「仮面ライダーBLACK SUN」登場バイク製作者 世界的カスタムビルダー「チェリーズカンパニー」が語る製作秘話
「仮面ライダー生誕50周年企画作品」のひとつとして配信されている「仮面ライダーBLACK SUN」登場バイクについて、製作者の黒須嘉一郎氏に話を伺ってみました。
キャラクターに応じたベース車選び
1971年4月から1973年2月までNET系列(現テレビ朝日系列)で放映され、昭和から平成、令和と全38シリーズが制作された『仮面ライダー』。現在、『仮面ライダー生誕50周年企画作品』のひとつとして庵野秀明監督による『シン・仮面ライダー』が2023年3月18日から公開され、話題となっていますが、同じく『50周年企画』として昨年10月より現在までAmazonプライムで配信されているのが『仮面ライダーBLACK SUN』です。

現在、公開中の『シン』にしてもライダーのパンチやキックで敵から血しぶきが飛ぶリアルな描写が話題となっていますが、『BLACKSUN』も、映画『凶悪』や『孤狼の血』のメガホンをとった白石和彌監督作品らしく、どちらかというと大人向けの社会派な内容となっており、これまでの『仮面ライダー』とは一味違う空気感となっています。

無論、そこに登場するバイクにしても白石作品らしく『リアルさ』が追求されているのですが、劇中で西島秀俊さん演じる南光太郎が駆る『バトルホッパー』や先日、日本テレビの水卜麻美アナウンサーとの結婚を発表したばかりの中村倫也さんが演じる秋月信彦が乗る『ロードセクター』の製作を担当したのが東京のショップ「チェリーズカンパニー」の黒須嘉一郎氏です。
ちなみにチェリーズカンパニーといえば2012年から2014年まで我が国最大のアメリカン・カスタムカルチャーの祭典である「YOKOHAMAホットロッドカスタムショー」で3年連続でベスト・オブ・ショーモーターサイクルの栄冠に輝き、現在では海外のカスタムショーにもゲストとして招聘。
BMWやハーレーなどのメーカーからカスタム製作を依頼されるトップビルダーとして業界では認識されていますが、同店のカスタムの特徴といえるのがスタイルと走りを高次元で両立するという部分でしょう。そうした点も“リアルさ”を求める制作陣の琴線に触れたようです。
実際、劇中車の製作に携わった黒須嘉一郎氏も「ウチに求められた部分もやはりカタチだけ、セットデザイナーさんの要望どおりに造るのではなく、実際に存在するようなリアルなバイクの空気感を求めた結果なのでは?」と語ります。
「最初、この話をいただいた時に“チェリーズカンパニーが製作する意味”というものは考えましたよ。たとえばデザイナーさんの望むカタチであれば良い、というだけなら今の時代なら3Dプリンターを使って立体物を造ればイイじゃないですか? でもそれより白石監督が追求したのは“リアリティ―”。なのでデザイナーさんが決めた大まかなデザインを基に通常のカスタムのように製作したんです。
その上で気をつかったのが物語で描かれるのが1970年代から続くという時代背景と主人公たちの置かれた立場とでもいえばいいでしょうか。
西島秀俊さんが演じる南光太郎は組織を離れた一匹狼的なキャラクターなので、バトルホッパーはあえてDIYのハンドメイドっぽい雰囲気に仕上げて、逆に中村倫也さんのシャドームーンが乗るロードセクターはゴルゴムという巨大組織が製作したものなので、どちらかというとメーカーカスタム的な空気感というか。そういうスタイルを提案させていただきました」。

ビルダーの黒須氏が語るとおり、バトルホッパーとロードセクターはそれぞれが異なる雰囲気に仕上げられているのですが、聞けばベースマシンの選択や細かいカスタムビルドに関してはチェリーズカンパニーに一任されたとのこと。当初、バトルホッパーは時代背景的にベースをホンダCB750ドリームのKシリーズにしようと計画していたとのことですが中古市場価格があまりに高騰しているゆえ却下。結果として1980年のホンダ「CB750F」がベースマシンに選ばれているのですが、エンジンには米国のチューニングパーツメーカー、“MR TOURBO”のターボチャージャーキットが装着されています。
ちなみに“MR TOURBO”はCB750Fターボを’80年代にコンプリート販売していたのですが、北米仕様の裏コムスターホイールを見る限り、どうやらこのマシンがロードホッパーのベースとなったのは間違いないでしょう。もちろん、外装はチェリーズカンパニーの手によってワンオフ(一品もの)で製作されており、金属を使用した卓越のメタルワークが施されたものとなっています。
またこのバトルホッパーはプレミアムバンダイから『S.H.Figuarts バトルホッパー
』として2023年5月にフィギュアがリリースされる予定とのことです(予約は2023年2月5日に終了)。
BMW Motorrad「R nineT」をベースにした「ロードセクター」
一方のロードセクターは、BMW Motorrad「R nineT」をベースにしたチェリーズカンパニーのコンプリートカスタム「Highway Fighter」をモデファイしたもので、シャドームーン用にシルバーとグリーンのペイントが施されています。

ちなみにこの“Highway Fighter”は、BMW Motorradが2014年にRnineTを発表した際、プロモーションの一環として日本のビルダー数名を選び、カスタムを製作する“RnineTカスタムプロジェクト”という企画で第一号機が完成。
現在も100台限定をうたい、コンプリート製作されているのですが、その顧客には日本国内のみならずハリウッド・スターのブラッド・ピットやアジア、ヨーロッパなど多くの人が名を連ね、2022年に公開された映画、“THE BATMAN”でもミュージシャンのレニー・クラヴィッツの実娘であるゾーイ・クラヴィッツが演じたキャットウーマンの愛車としてスクリーンに登場しています。
バトルホッパーとロードセクター、そのどちらも一台のカスタムバイクとして評価しても、かなりのレベルに仕上げられているのですが、いずれも“走りとスタイル”を両立するもので、その走る姿は現在、配信中の“仮面ライダーBLACK SUN”の中でも確認できます。これらの車両を製作する上で、やはりチェリーズカンパニーの黒須氏が当たり前のこととして留意した点が、役者さんが普通に無理なく走れるよう真っ当なオートバイとして仕上げたという部分です。

現在同じく“仮面ライダー”50周年作品として公開されている“シン・仮面ライダー”に登場したサイクロン号も先日、開催された東京モーターサイクルショーに展示され、話題を呼びましたが、Amazonプライムで配信されている『仮面ライダーBLACK SUN』もカスタム好きの目線でみると見所十分。世界レベルのカスタムマシンの走行シーンを堪能できる作品として鑑賞してみるのも一興ではないでしょうか。
Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)
ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。