミアムラインからはライディングモードに「レイン」、「ロード」、「ダイナミック」、「ダイナミックプロ」の4種類をデフォルトで設定しますが、いずれのモードでも電子制御スロットルに対するレスポンスが忠実で、唐突さやダルさが無く思うがまま、シーンや状況に合わせてダイレクトに応答してくれます。

「ダイナミックプロ」はもっともアグレッシブなモードで、常用するミドル領域からレスポンスが鋭くなり、ダッシュもより強烈に。高回転まで引っ張り上げたときのパワーの盛り上がりは、ケタ違いの超弩級モンスターと言えるものでしょう。

 スーパースポーツのように腰から曲がっていけば、ワインディングでは軽快でクセのないハンドリングが楽しく、いつまでもコーナーと僅かばかりの直線の繰り返しが果てしなく続いて欲しいと思ってしまうほどです。

 コーナー進入でのシフトダウンもエンジンブレーキに制御が入り、スムーズにアプローチできますし、たとえ車体が寝た状態でブレーキが必要となっても、バンク角に応じるABSプロであることが安心感につながっています。

疲労の少ない、上体の起きたライディングポジション

 本領を発揮するのはストップ&ゴーを繰り返す市街地よりもワインディングやサーキットですから、重要度は足つき性よりも走りのポテンシャルの高さが上回るのかもしれません。とは言うものの、足つき具合は身長175cmの筆者の場合、腰をずらして片足立ちならカカトまで地面に届き、車体をしっかり支えることができます。

シート高830mmの車体に身長175cmの筆者(青木タカオ)がまたがった状態
シート高830mmの車体に身長175cmの筆者(青木タカオ)がまたがった状態

 シート高は830mmで、オプション設定のローシートでは810mm、ハイシートでは850mmです。日本仕様ではタンデム(2人乗り)を考慮したパッセンジャーキットを標準装備しています。

 アップハンドルによって上体を起こし気味で乗れるので、長い時間乗っても疲れにくく操作性もイージーです。ハンドル切れ角が先代より5度(27度から33度へ)増え、扱いやすさが増したことも好感触を抱く要因をさらに増やしています。

リアルに休日を想像すると、最適な相棒かも

 電子制御サスペンションのDDC(ダイナミック・ダンピング・コントロール)は、ボタンひとつで「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」の3種が選べ、減衰特性を切り替えられます。

高速道路を淡々と移動する際も、意外と苦にならない
高速道路を淡々と移動する際も、意外と苦にならない

 プレミアムラインからはクルーズコントロールも備わっているため、「コンフォート」との組み合わせで高速道路をゆったり流すことも苦にしません。ワインディングやサーキットまでの移動を淡々とこなすことを苦手としないのは、休日のツーリングでも大きな魅力となるでしょう。

 バイクと向き合う1日をリアルに想像すると、最適な相棒と言えるかもしれません。

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 BMWモトラッド「S1000R」の価格(消費税10%込み)は195万3000円からとなっています(グレードや装備によって異なる)。

【画像】BMW Motorrad「S 1000 R」を詳しく見る(20枚)

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Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。

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