シンプルなデザインだからこそ、カスタムの可能性を感じる 新時代の水冷DOHCハーレー「ナイトスター スペシャル」
ハーレーダビッドソンの最新モデル「ナイトスター スペシャル」の乗り味や装備などについて渡辺まことさんがレポートします。
空冷モデル時代のスタイルを彷彿とさせる水冷スポーツ最新作
2022年に日本限定1300台のみが販売された「XL1200フォーティーエイト・ファイナルエディション」で幕を下ろしたハーレーダビッドソン・空冷スポーツスターの歴史……それは、すなわち“水冷スポーツスター”による新たな時代の到来を示すのですが、その中で、かつてのXLH883のような最もベーシックな位置づけにあるのが「ナイトスター」です。

ハーレーダビッドソン(以下:ハーレー)の“スポーツ”シリーズ、そのフラッグシップというべき「スポーツスターS」に搭載された水冷60度DOHC4バルブ“レボリューションMAX”エンジンが1252ccでパワー121hp/7500rpm、トルク125Nm/6000rpmを発揮するのに対して、ナイトスターは排気量975ccでパワーも89hp/7500rpm、トルクは95Nm/5750rpmと若干、控えめなスペックなのですが、逆に“じゃじゃ馬”と称される“S”に比べてビギナーにオススメしやすいモデルといえるでしょう。
今回はそのナイトスターのニューバージョンである「ナイトスター スペシャル」に試乗する機会を得たのですが、このモデルはメーターにすべてのインフォテイメント機能を集約する4インチ丸型TFTスクリーンを搭載し、ハンドコントロールで5つのライドモード(スポーツ/ロード/レイン/カスタム2種)に変更可能。
また、通常版のナイトスターと同じく“スペシャル”もABSや雨天の際など加速時に後輪が過度に空転するのを防ぐトラクションコントロールシステムが採用されています。

ルックス的にはビキニカウルが装着され、タンデム仕様となり、タイヤ空気圧モニタリングシステム(TPMS)搭載の新デザイン・アルミホイールが装着されているのがベーシックなナイトスターとスペシャルの相違点ですが、このフェアリングの採用によって、そのスタイルはどことなく往年の「XLCR」を彷彿させるもの。
1977~78年にかけて生産されたハーレー初のカフェレーサーも、それまでの購買層とは違う新たなファンを獲得しましたが、このナイトスタースペシャルにしても然り。軽快さが期待できるルックスは典型的なハーレー好きでない方も購買意欲をそそられそうです。

走りの実力は……
実際、このナイトスタースペシャルに跨ってみたところ、やはりこれまでのハーレーとは大きくイメージが異なりましたが、まず驚かされたのが車体の軽さ。サイドスタンドを跳ね上げ、車体を起こしてみると驚くほど軽くなっており、聞けばその車両重量は225kg。2002年のXL1200Xフォーティーエイトの252kgと比較してもかなりの減量が果たされているのですが、乗車した印象はスペック以上に軽さを感じさせるものとなっています。
とはいえバイクを走らせた時、車重以上にハンドリングの軽さを印象づける要素には、サスペンションの動きや車体のディメンションなど様々な要素がからみあうのですが、今回のナイトスタースペシャルに関していえばハンドリングは若干、重いというかコーナリング時にフロントが外に逃げようとするアンダーステア気味(ほんの少しなのですが)な印象だったのも正直なところです。

おそらくこれは、サスの戻り(伸び)のセッティングが要因なのでしょうが、こうした部分はセッティングやパーツの変更で簡単に改善できるでしょう。
また、軽やかに回るエンジンにしても、街中では必要にして十分なパワーなのですが、同じ水冷60度DOHCのレボリューションマックスを搭載した「パンアメリカ」や「スポーツスターS」と比較してしまうと大人しい印象。
これは1252ccのパンアメリカやスポーツスターSに比べて小さい975ccというナイトスターの排気量設定上、仕方ないのかもしれませんが、空冷時代のスポーツスター883のようなコンセプトゆえと推測できます。往年の空冷スポーツスターも1200ccモデルと883ccモデル(アイアンスポーツ時代には998 ccも存在)があり、それぞれに良さがありましたが、今回の975ccレボリューションマックスと1252ccのフィーリングの差は、そうした狙いゆえかもしれません。

もちろん、かつての883が気楽に街乗りを楽しめるフィーリングだったのと同じようにナイトスタースペシャルもシティコミューターとして十分な性能が与えられており、ユーザーの好み次第でコチラの方を評価する方もいるかもしれません。
また、過去のハーレーがそうであったようにアフターマーケットの市場が充実すれば自分好みにカスタマイズできるでしょう。水冷レボリューションマックスを搭載した“スポーツ”シリーズの中で空冷時代のスポーツスターのデザインを色濃く残すシンプルさは、それはそれで魅力です。70年代のハーレーを彷彿とさせるロゴデザインも、ナイトスタースペシャルというモデルに似合っています。
過去を振り返ってもハーレーというバイクは“ノーマルのまま”の状態では魅力のすべてを評価できません。やはり(もちろん合法の範囲内で)ユーザーひとりひとりが自分の好みに合わせてカスタムを施すこともハーレーの大いなる魅力のひとつではないでしょうか。
往年のスポーツスターの雰囲気を残すナイトスターもナイトスタースペシャルも、シンプルな分、カスタムベースとしての可能性が広がります。
Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)
ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。